薬剤性ネフローゼ症候群
1993年4月15日号 No.128
ネフローゼ症候群とは臨床的な概念で、尿中に多量の血清蛋白成分を喪失するときにみられる共通の病態をいいます。 1)蛋白尿(1日3.5g以上の蛋白尿が持続する。 2)低蛋白血症(血清総蛋白6.0g/dl以下または血清アルブミン値3.0g/dl以下) 3)高脂血症(総コレステロール値250mg/dl以上) 4)浮腫 上記がわが国での診断基準となっています。このうち(2)が、必須条件となっています。 NSAID(消炎鎮痛剤)をはじめ、抗てんかん剤、カプトプリル、金製剤、ペニシラミン等で薬剤性のネフローゼ症候群が発現したとの報告があります。 |
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<NSAIDsによるネフローゼ>
NSAIDsでネフローゼ症候群が発症する機序としては、T細胞を介した細胞性免疫の関与やアラキドン酸カスケードを介した関与すなわち1.プロスタグランジン合成阻害による糸球体基底膜の透過性を抗新させるようなリンフォカインの産生を促進し、蛋白尿を生じさせる。2.アラキドン酸から血清透過性を亢進させるようなリポキシゲナーゼ代謝物(ロイコトリエン等)を産生し、糸球体毛細管に働くことで蛋白尿を生じるなどが示唆されています。
*ボルタレンによるネフローゼ症候群
ボルタレンによりネフローゼ症候群が単独で発症した例や、急性腎不全あるいは急性間質性腎炎を合併したネフローゼ症候群は国内外でいくつか報告されています。
ボルタレン与薬後10ヵ月後、2年後に発症した例や9日目に発症した例も報告されており、与薬期間、与薬量との相関はないようです。
<治療>
治療は与薬中止と利尿剤あるいはステロイド剤により、いずれの症例とも回復していますが、与薬開始
後10ヵ月に生じたネフローゼ症候群は3〜5ヵ月を要し、急性腎不全を合併した例では、血液透析を要しています。
*ボルタレン錠・坐薬以外のNSAIDs:ポンタール、ロキソニンなどでもネフローゼ症候群を起こすことがあるので、低アルブミン血症等の検査所見が現れた場合には直ちに与薬を中止し、適切な処置を行なうこと。
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2000年追記
ネフローゼ症候群
該当薬剤:フェルデンサポジトリ、インダシン等
腎障害を知る指標として、血清クレアチニン濃度、糸球体濾過量が一般的に使用されますが、初期の腎障害時には、尿中蛋白、尿中潜血(沈渣赤血球)、尿中のALP、β2ミクログロブリンをモニターします。自覚症状としては血尿が見られたり、食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛、血尿、体重減少、関節痛、倦怠感、発熱、全身性の紅潮、皮疹、やがて乏尿、浮腫、手足のむくみ、目が腫れぼったいなどを呈するといわれています。
ネフローゼ症候群とは、多量の尿蛋白(1日3.5g以上)、低蛋白血症(血清蛋白6.0g/dl/以下)、高脂血症(血清コレステロール250mg/dl以上)、浮腫を呈する一つの臨床病態で、成因は糸球体基底膜の異常(透過性亢進)により大量の血漿蛋白が持続的に尿中から喪失することによります。
<転帰>
直ちに服薬を中止して経過観察を行うとともに、利尿剤、ステロイド剤、血液透析を行う。早期発見により経過はより良好となります。
乏尿、血尿、尿蛋白、BUN、血中クレアチニン上昇、高カリウム血症、低アルブミン血症等があらわれた場合には直ちに中止、適切な処置
「発熱、皮膚が紅みを帯びる、尿が赤味を帯びる、尿量が減る、尿がにごる、尿が出にくく感じる、排尿時に痛みを感じる、おしっこの回数が増える、顔や手足がむくむ、体重が増える。」
<作用機序>
免疫系やPG系、キニンカリクレイン系を介することにより、白血球遊走因子として働くロイコトリエンの産生が高まり、この結果、Tリンパ球の機能が亢進し、リンフォカインの産生が増加して膜性腎症となり、糸球体基底膜の透過性亢進による尿蛋白を生じると考えられています。腎動脈狭窄患者や腎疾患患者に出現しやすいとの指摘があります。
<好発時期>
開始から2〜3日後に発症するものから、連用により6〜8ヶ月に高頻度に発症したというものや、間歇投与後に発症したものなどさまざまな時期に発症したことが報告されています。
<治療>
早期に薬剤を中止する事により、数日以内に腎機能は回復します。しかし、長期に与薬されていた場合、腎不全は不可逆性の病変へと進展します。この様な症例では、対症療法として副腎皮質ステロイド剤が第一選択薬として用いられています。
