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1995年12月1日号 189

 

  医薬品副作用情報 No.134

1.ソルビトール溶液懸濁によるケイキサレートによる注腸と結腸壊死ポリスチレンスルホン酸Na)

2.ナウゼリンとショック、アナフィラキシー様症状
(ドンペリドン)
3.新生児動脈管開存症とポンタールシロップメフェナム酸)

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1.ケイキサレートによる注腸と結腸壊死

 腎移植前及び直後にソルビトール溶液に懸濁したケーキサレートで、結腸壊死を発症したとする3つの類似文献が報告されています。腎移植のために結腸壊死が起こるのか否かは不明ですが、多くの症例では、結腸壊死は腸間膜血管の損傷の直接的結果とは考えられず、一方、症状の発現は高カリウム血症の治療のためケーキサレート注腸と時間的な関連性がありました。

 また、ソルビトールによる懸濁液の注腸と結腸損傷とに因果関係の可能性があることが、動物実験で報告されています。ソルビトールを含有しない注腸液を用いた場合では、死亡も著しい組織学的変化も認められず、しかも単独では、腸壁毒性を示さないことから、ソルビトールが重要な要因であることを示唆しています。

{添付文書改訂}

 本剤を注腸する際にはソルビトール溶液を使用しないこと。

2.ナウゼリンとショック、アナフィラキシー様症状

 ナウゼリンについては、坐薬において「ショックを起こすことがあるので観察を十分に行い、症状があらわれた場合は、中止する等適切な処置を行うこと。」と記載し、注意喚起を行ってきました。

 今回、ナウゼリン錠の内服直後にショック、アナフィラキシー様症状(発疹、発赤、呼吸困難、顔面浮腫、口唇浮腫等)を発現したとされる症例が4例報告されており、いずれの症例も薬剤との関係は否定できません。

 報告された4例は、全員女性で、年齢は19〜70歳、うち2例が50歳以上でした。

 ナウゼリン錠・坐薬に際しては、十分な観察のもとにより一層慎重に使用する必要があります。
(添付文書に新規に記載)

副作用報告のお願い

<本年度の重点項目>

1.プロトンポンプ阻害剤
 オメプラール、タケプロン〜視力障害
2.インターフェロンα、β〜脳出血、糖尿病
3.セロシオン〜肝機能障害の増悪
4.イブプロフェン、イソプロピルアンチピンリ ン、ケトプロフェン含 有剤〜副作用全般      


新生児動脈管開存症とポンタールシロップ  


 動脈管開存症(Patento Ductus Arteriosus:PDA)とは、正常では生後2ヵ月以内に線維性の索(動脈管索)に変化するはずの下行大動脈と左肺動脈を連絡する動脈管が生後閉鎖しないために、動脈管を通じて体循環肺循環の短絡などの血流障害を生じるもので、新生児における全心奇形の中では比較的多い疾患です。

 この診断は臨床症状(呼吸困難、連続性心雑音、precordial pulsation、心肥大、肺うっ血)又は超音波検査法(ドップラー法:動脈管閉存を介した左-右シャントの存在)で、確定診断ができます。

 治療方法としては、薬物療法としてインドメタシン静注がありますが、薬物療法が無効あるいは動脈管依存性の先天性心疾患(肺動脈閉鎖、重症大動脈縮窄症など)や重篤な腎機能障害、消化管出血等を併発している場合は外科的に動脈管を結紮する方法があります。
 今回、厚生省の副作用情報によりますと、超未熟児の動脈管開存症の治療目的で、ポンタールシロップが適応となっていないにもかかわらず使用され、重篤な副作用を引き起こした症例が報告されています。
 
 報告された症例は7例で、そのうち壊死性腸炎(穿孔を含む)が3例、壊死性腸炎穿孔発症後の脳室内出血が1例の計4例の死亡が報告されています

 報告された症例には脳室内出血、心不全、高ビリルビン血症を併発している例や、新生児呼吸窮迫症候群に合併した動脈管開存症など、極めて身体状態の悪い患者に多くみられました。

 使用期間は1〜2日以内で、開始されてから2〜13日目で症状が発現しています。この壊死性腸炎の原因は、超未熟児のためか或いは動脈管開存症のための腸管虚血であるか不明です。

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動脈管開存症(Patent Ductus Arteriosus:PDA)


patent ductus arteriosus(PDA)
同義語:ボタロー管開存症patent ductus Botalli

 動脈管は大動脈弓の内側で左鎖骨下動脈のほぼ対側に発し、肺動脈分岐部に流入します。胎児の動脈管は肺動脈幹と直結して太く、さらに胎生期は肺血管抵抗の方が末梢血管抵抗より高いため、胎児循環時の右室から駆出される血流量の90%は動脈管から下行大動脈に流入じます。出生後は肺血管抵抗の減少,末梢血管抵抗増加,血圧上昇,左房圧上昇,卵円孔閉鎖とともに動脈管は約1ヵ月で閉鎖します。

