メインページへ

H2ブロッカーの安全性

1991年2月15日号 No.81

医薬品副作用情報 No.106

     H2ブロッカーは1976年に発売されました。発売当初からその副作用については種々の情報があり、その安全性についてはさまざまな情報があり、その安全性について多彩な議論がなされていました。

 しかし、このH2ブロッカーほど徹底的に検討された薬剤は無く、その結果、H2ブロッカーは安全性の高い薬剤であることが明らかになって来ました。反面、まれではあるものの注意せねばならない副作用もいくつか報告されています。

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’
<最初に危惧された副作用>

1.胃酸分泌を抑えることによる生体への影響〜数年以上連用しても人体には大きな害はないとされています。

2.潰瘍が再発しやすくなるのでは?〜休薬による酸分泌の増加は大したことはないことが明らかになった。

3.発癌性について〜シメチジン服用中に胃癌が生じたと報告された症例は、最初から胃癌であったと判断されている。

(注)H2ブロッカーを服用すると早期胃癌の主症状である胃痛も緩快して、診断を遅れさせるおそれがあるので、良性潰瘍であることを確認してから、H2ブロッカーを与薬させることが求められています。

4.男子の精力減退

 若年男子でまれに問題となります。精液注の精子数が減少するとの報告もありますが、不妊症の報告はありません。(1991年)

*その他、シメチジンではまれに男性の女性化乳房、プロラクチンの上昇をきたすことが知られています。


H2ブロッカーの注意すべき副作用

顆粒球・汎血球減少症

 静注の場合に多く報告されています。経口でも見られマスコミでも問題とされた経過があります。
服用開始から比較的早い時期に生じています。薬剤により差があるようでガスターでやや多く経験されています。(1991年)


<相互作用>

タガメット(シメチジン)では、下記のような併用注意があります。

@臨床的影響(副作用)が報告されている薬剤
・P450阻害:代謝、排泄を遅延
クマリン系:ワーファリン
ベンゾジアゼピン系:ジアゼパム、トリアゾラム:ハルシオン
抗てんかん剤:フェニトイン、カルバマゼピン:テグレトール
三環系抗うつ薬系:イミプラミン:トフラニール
β遮断剤:インデラル、メトプロロール、ラベタロール
Ca拮抗剤:ニフェジピン:アダラート・L
抗不整脈剤:リドカイン
キサンチン系:テオフィリン、アミノフィリン

・本剤が近位尿細管でのプロカインアミドの輸送を阻害し、腎クリアランスを減少
プロカインアミド
・機序不明〜エリスロマイシン

A臨床的影響が報告されていない薬剤

ベンゾジアゼピン系:ミダゾラム:ドルミカム、クロルジアゼポキシド、ソラナックス、フルトプラゼパム、フルラゼパム
抗てんかん剤:デパケン、バレリン
三環系抗うつ剤:デシプラミン
Ca拮抗剤:ニソルジピン:バイミカード、ニトレンジピン、ニルバジピン:ニバジール、フェロジピン、ヘルベッサーR
抗不整脈剤:酢酸フレカイニド:タンボコール、メキシチール
駆虫剤:メベンダゾール


*腎機能が低下している場合には用量を減じる必要があります。個の注意を怠った場合には過量となり、痙攣を生じることがあります。


Cimetidine(タガメット錠)が効を奏した石灰沈着症

出典: 整形外科46巻11号(1995-10)1549
(久留米大学医学部整形外科 講師 樋口富士男ほか)


 Cimetidine(タガメット錠)は、上皮小体ホルモンを介した作用機序と末梢のH2レセプターに直接作用する機序が考えられています。

 Cimetidineが有効な場合は数時間から3日以内にその臨床効果が現れます。
ただ、すべての症例に有効ではない点(50%程度)を含め、今後さらなる検討が必要です。

*「Cimetidineが著効を示した関節周囲の石灰沈着症」

出典:整形・災害外科41巻No.1(1998)87
(香川労災病院整形外科 横山良樹ほか )

 抗潰瘍剤のCimetidineが、透析患者の石灰沈着症に有効という報告がある。透析患者
以外の関節周囲の石灰沈着を伴った9例10関節に投与し良好な成績を得た。治療は
ステロイド間注等の併用は行わず本剤のみを投与した。疼痛のほぼ消失までの期間は
平均7.8日、X線像上では1週間後に消失3関節、縮小4関節で、2週間後に縮小
3関節であった。石灰沈着例の自然軽快例もあるが、本剤が関節周囲の石灰沈着の臨
床症状の改善には有効な症例もあった。


