HS病院薬剤部発行     

   薬 剤ニ ュ ー ス

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1995年

7月1日号

NO.179

 

輸血用血液製剤と製造物責任法    

  ***不必要な使用もPL法の適応の対象となります***  

     7月1日より実施される製造物責任法(PL法)は、輸血用の血液製剤もその対象とされることから、その運用については今まで以上に慎重に検討を行うよう日本赤十字社より、通達がありました。

 血液製剤は、その原料が善意の奉仕によること、また輸血では副作用の発現頻度が高いことなどから、PL法の適応については最後まで議論された経緯もあり、実際に患者さんが被害を受けた場合の責任の所在が、よりきびしく追求されることとなります。

使用上の注意

血液製剤は、献血による貴重な血液を原料として製剤化されたものであるので、その旨を理解の上、

・血液製剤の使用基準

・輸血療法の適正化に関するガイドライン

・血液製剤保管管理マニュアル

・放射線照射ガイドライン

      に基づき、適切に使用すること。(下記参照)

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 日本赤十字社では、輸血用血液製剤につき、1995 年7月より「使用上の注意」を変更し、特に免疫学 的な副作用や感染症を中心に詳細な注意が記載され ています。さらに「警告」欄を新設し、GVHDに 関して特に注意を喚起するよう呼び掛けています。  輸血により以下に記載するようなウイルス等の感染や副作用の危険性があり得るので、他に代替品がなく治療上の有効性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用を検討すること。

 輸血する場合は、患者又はそれに代わり得る適切な者にその必要性、副作用の可能性について理解しやすい言葉でよく説明し、同意を得ること。

 血液製剤は、B型及びC型肝炎ウイルス、エイズウイルス、梅毒関連のスクリ−ニング検査を行っているが、これらによる感染がまれに報告されており感染の危険性を完全に否定できない。

 サイトメガロウイルス、エプスタイン・バ−ウイルス(EBV),ヒトパルボウイルスB19、マラリア、エルシニア・エントロコリチカによるエンドトキシンショック等の危険性を完全には否定出来ないので観察を十分に行い、症状があらわれた場合には適切な処置を行うこと。

 また不必要な輸血は行わないなどの心構えがより一層重要になります。

 【警告】

 まれに輸血数日後に発熱、紅斑が出現し、引き続き下痢、肝機能障害、顆粒球減少等を伴う移植片免疫対宿主病(GVHD:graft versus host disease)による死亡例が報告されているので、発症の危険性が高い患者に輸血する場合、あらかじめ、15〜50Gyの放射線を照射することが望ましい。

{該当製剤}

 人全血液CPD(旧新鮮血:保存血)、洗浄赤血球、赤血球MAP(濃厚赤血球)、濃厚血小板、合成血、新鮮凍結血漿、白血球除去赤血球、解凍赤血球等

   


ヒトパルボウイルスB19

PVB19

 パルボの語源は、ギリシャ語の「小さい」と言う言葉に由来しています。

 「B19」というのはイギリスの血液センターで発見されたときの検体番号にちなんでいます。

 PVB19は、赤芽球系(赤血球になる前の細胞)で増殖し、大部分がインフルエンザのように飛沫感染して、小児を中心としたリンゴ病(伝染性紅斑)や貧血、また、場合によっては胎盤感染により胎児水腫などを発症することが分かっています。

 飛沫感染以外にも、近年、血漿分画製剤は多くの人の血液を混ぜて製造することから、万一、未知のウイルスが混入してしていた場合の対策として、血液中の蛋白成分よりも大きく、ウイルスよりも小さい穴の開いた濾過膜を使用し、さらに熱や薬品による処理も行って未知ウイルスの混入を防いでいます。ところが、PVB19は「小さい」ため、ウイルスを除去する濾過膜を素通りしてしまうだけでなく、加熱(60℃、30分)や薬品(クロロホルム、界面活性剤、酸)にも耐えられる「小さくて強いやっかいな」ウイルスです。

現在、RHA法により、PVB19を検出が可能となっています。(詳細は血液センターにお問い合わせ下さい。)

出典:血液センターニュース No.211(2000年9月) 

<臨床的意義>

 ヒトパルボウイルスB19は、溶血性貧血患者における急性赤芽球癆、免疫不全患
者における慢性骨髄不全、小児の伝染性紅斑、成人の多発性関節炎などの原因ウイル
スであることが明らかにされました。
 また妊婦がヒトパルボウイルスB19に感染すると胎児水腫や死産を起こすことも
報告されています。  したがって、ヒトパルボウイルスB19感染は、種々の疾患
を起こし人命にも影響することから、早期の診断が重要となります。

