インターフェロン製剤と自己免疫現象
1992年8月1日号 No.112
医薬品副作用情報 No.115
インターフェロン(IFN)と免疫の関係についてはすでに1970年末からIFNにはインビトロで抗体の産生、各種T細胞の機能、細胞表面抗原の発現、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性化及びマクロファージの機能等を統御する働きがあることが指摘され、動物モデルでIFNがその病態の進展に関しているという報告がなされています。 |
’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’
最近、国内でIFNα製剤使用中の甲状腺低下症が3例、甲状腺機能亢進症が1例報告され、このうち3例でIFNα製剤使用後に甲状腺刺激抗体(TSAb)、抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体(TRAb)及び抗核抗体、抗ミクロソーム抗体、抗サイクログロビン抗体等の自己抗体(事故の生体構成成分に対する抗体)が陽性化していることなどから、これらの甲状腺機能異常はIFNαが関与した自己免疫現象に関連していることが疑われています。
なお、外国ではこの他にIFNα製剤による自己免疫現象との関連を疑う報告として慢性関節リウマチ、SLE、溶血性貧血、悪性貧血、血小板減少、乾癬、自己免疫姓肝炎等があります。
国内でも、IFNα製剤により自己免疫性肝炎、乾癬、溶血性貧血が、またIFNβ製剤で溶血性貧血が報告されていますが自己免疫現象との関連は明らかではありません。
*また下記のような報告もなされています。
1)IFNα製剤ではすでに報告されていたショックの発現がIFNβ製剤でも発現した。
2)IFNα製剤で痴呆様症状を発現したとする症例がある。
3)IFNα製剤で肝臓での薬物代謝酵素の活性を抑制し、特にテオフィリン、アンチピリンのクリアランスを低下させ血中濃度を高めることが報告されている。
◎インターフェロン(IFN)α、βはウイルス感染を受けた細胞が産生するウイルス増殖抑制作用を生理活性物質として発見され、分子量約2万の類似性の高蛋白質です。βには糖鎖がついています。抗ウイルス作用の他にも細胞増殖抑制作用、免疫増殖抑制作用、免疫調節作用を有することが明らかになっています。
自己免疫性肝炎
AIH:autoimmune heoatitis
出典:医薬ジャーナル 2002.2
自己免疫性肝炎は、女性に多く、検査所見で高ガンマグロブリン血症や抗核抗体を始めとする自己抗体の陽性所見が特徴的で、特にステロイドをはじめとする免疫抑制剤が良好な治療効果を示します。
疾患の原因は、まだ不明ですが、その発症・進展に自己免疫が関与する慢性肝炎と考えられています。
発症年齢は40〜50歳代で、組織学的寛解率は80%といわれていますが、治療中止後の再発は50%ともいわれ長期間ステロイドの服用が必要な疾患です。
症状:最も多いのは倦怠感、ウイルス性慢性肝炎に比べて黄疸を訴える頻度が35%と高い。他に食欲不振、関節痛、発熱など。
厚生(労働) 省AIH診断基準あり
AIHA
autoimmune hemolytic anemia
自己免疫性溶血性貧血
自己赤血球に反応する抗体が産生され、赤血球が破壊され、貧血を来たす後天性溶血性貧血。
臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがあります。
治療法:ステロイド、脾摘、免疫抑制剤以外の治癒方についてはまとまった報告はほとんどありません。
ステロイド剤は有効な治療薬ですが、ステロイド依存性で高用量を長期に使用せざるを得ない場合に起こりえる破滅的な副作用も知られています。
ITP
immune thrombocytopenic puroura
出典:日本内科学会雑誌 1999.12.10等
ITP:特発性血小板減少性紫斑病は明らかな原因や基礎疾患がないのに血小板破壊が亢進して血小板減少症を呈する後天的疾患です。
急性型はウイルス感染のなどの先行感染を認めることが多く、通常は3ヶ月以内に自然寛解し、小児で多く見られます。
慢性型は成人女性に好発し、自然寛解はほとんどなく、最近では血小板に対する自己抗体による臓器特異的免疫疾患と考えられています。
全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、リンパ増殖性疾患、HIVなどのウイルス感染症に伴う血小板減少症も同様の免疫学的機序によることから、欧米では一括して(auto)
immune thrombocytopenic puroura(AITP,ATP,ITP)とも呼ばれます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
自己免疫のしくみ
crypticペプチド
自己反応性T細胞が健常人で検出されることは、様々な自己抗原で示されており、この現象はcrypticペプチドという概念で説明されています。(cryptic:
隠れた,秘密の. なぞめいた. 暗号を用いた)
T細胞は抗原蛋白そのものではなく、プロセッシングの過程を経て抗原提示細胞(APC)表面に提示されたペプチドとHLA分子の複合体を認識します。APCによる蛋白のプロセッシングではアミノ酸配列から想定されるペプチドのうちごく限られたものしか作られず、さらにその中でも自己HLA分子と結合するペプチドだけが膜表面に提示されます。
一方、抗原由来のペプチドの多くはプロセッシングの過程で十分量が作られないか、HLA分子との結合性が低いために免疫応答を誘導することができません。このようなペプチドをcrypticペプチドと呼んでいます。
