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ACE阻害剤の副作用と相互作用

1989年6月1日号  No.44

 

 アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は、生体内での、レニン・アンジオテンシン系を阻害し、昇圧物質であるアンジオテンシン2の生成を抑制することにより、血圧を下げる薬品です。

 ACE阻害剤は、低用量で用いる限る、安全で有効な降圧薬であることは広く認められています。
しかし、下記のような副作用があります。

[参考文献]医薬ジャーナル 1989.5

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1.レニン・アンジオテンシン系の抑制に基づく副作用

a:初回服用時の低血圧

利尿薬を長期服用している患者や食塩制限下にある患者がACE阻害剤を無造作に服用すると、急激な低血圧とそれに基づく失神が起こる場合があります。高レニン性や高齢者の高血圧患者では要注意。

b:腎障害〜両側性の腎血管性高血圧患者、単腎でその腎動脈が狭窄している患者にはACE阻害剤は使用しない。(慎重)

重篤な腎機能障害(クレアチニンクリアランスが30ml/分以下、又は血清クレアチニンが3mg/dl以上の場合には、量を減らすか、間隔をのばすなど慎重)

2.レニン・アンジオテンシン系の抑制とは無関係(1989年当時の記事です。下記注参照)

a.発疹〜高用量では12%、低用量では1%以下。服用を中止すれば数日以内に消失

b.味覚異常〜日本での発現頻度は0.5%以下で外国よりはるかに低い。味覚が正常化するには、中止後数週間かかります。

c.空咳(注)〜数週〜数ヵ月で出現する例が多い、女性が男性の2倍、非喫煙者が喫煙者の2.5倍、服用を中止すれば通常1週間以内に消失する。


(注:キニン分解を阻害する作用によると思われる)


<ACE阻害薬の相互作用>

1.利尿剤:作用増強〜起立性低血圧に注意
2.アルダクトンA(カリウム保持性利尿剤):体内カリウムの増加(特に腎機能障害のある患者)   
3.NSAIDs:効果原弱(インドメタシンでは高カリウム血症が生じた例がある)
4.サロベール(アロプリノール):発熱、筋肉痛、好中球減少、セタプリル、カプトリルで作用増強
5.インスリン:原因不明の低血糖
6.免疫抑制剤:プレドニン、エンドキサン、イムラン等により好中球の減少(添付文書には記載無し)
7.カリジノゲナーゼ製剤〔本剤との併用により過度の血圧低下が引き起こされる可能性がある。〕

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2000年付記

ACE阻害剤とA2阻害剤(以下A2A:AIIA)との違いに

■作用機序

○ACE阻害剤
 ・AIIの産生を抑制することにより昇圧系であるレニン−アンジオテンシン(R−A)系を抑制
 ・ブラジキニンの分解を阻害することにより降圧系であるカリクレイン−キニン(K−K)系を賦活化
 ・PG系の活性亢進
 ・アルドステロン産生抑制
 ・神経終末からのNEの遊離を減少させ、交感神経活性を低下させる
 ・圧受容体反射機能を抑制
 ・バソプレッシンを抑制
 ・中枢神経系を介する作用
 ・組織のR−A系も抑制し、降圧効果以外にも様々な効果を示す。

※SH基を有するACE阻害剤はインスリン感受性を改善することが報告されている。
※うっ血性心不全の治療薬として用いられ、臨床症状・血行動態の改善や生命予後の改善の報告が多い

○AIIA
 ・AIIAはACE阻害剤とは異なり、キニン分解を阻害する作用がないため、咳・発疹・脈管神経浮腫などの副作用が少ない。
 ・臓器によってはACE以外の酵素(キマーゼなど)によって産生されたAIIも受容体レベルで遮断できる長所を有する。
 ・動物実験では、高血圧性、糖尿病性腎障害に対してACE阻害剤と同様の保護作用も有する。
 ・AII受容体拮抗作用のため、動脈硬化、心肥大、血管障害などに対する予防効果も期待されている。