<測定法と保険適用>

 1)血清診断
 血清診断の方法としては、酵素免疫測定法(EIA法)、ラジオイムノアッセイ法
(RIA法)、蛍光抗体法などでIgG抗体とIgM抗体を測定する方法がありま
す。
 最近、遺伝子組み替えで非感染性の抗原を作製して試薬に応用したEIA試薬が
厚生省から体外診断用医薬品として認可され、発売されました。
 さらに、本年7月1日から妊婦の診断に対する限定適用ですが、前記EIA試薬を
用いたIgM抗体の測定で保険点数360点が認められました。
 
 2)DNA診断
 DNA診断の方法としてはPCR法、ドットプロット法、サザンブロット法などが
あります。

<治療>
 治療は、高度の胎児貧血、胎児水腫に胎内輸血、心不全にジギタリスの胎児への直
接注入があります。静注用 γ-グロブリンの大量療法も試みられています。

<文献>
 1)布上 董:パルボウイルスB19と母子感染.小児内科,
27(10):1448-1452,1995
 2)八重樫 伸生:パルボウイルス.産婦人科の実際,40(7):991-998,1991

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パルボウイルスB19抗体 IgG・IgM

 パルボウイルスB19は、ヒト病原性を有する現在唯一のパルボウイルスであり、古
典的な小児発疹症の一つである伝染性紅斑の起因ウイルスとしてよく知られていま
す。一方、1980年代半ば以降にB19感染が原因と思われれる胎児水腫・死産の症例が
相次いで報告されたことから、近年産科領域における本ウイルス感染の重要性が非常
な注目を集めてきました。
 B19は骨髄の赤芽球系前駆細胞に親和性を有し、その分化過程を障害するため、免
疫能が未成熟な反面で造血の盛んな胎児期での感染はしばしば重篤な溶血性貧血をき
たします。高度な貧血は心不全、ひいては胎児水腫を惹き起こし、有効な治療が施さ
れなければ子宮内胎児死亡・死産に至ります。
* B19感染には周期的な流行が見られ、その流行時期が風疹ウイルスによく一致する
こと
*若年者におけるB19感染の既往率が比較的低い(B19感受性者が多い)こと
成人では不顕性感染が多く、また有症者に見られる非特異的発疹は風疹感染時の発疹
との鑑別が通常困難であること
などから,妊婦B19感染の早期発見・治療は極めて重要といえます。
 周産期におけるB19感染の診断、風疹との鑑別、あるいは感染既往の確認にEIA法に
よる血清抗体価測定は有用な手段になると思われます。

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1.血漿分画製剤によるパルボウイルスB19感染リスクについて

血液凝固因子製剤、アンチトロンビンIII製剤の投与によりヒトパルボウイルスB19に
感染したとの報告、及び他の血漿分画製剤中にも本ウイルスのDNAが検出されたと
の報告がありました。

本ウイルスは、ウイルス粒子が小さく(直径18〜26nm)、脂質皮膜がないため、ナノ
フィルターや有機溶媒などではその除去が困難であり、また本ウイルスは熱にも強い
ため加熱による不活化が容易ではありません。つまり現在血漿分画製剤のウイルス不
活化のために用いられている方法では除去・不活化は困難です。

本ウイルスは幼児に起こるリンゴ病の原因ウイルスであり、一度感染し抗体が発現す
ると終生免疫を獲得すると推定されています。本ウイルスによる感染は、宿主により
無症状から重症のものまで種々の症状を示します。小児では伝染性紅斑であり、成人
では無症状で終わることも多いと言われています。しかし、溶血性・失血性貧血の患
者、免疫不全患者・免疫抑制状態の患者、妊婦等に感染した場合重篤な症状を招く 
可能性があることより、「使用上の注意」に追記し注意を喚起することとしました。

使用上の注意;血漿分画製剤の現在の製造工程では、ヒトパルボウイルスB19等のウ
イルスを完全に不活化・除去することが困難であるため、本剤の投与によりその感 
染の可能性を否定できないので、使用後の経過を十分に観察すること。

血漿分画製剤

グロブリン製剤
血液凝固第VIII因子製剤
血液凝固第IX因子製剤
血液凝固第XIII因子製剤
アンチトロンビンIII製剤アンチトロンビンIII製剤
アルブミン製剤
組織接着剤 等

