1996年10月1日号 208
インターフェロン網膜症
<<最近の知見>>
平成4年に、市立川西病院でインターフェロン(IFN)治療中のC型慢性活動肝炎の中から、視力低下や飛蚊視などの自覚症状を訴えて眼科を受診し、眼底出血を指摘される3症例が発見されました。(薬剤ニュース138参照:ネット未掲載 厚生省副作用情報122) その後の調査から、眼底出血は「IFN網膜症」としてIFN治療の副反応の1つと認定されましたその発現頻度は25%と高率です。 {参考文献} Pharma Medica 1996.9 |
’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’
1.IFN網膜症の特徴
乳頭部周囲に位置する表層性出血と軟性白斑、
および軟性白斑が早期に出現します。これらの特徴は、最も高頻度にみられる糖尿病性網膜症の眼底所見が広範囲の表層出血と軟性白斑を特徴とするなど、他疾患に伴う眼底所見と異なります。
病変が乳頭部周囲に位置することから、眼症状を欠く症例が多くなっています。IFN治療全症例を対象に定期的な眼底検査が必要です。
*IFN網膜症の発現に、IFNの種類による差 はありません。また網膜症発現時のIFN総与 薬量に一定の傾向はありません。
2.IFN網膜症の発現時期
全例がIFN治療介し12週以内に発症しており12週以後の発現はありません。最短は2週間です。
このことは、血小板数、HDLコレステロール値、中性脂肪値など網膜症発現に関与する要因が治療開始後急速に変動し、12週以後は安定する事実と一致します。IFNが治療開始2週間は連続与薬されることも関与すると思われます。
3.IFN網膜症の眼症状
22例中、2例が視力低下を、1例が飛蚊視を訴え他の19例は無症状に推移しました。IFN治療中に目が痛い、目の奥が痛い、目が落ち込む感じなど、多彩な眼症状を訴える症例は多くありますが網膜症と関連することはあまりありません。
しかし、眼症状が網膜症発見の端緒となった症例はあります。
*IFN網膜症は糖尿病、高血圧症の基礎疾患を背景因子とし、IFN治療開始後の中性脂肪増 加。血小板減少などが要因として加わります。
[対策]
網膜症発現は治療開始前には予測できません。
網膜病変は治療中止により改善します。
網膜症発現例でも継時的な眼底検査のもとに治療継続が可能です。
*糖尿病のコントロールがIFN網膜症の治療となります。
※網膜症がIFNの副反応である根拠
1.IFN網膜症の眼底所見は糖尿病性網膜症など他の疾患に伴う 網膜症と異なる特徴を持つ。
2.IFN治療症例の網膜症発現は高率である。
3.網膜症発現例22例中19例はIFN治療前に眼底異常なしが 確認されていて、網膜症はIFN治療開始後に発現している。
急性アルコール中毒での果糖静注の危険性
出典:治療 2001.10
急性アルコール中毒の処置として、果糖はアルコール性低血糖を改善するとともに、NADHの酸化を促してNAD(アルコール脱水素酵素の補酵素)の補給を増やすことでアルコール代謝を早めるとされ、初期に10%果糖液を用いるとの説があります。
しかし、果糖は乳酸アシドーシスを悪化させる恐れがあるので、急性アルコール中毒には禁忌とする説もあります。
果糖を多量に静注すると、フルクトース−1-リン酸が肝細胞に蓄積するとともに、ATPの消費が激しいため一過性にATPレベルは正常の半分以下に低下します。この結果、ATPに依存する種々の代謝に悪影響が現れます。血漿乳酸値の上昇もこのためです。
高乳酸血症は、果糖がその代謝において、元々フルクトキナーゼの活性が高いこと、解糖系の律速酵素であるホスホフルクトキナーゼの制御を受けないこと、フルクトース−1-リン酸がビリルビン酸キナーゼ活性を促進することによります。
