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硝酸薬耐性の発現について

1999年11月1日号 279  

 

 臨床の現場で硝酸薬耐性を認識する指標は、狭心症であれば患者の自覚症状、心電図によるST変化、運動負荷による運動耐容能などで、また、心不全であれば各種血行動態を調べることです。

 最近、細胞内での作用機序に注目した生化学的指標として、血小板cGMP濃度の測定や動静脈の血漿cGMP濃度較差の測定が提唱されましたが、その有用性についてはさらなる検討が必要です。

{参考文献}医薬ジャーナル         1999.9

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<狭心症での硝酸薬耐性>

 現在までに狭心症治療での硝酸薬耐性は、静注薬または経皮吸収薬のNTG、経口薬または経皮吸収の硝酸ISDN、ISMN(注:下記参照)に関して報告されています。

 安定狭心症患者に各種用量の経口薬のISMNを与薬すると、運動耐容能は8時間後まで増加しますが、1日4回のISDN投与を1週間続けたところ、ISDNの血中濃度が高いにもかかわらず、運動耐容能は2時間までしか増加せず、最大効果も著明に減弱したとの報告があります。

 また、安定狭心症患者に経皮吸収薬NTGを貼付しトレッドミル運動負荷試験を行い、胸痛発現までの時間を検討すると、貼付後2時間と4時間後には胸痛発現までの時間が延長していたが、24時間後にはその効果は消失していたことが報告されています。

 最近米国で各種用量NTG貼付薬とプラセボでの比較試験が行われ、その報告によるとNTG貼付薬与薬4時間後の運動耐容能は増加していましたが24時間後ではプラセボと変わりがなく、耐性が生じ、また1日1回のNTG貼付薬を8週間連日与薬すると、最大105mgの投与でもその効果はプラセボと差がなかったとして、この現象は用量と関係がなく発現することが認められました。

(注:当院にある硝酸薬)

ISMN:アイトロール錠

ISDN:ニトロール錠、ニトロールR

NTG:ミオコールスプレー、ニトロダームTTS、ヘルツァー

<硝酸薬耐性の回避法>

 硝酸薬耐性を回避するための多くの戦略が報告されています。残念ながら耐性の機序は十分解明されていないため、今日に至るまで耐性を回避する方法は確立していません。現在、提唱されている方法には、硝酸薬の間歇使用と併用療法があります。

*間歇使用法〜1993年にFDAがその勧告としてすべての硝酸薬で血中濃度を変動させて耐性を予防することが必要と発表しましたが、その後、硝酸薬の間歇使用での問題点が指摘され、休薬期間に硝酸薬の血中濃度が低下し、狭心症発作が誘発される、いわゆるリバウンド現象が報告されています。

 FDAの勧告でも、不安定狭心症または心筋梗塞後狭心症の患者で持続静注療法を受けている患者や、左室拡張末期圧と肺動脈楔入圧に対する効果が最優先となる心不全患者では間歇療法を推奨できないとしています。わが国では、冠攣縮が関与した狭心症が欧米に比べて多いと考えられているため、夜間の休薬には注意を要すると思われます

*併用療法〜間歇療法の限界が指摘され、硝酸薬耐性を回避するための各種薬剤(ACE阻害剤・アンジオテンシンU受容体拮抗薬、ヒドララジン、利尿剤、SH基ドナー、抗酸化剤など)との併用療法が報告されていますが、どれもまだ確立されたものではありません。

◎実際の臨床現場では、間歇療法に固執したり、はじめから併用療法を選択する必要はありませんが、持続製剤の長期使用には注意する必要です。

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個々の症例の病態に応じて硝酸薬を選択し、耐性が発現した場合には、間歇療法を含めてその投与方法や投与量の変更を検討し、さらに併用療法も考慮することで対処することになるであろう。

今後、耐性の機序に関する研究の進展及び臨床的に有用な耐性の指標の確立により、耐性の回避を視野に入れた硝酸薬の投与法が確立できるものと考える。

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  うっ血性心不全治療での硝酸薬耐性

 うっ血性心不全患者での硝酸薬の短期的及び長期的効果は肺動脈圧と肺動脈楔入圧を低下させることです。

 静注薬または心不全治療薬のNTG、経口薬のISDNに関して耐性が報告されています。


<<医学・薬学用語解説>>

プレコンディショニング

出典:ファルマシア 2001.4

 心臓を長期にわたって虚血にされすと心筋細胞は死んでいきます。しかし、あらかじめ短時間心臓を虚血にさらしておくと続く虚血に対して耐性を獲得し、次の虚血にある程度耐えることができるようになります。この現象をプレコンディショニングに呼んでいます。

 このメカニズムの解明は心臓保護につながることから盛んに研究されてきました。現在までのところ、アデノシンが重要な役割を果たしていること、プロテインキナーゼCが関与していること、NOS(NO合成酵素)が重要な役割を果たしていることなどが示されています。