 この動脈管が閉鎖せずに開存すると高圧の大動脈血流が肺動脈に流入し、肺血流量は体血流量の3倍以上にも達することがあり、肺血管抵抗の増大から肺高血圧症を起こすと、逆短絡(右→左短絡)を生じることもあります。

 乳児期にうっ血性心不全,発育不全,成人では細菌性心内膜炎(感染性心内膜炎)を起こしやすいとされています。


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インペアード・パフォーマンス


  〜〜抗ヒスタミン剤による気づきにくい能力低下〜〜

2009年3月15日号 No.494

 抗ヒスタミン剤は、眠気や口渇、頻脈といった抗コリン性の副作用が問題視されてきました。そのため第2世代と呼ばれる眠気の少ない抗ヒスタミン剤が登場してきました。

 しかし、それら第2世代の抗ヒスタミン剤は雑多な鎮静作用を持っており、正確には評価できていないのが実状です。最近、脳科学研究の進展によりヒスタミン神経系の役割が解明されるとともに、眠気はあくまでも主観的な体験であることから、鎮静性の評価には覚醒度 を客観的に表す指標であるインペアード・パフォーマンスが提唱されています。

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 抗ヒスタミン剤による中枢抑制作用は、眠気とインペアード・パフォーマンスに大別されます。

 インペアード・パフォーマンスとは、作業能率が低下した状態を表す指標で、精神運動障害・認知機能障害の程度を客観的に表すことが出来ます。(下記参照)

 中枢抑制作用は、血液脳関門を通過し、脳内に移行した抗ヒスタミン剤が、脳内H1受容体と結合し、神経伝達物質ヒスタミンの作用を抑えることにより起こり、脳内占拠率が高いほど生じやすくなります。

 その中でも自覚のある作用は鎮静作用と呼ばれ、眠気や倦怠感が代表的な例とされてきましたが、発現は一定ではなく、様々な影響を受けやすく個人差もあります。

 中枢抑制作用の大半は本人の自覚が乏しい、集中力・判断力・作業能率が低下した状態であるインペアード・パフォーマンスで、気づかないうちに、日常生活に支障をきたす可能性があることから、「気づきにくい能力ダウン」とも言われています。

 つまり抗ヒスタミン剤による眠気がないと感じていても、インペアード・パフォーマンスが起きている場合もあり。自覚がない分むしろリスクが高いといえます。

 抗ヒスタミン剤の中枢神経抑制作用のうち眠気は自覚可能であるため、必要に応じて服用量を調整したり、自動車運転を控えるなど、患者自身が注意を払うことが出来ます。

 しかし、昨今問題とされているインペアード・パフォーマンスは、眠気とは異なり集中力や判断力の低下が自覚症状無しに発現していることが問題で、思わぬ事故に遭遇する可能性にさらされていることが危惧されています。

 第1世代の抗ヒスタミン剤のインペアード・パフォーマンスは、シングルウイスキー3杯分に匹敵といわれており、第2世代薬剤では中枢性の副作用は軽減されています。

 一般的に効果の高い薬剤は、眠気などの副作用も強いと考えられていますが、実際には第2世代の抗ヒスタミン剤の効果はほぼ同等で、眠気とは関係しないことが明らかにされています。

 抗ヒスタミン剤の服薬指導の際には、単に「眠気」を説明するのではなく、抗ヒスタミン剤服用の患者には「自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事しない」といった具体的にインペアード・パフォーマンスについて説明することが重要であると思われます。

{参考文献}医薬ジャーナル 2003.1&2009.2

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抗ヒスタミン剤の分類と比例機能低下比(*PIR:proportional impairment ratio)

<第2世代>
            客観的       主観的
アレグラ   0          0
エバステル  0          0.43
ザジテン   0          2.44
ジルテック  0.18        0.33
クラリチン  0.58        0.33
ニポラジン  1.09     0
<第1世代>
レスタミン  2.05        2.30
テルギン   2.11         1.81
アタラックス 2.55         2.57


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 タキストスコープ

 インペアード・パフォーマンスとは、作業能率が低下した状態を表す指標で、精神運動障害・認知機能障害の程度を客観的に表すことが出来ます。

 その測定方法の1つにタキストコープを用いる心理学的な手法があります。
 この装置は、ディスプレーの画面上に1.5秒の間隔を置いて、数字とひらがなという認知課題をランダムに表示するようになっていて、時間は3分間、そのうち数字が表示されるのは全体の20%、ひらがなが80%で被験者は数字が画面に表示されたときにボタンを押します。

 課題が表示されてからボタンを押すまでに要した反応時間と、その正解率によって認知機能を評価します。

     {参考文献}医薬ジャーナル 2003.1

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