*プロセッシング(加工、前処理):自然界のほとんどの抗原はT依存性で、抗原提示細胞(APC)による処理を必要とします。これらのAPCは、抗原gをT細胞とB細胞の両方に提示します。T細胞は,サイトカインをつくることによって、処理された抗原に対してB細胞が応答して抗体をつくるようにします。
T細胞はその分子化過程で無限に近い抗原認識の多様性を持ちますが、そのうち自己HLA拘束性に自己抗原ペプチドを認識するT細胞は胸腺でのnegative
selectionの過程で除去されます。しかし、胸腺では、自己抗原のcrypticペプチドは認識されず、自己抗原のcrypticペプチドを認識するT細胞は自己反応性であっても除去されません。通常はこれらT細胞は末梢でcrypticペプチドに出会うことがないため問題とはなりません。
しかし、自己抗原のcrypticペプチドが感受性のあるHLAタイプを持っている人に発現すれば。これらのT細胞は活性化されて自己免疫応答が誘導されます。
64−KD
自己免疫と糖尿病
出典:臨床と薬物治療 2001.3
糖尿病の1種であるインスリン依存型糖尿病(IDDM)の原因は、インスリン産生細胞である膵β細胞に対する臓器特異的な自己免疫疾患です。つまり遺伝的に糖尿病成りやすい人は、β細胞を作るランゲルハンス島の64−KD蛋白によく似た外界抗原に曝露されると免疫反応を起こし起こします。
これは、ある微生物にストレスがかかったときに作り出されるヒートショック蛋白ではないかと考えられています。
それにより、免疫系の細胞障害性T細胞はβ細胞に存在する正常な64−KD蛋白を外界抗原と見誤り、64−KDを作っているβ細胞を攻撃します。損傷を受けたβ細胞は、MHC(腫瘍組織適合抗原)と呼ばれる別の蛋白分子をそれまでより多く作り出します。
MHC分子には、クラス1分子とクラス2分子があり、クラス1分子は免疫活動を更に増長させます。クラス2分子は本来なら免疫系の抑制システムを駆動しますが、遺伝的に糖尿病に成りやすい人では、ある種の欠損のために抑制反応が起こらず、反対に免疫反応を活性化してしまいます。
これらの過程でβ細胞は次々と死に、インスリン産生能力は次第に低下します。残った健康なβ細胞は、必要なインスリン量を供給するために過酷な可動が要求されます。このオーバーワークがまたβ細胞にとってストレスとなり、免疫反応を一層促進します。
major histocompatibility complex
主要組織適合遺伝子複合体
細胞免疫の立場からβ細胞破壊因子を考えると、中心となるのはヘルパーT細胞です。ヘルパーT細胞は、ある特異的な抗原を認識する受容体を持っています。ただし抗原はマクロファージや他の抗原提示細胞表面上のクラス2MHC分子と結合していなければ成りません。
MHCは組織の型を決定する蛋白で、自己以外の物質から自己の組織見分ける標識といえます。
ヘルパーT細胞が活性化されると、このリンパ球は免疫反応を活性化するサイトカインを分泌します。インターロイキン2もその1つで、ヘルパーT細胞自身の増殖も促します。また、細胞障害性T細胞(キラーT)の増殖も促します。
細胞障害性T細胞は、クラス1MHC分子に結合した抗原のみを認識します。他のインターロイキンはB細胞からの抗体を分泌し、それによって液性免疫反応を助長させます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
抗原提示
宿主が細菌、ウイルス等の病原体に感染すると、樹状細胞、マクロファージ、好中球等の抗原提示細胞(APCs:antigen presenting cells)
が病原体を補足し、細胞内の蛋白分解酵素を用いて消化して、その病原体に特有の抗原(特異抗原)の一部分(ペプチド)を主要組織適合抗原複合体(MHC)クラスⅠあるいはクラスⅡに結合させて細胞表面に移動させ、T細胞に提示します。
T細胞がこれを認識することにより、抗原特異的な液性免疫(抗体産生)あるいは細胞性免疫(CTL)が誘導されます。
この過程を「抗原提示(アンチゲン・プレゼンテーション)」と呼びます。
クロスプレゼンテーション
cross-presentation
一般に、ワクチン抗原のように生体にとって「外来性抗原」となるものは、抗原提示細胞において主要組織適合複合体クラスⅡを介してCD4陽性T細胞に提示された結果、液性免疫(抗体産生)が誘導されます。
これに対して、ウイルス抗原のような「内在性抗原」は、MHCクラスⅠを介してCD8陽性T細胞に提示された結果、細胞性免疫(CTL)が誘導されます。
しかし、外来性抗原であってもMHCクラスⅠを介してCD8陽性T細胞に提示され、細胞性免疫が誘導される場合があります。
これをクロス・プレゼンテーションと呼びます。
Danger仮説
病原体センサーは病原体成分を認識して、感染防御反応を誘導しますが、自己由来の物質である内因性リガンドにも反応性して恒常的な日感染性炎症反応を誘導している可能性が明らかになりつつあります。
癌などによる組織破壊に伴って惹起される自然免疫応答は、従来デンジャー・シグナルという概念で理解されています。
Dangerが発生している場所に複数の免疫担当細胞が動員されます。Dengerの原因が侵入してきた微生物である場合、これを殺傷することで生体を防御します。しかし健常時でも、また一般的な組織破壊を伴わない転移前での微小循環環境でも、内因性リガンドと病原体センサーの相互作用が機能しています。
この全貌をデンジャー・シグナルによりさらに広い概念で説明し、健常時から組織障害時までを不連続ではなく、連続的なものとして理解する必要性があります。
出典:ファルマシア 2010.2