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吸入麻酔によるプレコンディショニング

プレコンディショニングとは、手術などにおいて虚血前に短時間の虚血負荷を与えると、その後の長時間虚血状態による心機能不全などの臓器障害が軽減する現象。

プレコンディショニングは虚血後の再灌流による血管や心筋細胞の障害も軽減させます。心臓に対してプレコンディショニングが期待できる薬は多いものの、副作用を考慮すると吸入麻酔薬は使用しやすい薬です。

吸入麻酔薬のセボフルラン、デスフルラン、イソフルラン、ハロタンなどによる心筋保護作用はAPC(anesthetic preconditioning)と呼ばれ、麻酔の効果よりも長時間保護作用が持続することが明らかになっています。吸入麻酔薬による心筋保護作用の機序は、早期の作用ではリン酸化により、その後は蛋白合成に関連すると考えられています。

一方、吸入麻酔薬はポストコンディショニング(Aposc)と呼ばれる臓器保護作用に期待されています。具体的には、虚血再灌流時に短時間の虚血負荷を行うことで心筋保護作用が得られます。

吸入麻酔薬ではAPCやAposcによる臓器保護作用が期待できますが、手術でセボフルランやデスフルランを用いた場合とプロボフォールを用いた場合では、吸入麻酔薬を用いた方が1年後の心臓合併症のリスクは少ないことが報告されています。

吸入麻酔薬ではAPCやAposcによる心筋保護作用が期待できるものの、臨床でのエビデンスは十分ではありません。最近では、心筋だけでなく、脳保護作用に関する報告もあります。

吸入麻酔薬によるAposcの機序は、G蛋白を介した成長因子受容体とチロシンキナーゼ受容体の活性化によると考えられています。

Aposcは急性心筋梗塞患者でも観察されており、冠動脈血管形成術を施行した場合にAposc群でクリアチンキナーゼ値の低下や梗塞巣の減少などが認められました。

   出典:薬局 2012.7


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カルジオバージョン

 カルジオバージョンは、直流電流を心臓に通電してすべての心筋を脱分極させることにより、不整脈の原因となるリエントリー回路をブロックすることにより、洞房結節からの正常なリズムを再開させる方法です。

 心室細動、あるいは心室頻拍の場合は、非同期的に通電しますが、一般的には心電図のR波に同期させます。脱分極期に通電しないようR波の頂点から20msecのうちに通電するようになっています。

 重症不整脈が心臓以外の原因(例えば低カリウム血症・低酸素症・アシドーシス・カテーテルによる機械的刺激など)の場合には、その原因を取り除かないとカルジオバージョンの効果は一時的であったり、全く無効であったりします。

 心肺蘇生術を含んだ重症不整脈への処置を行うと同時に、不整脈の原因究明と、それに対する処置を行う必要があります。意識状態・血圧といったバイタルサインや、狭心痛のような症状は不整脈治療の緊急性の判断に役立ちます。

出典:レシデントの診断手技(中外医学社)


平均への回帰にまどわされるな。

EBMに向けて(4)

 私ども薬剤師は、しばしば窓口で患者さんから、「この薬を飲んでから、急におかしくなった」との相談を受けるのですが、実際にそれが薬の副作用によるものだと頭から決めてかかることはできません。

 あくまで一般論なのですが、初めて薬を飲まれる患者さんの場合、今まで何とか普通の生活が出来ていたのが、どうにも堪らなくなったからこそ病院に来られたのですから初めて薬を飲む時期と、病状に変化が出る時期とが重なるわけで、副作用と患者さんが思われているのは、病状の悪化による可能性が高いわけです。

 また、どんな症状でも検査結果でも必ず変動します。ほぼ安定した患者の検査データを見ますと、ずっと高い値が続いたり、低い値が続いたりすることは少なく、高い値になった後は平均的な値へと下がり、低い値になった後は平均的な値へとあがることが多くなります。

 この平均を挟んでの変動が何らかの介入と絡んだとき、無いはずの治療効果が見えてしまいます。このような平均を挟んでの変動が大きいと、悪くなったから治療すると次は良くなる可能性が高く、効いたようにみえるのです。

 また、良くなったから治療をやめると悪くなってしまう可能性が高く、効いていたと思えることになります。(薬をやめたから悪くなったんだと思える) こうなると、ほとんど治療効果のない薬剤ですら有効に思え、中止が困難になってしまいます。

 これは平均への回帰を治療効果と勘違いしているからです。この平均への回帰に振り回されると、追加した治療はやめられず、中止した治療は再開され、どんどん処方する薬が増えていってしまいます。

 治療効果を正しく評価するためには、前もって治療の目的を明らかにし、治療の効果の評価はなるべく客観的な基準に基づいて行うことが必要になります。

 さらに価値の高い臨床研究では、治療群と対照群に分け、治療効果の判定は治療担当医ではなく、その治療と無関係の第三者にその患者が治療群かどうかを知らせないで行うような方法をとります。

 つまりはEBMというのは結局統計学に基づいたものなのです。ここにEBMの価値と問題点があるのです。


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