このことから、急性アルコール中毒には果糖は禁忌とする説の法が妥当であると思われます。欧米ではすでに果糖の静注はほとんど行われておらず、日本では未だに内科学書や各社添付文書に果糖の急性アルコール中毒への適応が記述されており、早急に改訂する必要があります。
NAD
ジホスホピリジンヌクレオチドDPN(旧称)、CoI(旧称)とも呼ばれた酸化還元酵素の第1群の補酵素。
NAD=NADH(還元型)の反応を行います。組織が十分に酸素を得ているときはNADが多く、梗塞や運動時はNADHが増します。NADPH(NADHがリン酸化された補酵素)が合成反応の還元剤であるのに対し、NADHは各種の基質を脱水素しエネルギーを得る意義があります。
NADPH‐オキシダーゼ
NADPH‐oxidase
NADPHを電子供与体として酸素分子(O2)を還元する酵素の総称で、最もよく解析されている多形核白血球好中球の酵素は下記の反応を触媒します。
NADPH+H++2O2→NADP++2O−2+2H+……(1)
このようにO−2を生ずるだけでなく(2)式のように直接H2O2(O2−2+2H+)を産生するという主張がありますが、通常条件では(3)式に示すO−2の不均化反応によってH2O2が生じ、直接2電子をO2に渡すのではありません。
NADPH+H++O2→NADP++H2O2 ……(2)
O−2+O−2→H2O2+O2
……(3)
多形核白血球の場合、その形質膜に存在し、細胞内部のNADPHを酸化してO−2を細胞外に放出します。
DNA/RNAアプタマー
アプタマーとはDNAやRNAなどのオリゴヌクレオチド、ペプチドなど比較的鎖長の短い生体高分子で、標的とする分子と特異的に結合する能力を持つものをいいます。
アプタマーは、抗体とよく比較されますが、その分子標的は蛋白質に限らず、金属イオンからアミノ酸・抗生物質などの低分子物質から蛋白質、ウイルス、細胞まで幅広い物質をターゲットにしてインビトロ・セレクションという進化工学の手法により人為的に作ることができます。
特定の酵素に結合するアプタマーは、その酵素活性を阻害する場合が多く、最近では、診断治療薬へのアプタマーの応用に関心が集まっています。
出典:医薬ジャーナル 2005.8
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アプタマーとは、一本鎖RNA,DNAがとる3次元立体構造によって標的分子と特異的に結合する能力を持った核蛋白を指します。
細胞増殖因子、酵素、受容体、膜蛋白質、ウイルス蛋白質など様々な蛋白質、金属イオン、分子量の小さい有機化合物、ペプチド、複雑な構造を持つ多量体にも結合するアプタマーが発見されています。
抗体と比較すると、アプタマーは結合する対象に制約が無いだけでなく、抗体では実現できなかった高い親和性と特異性を持って標的分子に結合させることが可能です。また、抗体とは違い大量合成が比較的容易、作用機序が単純といった利点もあり、生命科学分野でのターゲットバリデーション用試薬、疾患の診断薬への応用が検討されています。さらに疾患に関与する蛋白質の機能を阻害する働きを利用した治療薬の分野でも大いに期待されています。
出典:ファルマシア 2006.12
<アプタマーと抗体の比較>
*アプタマー
・特異性:非常に高い(立体構造認識)
・標的分子の種類:あらゆる蛋白質また蛋白質以外の分子に対するアプタマーを作成できる。
標的分子との結合領域は研究者が決めることができる。
・免疫原性:免疫原性は非常に低い、またはない。
・化学合成:○
*抗体
・特異性:高い(アミノ酸の一次構造を認識する。立体構造認識とは限らない)
・標的分子の種類:産生に動物を使用するため、毒性の高い毒素や非免疫原性の分子に対する抗体は作成できない。結合領域は抗体を産生する動物の免疫系により決定される。
・免疫原性:明らかな抗体産生が認められる。(完全ヒト化抗体では低いと考えられる)
・化学合成:×