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1999年6月1日号 269

低用量化学療法

   

 癌化学療法では、副作用がかなり現れる程度の使い方をしないと効果は期待できないという一般概念がありましたが、実際には副作用が強ければ中止せざるを得ず、治療効果も上がらないため低迷状態が続いていました。  

 近年、良好なQOLや優れた治療効果や延命効果の得られる併用療法の開発が進み、エフェクターである抗癌剤を与薬する前後あるいは同時にモデュレーターと呼ばれる他の薬剤を併用することで、エフェクターの薬理動態を変化させ、抗腫瘍効果を高めたり、正常細胞に対する毒性を軽減して化学療法の効果を増強するというバイオケミカルモデュレーションの概念が導入され、注目されています。  

            {参考文献} JJSHP 1999.5

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’    低用量化学療法は、抗癌剤による治療効果が期待されていなかった消化器癌の領域でも良好な成績が得られることが報告されるようになり、その中でも低用量の5Fuをエフェクター、少量のシスプラチンをモデュレーターとする化学療法が注目されています。  

 具体的には5Fu300〜500mg/body/dayの24時間持続点滴とシスプラチン5〜10mg/body/dayの1時間点滴静注とを併用する治療レジメンです。そのメカニズムとしては、まずシスプラチンが癌細胞膜に作用して細胞内へのメチオニンの取込を抑制し、細胞内のメチオニン量を減少させます。  

 そうすると、細胞内のメチオニン貯留量の低下を防ぐために葉酸代謝が亢進してメチオニンが産生されるが、その際に増加する還元型葉酸(メチルテトラヒドロ葉酸)が5Fuの活性対であるフルオロデオキシウラジン モノフォスフェート(FdUMP)、およびDNA合成にに必要な酵素であるチミジル酸合成酵素(Thimidilate Synthetase:TS)との間で三者共同結合体を形成してしまうため、結果的にTSを減少させてDNA合成を抑制し、5FUの増強効果が得られます。  

 副作用については、骨髄抑制や悪心、嘔吐などの消化器症状はかなり少なく、また出現してもその程度は軽度でした。従来のシスプラチン大量投与時に見られた腎障害は報告されていません。  

 実際にこのような低用量で効果が期待できるのかという懸念もありますが、手術時に採取した癌組織を三次元的に培養しながら抗癌剤の感受性を調べてみると、5Fuあるいはシスプラチン単独では増殖が抑制されないような低い濃度で2つの薬剤を併用して接触させると、癌細胞の増殖が抑制される症例が存在することが判明しています 現在までに、この低用量5Fu、シスプラチン療法が薬剤耐性遺伝子を誘導するという報告はなく長期間にわたって継続しても耐性が出現してくることは無いものと思われます。  

 試験管内では高濃度の化学療法剤と接触した癌細胞は壊死に陥り、低濃度の場合はアポトーシスを来すことが明らかにされています。壊死の場合は細胞の崩壊によって、流出した細胞内容物により周辺に白血球が集積して炎症反応が起こることが特徴であり、これらがさらに癌悪疫質の原因にもなると考えられています。  

 これに対して、アポトーシスの場合は断片化した細胞がマクロファージなどに貪食されて処理されるため、炎症反応を伴わず、生体への侵襲がほとんどないことから、低用量化学療法が効率的に癌細胞をアポトーシスに誘導するというものであれば理にかなった治療となります。

  出典:岐阜大学医学部 杉山 保幸  「 シスプラチンの低用量化学療法」 

  ここで述べているシスプラチンの低用量というのは厚生省によって承認された用量よりも少なく、またシスプラチンは大腸癌や肝癌に対して適応外となっているので、各医療施設において担当医の医学的判断のもとに実施されているのが現状です。


 

英語は日本語だった??

バイアス(5)  

 英語は元々日本語であったする学説(?)があります。例えば、「名前」をローマ字で書くと“namae”で、英語の“name”と良く似ています。“ぼうや:bouya”はboyです。

   また、凍るが"cold”、穴をhole(掘る)、身(み)は“me(ミー)”、わい(大阪弁)はI(アイ)、など:nadoは“and”、道路(ドーロ)はロードに似ている、ファーザーは父者(fujha)から来たのかもしれません。汎(han)は“pan”と全く同様な使い方をします。  

 と言っても、これに騙されるのは小学校低学年ぐらいでしょう。これは、たまたま英語と日本語で意味と発音が似ているのを探してきただけで、他のほとんど全ての言葉はこれに当てはまらないからです。これを確証バイアスと呼んでいます。

   確証バイアスとは、自分の説に都合のよいデータだけを選んできて示し、他の都合の悪いデータを無視または故意に隠してしまう性質(たち)の悪いものです。今までの治験では、実際に効果があったデータのみを提出し、効果が無かったというデータは廃棄してしまっていたようです。    

 このように、自分の思い通りのデータを意図的に作り出すことなど、簡単なのです。かつて製薬メーカーでの資料ねつ造事件がありましたが、今でも、統計データをいじくりまくって作ったと思われるような資料に出くわすことがあります。  

 意図的でなくとも、私たち医療関係者が、最も注意しなくてはいけないのは、既存研究の調査の際のバイアスです。文献調査のとき著者名のみで論文を選んだり、自分の見解に反する論文は引用しなかったりすれば、研究の出発の時点ですでに先入観というバイアスが入ることになります。このようなバイアスを避けるためにはパソコンなどで文献検索を行い、既存の研究を網羅的に拾い上げるのが有効な手段です。  

 また効果があったとする文献はよく読まれますが、効果が無かったとする文献は同じくらい重要なのにあまり読まれないという事実があります。これをpublication biasと呼びます。有意な結果が得られたものは、そうでないものに比べ、2.32倍出版されやすいそうです。

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ワンポイントお薬メモ 

  これから、嫌な梅雨の季節になりますが、薬も湿気が嫌いなのです。

特に保管に注意する薬(1包化のできない薬)

  アスパラK錠 メイアクト錠 ノスカール錠 ペルマックス錠

  散剤全般も湿気に弱いです。

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