保存的には尿量確保が困難な場合や、尿毒症症状が出現した症例では透析療法が適応となる。
<ポイント>
薬剤性腎障害の原因となる薬品は多種多少であり、「どんな薬剤でも腎障害は起こりえる」と理解しておいた方がよいといわれています。その中でもネフローゼ症候群として発症するものは、ある程度決まった臨床型を有しているという指摘もあります。しかし、臨床症状は多様(発熱、全身性の紅潮、血尿、尿量減少、尿混濁、排尿困難・排尿痛、尿意頻回、手足のむくみ、目が腫れぼったく感じる、異常な体重増加)で、腎障害時の初期症状に注意を払い、初期症状に気づいたら直ちに適切な検査・治療を受ける必要があるので、速やかに主治医に受診するよう指導する必要があります。
LCAP
leukocytapkeresis
白血球除去療法
潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)などの炎症性腸疾患に対する治療法
極細ポリエステル線維の不織布を充填した白血球除去器により白血球を除去
LCAP療法の作用機序についてはこれまで下記の3つが推定されています。
1)活性化した顆粒球、単球、リンパ球などの白血球を高率に除去することにより、炎症の責任免疫担当細胞を減少させる。
2)活性化した血小板を除去することにより、活性酸素の産生を減少
3)カラムを通過する細胞群がカラム内で何らかの刺激を受け、炎症抑制性サイトカインの産生が増加
*単に活性化された白血球を除去して炎症を鎮静化しているだけでなく、骨髄から細胞を誘導し、組織再生・修復の引き金を引く作用も有しているとする説もあります。
レドックスシグナル
細胞内シグナル伝達で機能するメッセンジャー
細胞の呼吸や代謝などの反応に付随して生成する活性酸素は、核酸や脂質、蛋白質などを酸化し、細胞に障害を与えます。
この活性酸素を消去し還元状態を維持するため、細胞内にはスーパーオキシドジムスターゼやチオレドキシン、グルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素が存在します。
また、細胞は増殖因子やサイトカインなどに応答することによって活性酸素を発生し、これがレドックスシグナルとして機能します。
すなわち、活性酸素は細胞の生死を決定する重要な役割を担っていると考えられます。
最近 レドックスシグナルを感知する蛋白質としてペルオキシレドキシンファミリーが注目されています。
出典:不明
HAE
hereditary angioneurotic edema
遺伝性血管神経浮腫
最近では、その病態が明らかになるにつれて遺伝性血管浮腫(hereditary angioedema:HAE)
と呼ぶことが多くなっています。
HAEはC1-INHの量的欠損あるいは、機能的な減弱によって引き起こされます。
C1-INHは肝臓で産生される糖蛋白で、補体系(古典経路とレクチン経路)、カリクレイン・キニン系、線溶。凝固系の多くの部分を抑制しています。
HAEは、若年期より出現・消退を繰り返す身体各所に生ずる浮腫と低補体血症を呈する特徴的な所見を備えた疾患です。
1882年にいわゆる「Quinckeの浮腫」として報告された症例群の中に登場しています。
しかし、症例によっては気管支喘息や蕁麻疹といった誤って診断されている場合があり、臨床医の間では必ずしも疾患の認知度が高くないのが現状です。
浮腫は、ときに気道や腸管粘膜に出現し致死的状況に陥ることがありますが、治療にはベリナートPが使用できることから、医師がこの疾患の存在さえ知っておけば診断・治療が可能です。
HAEの症状
10代頃から出現消退を繰り返す身体各所にみられる浮腫で、多くの場合数時間から数日で自然消退します。
精神的、肉体的ストレス(寒冷曝露、外傷、組織圧迫、長時間の坐位や起立、感染、殺鼡剤など)が誘因となって発症するとされていますが、特に誘因がないこともあります。
浮腫の発生場所は、四肢、腹部(腸管)、咽頭の順に多いことが知られています。
浮腫が皮膚に出現した場合はかゆみを伴わず、皮膚の深部に生ずる為、性状皮膚との境界は不鮮明です。このことは蕁麻疹との鑑別点です。特に、発作時に見られる顔面の症状は、病歴聴取や診療中にもその程度、範囲が変化することがあります。
緊急を要するものとして、咽頭浮腫による呼吸困難があります。強い発作時には咽頭だけでなく、口唇、口腔内、鼻腔内にも著しい浮腫状となって気道を閉塞します。
また、消化管浮腫は腸閉塞や膵液の排泄不良による急性膵炎を併発し、いわゆる急性腹症を呈します。この場合、腸閉塞や膵炎に特徴的なX線写真や臨床所見を呈する為、原疾患の鑑別が重要となります。
出典:CSLベーリング株式会社のベリナートPの広告文書