◎ニューロタン(ロサルタン)
ACE受容体阻害剤(AUA)
AngUの産生には、ACEだけでなく、多種の酵素が関与してる。AUAはAngUと受容体との結合を阻害するので、AngUが存在してもその作用の発現を抑制する。
ACEを阻害すると、AngUの産生が阻害されるとともにブラジキニンやサブシスタンスPの分解を抑制する。
ブラジキニンはプロスタグランジンI2(PG2)、一酸化窒素(NO)を誘発し、血管内皮由来過分極因子(EDHF)を誘発すると推測されている。一方、このとき蓄積されるブラジキニンやサブスタンスPは咳の原因と考えられている。

◎アンジオテンシンと受容体
AngU受容体には亜型があり、AT1とAT2に分類されている。
AT1は主として血圧調整に関与し、AT2は細胞増殖や線維化等に関与すると考えられている。
ヒトについてはAT1およびAT2それぞれの分布に関するデータは未検討の部分が多いが、血管にはAT1の存在比が高いとされている。


 AUAはAngUの産生経路を問わずその作用を抑制し、また、AngUはAT2を介して細胞肥大および線維化の抑制傾向を示すため、ACE阻害剤とは異なる機序の心筋保護作用が期待されている。

アンジオテンシンUの生理作用
血管:平滑筋収縮〜急激な血圧上昇
心臓:細胞成長〜心肥大、リモデリング
副腎:アルドステロン産生〜成長因子、水分貯留
腎臓:Na、水分再吸収〜緩徐な血圧上昇*
中枢神経系:抗利尿ホルモン分泌**〜急激な血圧上昇*
自律神経系:ノルエピネフリン分泌〜急激な血圧上昇

*水分貯留による
**バゾプレシン

AngUに起因する心疾患
AngUは受容体を介して血管を収縮し、さらにアルドステロンの分泌を促進して体液の貯留を促す。その結果、後負荷(機械的因子)が増大する。
AngUは蛋白合成を促進し、アルドステロンとともに線維化を促す(体液性因子)。
両因子は高血圧または左室肥大の発症原因となり、さらには心筋梗塞、不整脈または心不全等の心疾患へと進展する。

 ロサルタンは他のAUAとは異なり、軽度ではあるが尿酸排泄作用を示す。
一般に、AUAを投与すると負のフィードバック機構により、血漿中AngU濃度は上昇するが、ロサルタンの場合降圧効果に問題は無いことが認められている。さらに、ロサルタン投与後の血圧低下に基づく反射性頻脈はなく、中止によるリバウンドの発現が無いことも確認されている。


<医学用語辞典>

ICU症候群

 ICU症候群は、集中治療室(ICU)あるいは冠疾患集中治療室(CCU)などで治療されている患者に発現する精神症状の総称です。具体的には、不安、抑うつ、せん妄などがあります。しかしその定義は明確なものではありません。それは、症状が外科、麻酔科、精神科等を兼科している患者に発現するからですべて1つの症候群として一括するには、症候群としての体裁が整わないためです。

 近年、手術も広範になり、術後の精神症状を認めることが多くなってきており、このような精神症状をICU症候群としてとらえる考えが出てきました。

 また、ICU症候群という概念が出来て以来、手術等に関係なく、元来罹患していた精神疾患までもICU症候群とされ、一部で混乱も生じています。この混乱を避けるため、ICUに入室した患者の精神症状の診断には、精神医学での疾患分類を用いる必要があるとされています。

※ ICU症候群の定義

 1.ICUでみられる精神障害
 2.環境要因、性格要因などの心理的要因による不安状態、抑うつ状態、幻覚妄想状態(反応性)などの精神症状を意味します。身体的要因が環境と相まって発症するせん妄も含みますが、これは別にICUせん妄とします。
 3.ICUせん妄と明確に診断する。

*ICUに入室してから2〜3日の意識が清明な時期を経た後に。主としてせん妄を呈し、その症状の経過後は何ら精神医学的な後遺症を残さない。   
 その発症には環境要因に加えて、身体的要因が強く関与していること。

 ※ 依存薬物の離脱症状、薬物性のせん妄などの原因の明らかなものは除外しています。

  出典:日本病院薬剤師会雑誌 2006.10
 

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