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<資料>血漿分画製剤とパルボウイルスB19感染リスクについて

平成9(1997)年1月
厚生省薬務局

パルボウイルスB19は1984年に伝染性紅斑(リンゴ病)の病原ウイルスとして認知、命
名されたウイルスで、一般的に飛沫感染により一過性の感染を起こすが予後は良好で
あることが知られている。今般、各種血漿分画製剤中にパルボウイルスB19のDNAが
PCR法(ポリメラーゼ・チェーン・リアクション法)で検出されたとする文献が企業よ
り報告された(表)。パルボウイルスB19は他のウイルスに比べて加熱や膜(フィル
ター)などによる不活化・除去が容易でないため製剤中への混入の可能性を否定し得
ないこと、また本ウイルス感染症が一般的には予後良好であるものの、一部患者にお

て感染した場合には重篤な症状を招くことがあるとされているため、血漿分画製剤の
使用上の注意事項を変更し、これら患者への使用に際し注意を喚起することが適当と
考え、関係企業に指導した(平成8年11月11日)。

(医薬品副作用情報 No.141)
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【タイトル】
Purified factor VIII. Theoretical advantages, but at a cost.
【著者名】
Tuddenham EGD
【雑誌名】
BMJ 311 : 465-466, 1995
【要旨】

 高純度の第VIII因子(FVIII)濃縮製剤(FVIIIconc.)は、現在では血友病Aに対する補充療法として標準的であるが、フィブリノゲン、フィブロネクチン、イムノグロブリンの混入した低純度FVIIIconc.と比較して精製に伴い高価格のものとなりました。このロンドンからの論文は、より優秀ではあるが価格の問題のある製剤との優劣について論じています。FVIIIの精製方法としては、イオン交換クロマトグラフィー、モノクローナル抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィがあり(活性は、前者が7,200U/ml、後者が>2,000U/ml)、従来の低純度精製方法(活性5U/ml)に比較して格段に純度が向上しました。最近では遺伝子組換えFVIIIconc.も使用可能となった。
FVIIIconc.の純度が向上したことによる利点としては、1アレルギー反応の頻度が減少したこと、2少量の溶解液で高い活性のFVIIIを補充できるようになり、持続点滴による投与も可能になったこと、3HIV感染者では高純度FVIIIconc.を投与された方が低純度のFVIIIconc.を投与されるよりもCD4の低下がゆるやかになるという報告がみられること(ただし、有意差なしとする報告もある)が挙げられる。一方で、高純度FVIIIconc.ではインヒビターの発生頻度が高いという報告がみられたが、その後の報告では否定されました。また、歴史的には、低純度のFVIIIconc.においては、B型およびC型肝炎ウイルス、HIVが感染しやすいという問題もありました。現在はウイルスの不活性化過程があり、これらの問題はほぼなくなった。ただし界面活性剤によるウイルス不活性化処理では、脂質被膜を有さないウイルス(A型肝炎ウイルスやパルボウイルスなど)には無効であるし、パルボウイルスは加熱処理にも抵抗性である。それ故に、遺伝子組換えFVIIIconc.は選択されるべき治療薬と思われるが(製剤の安定化のためアルブミンが添加されているが、これは感染性はない)、高価格のものとなりました。

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りんご病(伝染性紅斑)

●りんご病とは:頬がりんごのように赤くなることから、りんご病と呼ばれています
が、正式な病名は「伝染性紅斑」といいます。

●原因:パルボウイルス(上記)が原因で、潜伏期は約2週間。発疹のでる前(1週間くら
い)が感染期間で、発疹が出てからは感染させる危険がなくなりますので隔離する必
要はありません。  

●症状・診断:両方の頬がりんごの様に赤くなり、その後、腕や太ももに赤い斑点や
まだら模様がでます。通常熱は出ないことが多く、出ても微熱程度です。発疹は1〜
2週間で自然に消えていきます。 

●治療:特に必要ありませんが、かゆみが強いときはかゆみ止めを処方します。 

●家庭で気をつけること:激しい運動は避け、安静にして過ごしましょう。日光や冷
たい風、入浴で赤みが強くなって長引いたり、一度消えた発疹がまた出たりしますの
で、注意して下さい。妊婦が感染すると、早流産を招く恐れがありますので注意して
下さい。