<用語辞典> 2004年10月15日号 No.393

OAB
OverActiveBladder

過活動膀胱

 突然尿意を感じる「尿意切迫感」を主症状とする症候群

 頻尿や夜間頻尿、さらには切迫性尿失禁を伴うことから、患者のQOL低下抑制が治療上の最大課題とされています。

 患者の多くはこの病気を単なる加齢現象と捉えたり、恥ずかしいなどの理由で受診したがらない傾向にあります。

 従来、尿失禁を引き起こす病態としては、くしゃみや咳で尿漏れを起こす「腹圧性尿失禁」やトイレまで我慢できずに失禁する「切迫性尿失禁」、さらに両者の混合性のものなどが知られていました。

 OABは2002年に国際学会(ICS)で初めて承認された新しい疾患概念です。

 定義は、「尿意切迫感を主症状とする自覚症状症候群」とされ、患者の多くは昼夜を問わない頻尿を伴い、さらにその一部は切迫性尿失禁も併発します。

 「尿意切迫感」とは、膀胱に尿が溜まる途中の蓄尿時であるにもかかわらず、急激に膀胱不随収縮が起き、膀胱内圧が上昇することによって起こる尿意感覚です。

 パーキンソン病などの中枢神経疾患や、加齢などによる排尿筋過活動が原因とされていますが、過活動膀胱の診断基準は1日8回以上の排尿、かつ週1回以上の尿意切迫感です。ただし感染や膀胱癌など、膀胱そのものに疾患がある場合や、多飲や糖尿病による尿量の増加、また、心理的な影響によるものは過活動膀胱には含まれません。

 治療法としては、主に水分摂取の管理や、膀胱・骨盤底筋の訓練を行う行動療法と、アセチルコリンの増加を抑制することで膀胱の不随意収縮を抑える抗コリン剤による薬物療法などがありますが、行動療法だけでは限界があることから、薬物療法が重要な治療選択肢として行われています。

 しかし抗コリン剤は、唾液腺や腸の活動も抑制することから、口内乾燥や便秘などの副作用が起こります。

    {参考文献} 医薬ジャーナル 2003.12

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

BPHとOAB

BPH:benign prostatic hyperlasia    〜前立腺肥大症

 OAB(上記)は蓄尿症状を呈する疾患であり、BPHは蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状という多彩な症状が出現する疾患です。

 OABとBPHの症状は重なっていて、下部尿路閉塞をもつ高齢のBPH患者の50〜75%がOAB症状を持つという報告もあります。しかしそれぞれの疾患に対する治療薬は異なっていて、OABには抗コリン剤、BPHにはα1遮断薬が第一選択薬となっています。


                        OAB                                BPH
症状             :蓄尿症状                         :排尿症状  排尿後症状
                    : 尿意切迫感                     :排尿遅延  残尿感など
                    :昼間頻尿・夜間頻尿          :腹圧排尿
                    :切迫性尿失禁 など          :尿勢低下 など
性差             :男性/女性                       :男性のみ
第一選択薬  :抗コリン剤                       :α1遮断薬

 抗コリン剤は、膀胱収縮を抑制することにより蓄尿症状を改善する薬剤ですが、BPH患者に最初から抗コリン剤を用いると、尿道が閉塞している状態で膀胱が弛緩してしまうため残尿量が増加します。この状態が増悪すると尿閉を引き起こしているOAB患者には、抗コリン剤ではなく、まず排尿する尿路を確保すために尿道内圧を低下させるα1遮断剤が用いられます。

      出典:大阪府薬雑誌 2007.7

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

LUTS
lower urinary tract sympyoms
下部尿路症状

国際禁制会議(ICS)で下部尿路機能に関する用語基準が大幅に改訂されました。

下腹部機能に関わる症状を排尿症状、蓄尿症状、排尿後症状と分類し、これらをLUTS(下部尿路症状)としました。

このLUTSには、性交に伴う症状、骨盤臓器脱に伴う症状、生殖器痛、下部尿路痛、生殖器・尿路症候群および下部尿路機能障害を示唆する症状症候群も加えられました。

女性のLUTSでは蓄尿症状が多く、症状の一つである尿失禁の中では腹圧性尿失禁が最も多く、切迫性尿失禁がこれに次ぎ、両者を合併する混合性尿失禁も多く見られます。

また、頻尿、尿意切迫感を主症状とし、ときに切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱(OAB:上記)も新しく定義された疾患概念です。

<関連用語>

 

Malu LUTS:男性下部尿路症状〜加齢とともに有病率が上昇し、60歳以上の78%が何らかの下部尿路症状(LUTS)を有するとされています。

BOO:下部尿路閉塞:bladder outlet obstruction



メインページへ