ひとみ座50周年記念公演「リア王」感想メールより

98/1/15の「中野スペースゼロ」での公演を観て下さった方から
当時この様なメールをいただきました。
ここまで細かく観て下さる方はめったにいないのでとても嬉しく思いました。
「リア王」をご覧になられなかった方や 人形劇なんて観た事無い どんな物? 
と思っていらっしゃる方々に少しでも参考になればと思い掲載いたします。

リア王、ビデオ化してください!!
はじめまして。
今日「リア王」を観させていただいた一人です。 劇をみて感想をメールで送ることなど今まで一度もありませんでしたが、 とにかく面白さと驚きで、とても気分よくさせてもらえたのと、 劇団の方へ届くアンケートなどがなかったので、メールを出すことにしました。 とにかく、もう最高に面白かったです。 演劇は、最近は特によく観に行っているのですが、 観終わった後にこれほど気持ちが良かったのは久しぶりです。 それほど、話にのめり込み、演出に舌をまいてしまう程の、 パワーとテクニックがあったんだと思います。 リア王自体は今回が2度目で、ストーリーは知っていましたが、 劇を観ている間の熱中度は、まるで知らない演劇を初めて観ている 時のそれとまったく同じでした。 おそらく人形劇をライブで観るのは初めてなので、とにかく 人物の演技の巧みさに心を奪われてしまっていたからだと思います。 いまだに、演技のどこにそれほど心を奪われていたのかがわからない のですが、動きも巧みですし、声の演技もとても魅力的で、 表情も変わらない人形にあれだけの生命感を入れられることが、 いまだに驚きとなって残っています。 生の人間とは違った迫力のある演技力+最後の魂が抜けて本当に「抜け殻」と なるところなどの、人形ならではの演出に心底参ってしまったみたいです。 いくつか心に残ったシーンを書きたいと思いますが、 まず何よりもラストの王が死ぬシーンが印象に強く残りました。 人形遣いの人が手を隠して後じさりするところは、まさに魂がなくなり 有機的なものから無機的なものへの変貌を空間全体から感じることができました。 同時にそのことによって逆に、周りいるキャラクター達の生命感が 強調されて伝わってきたのも印象的です。 とにかくあのシーンには「生」そのものがあったように思います。 それ以前にも同じような形で「死」を表現しているところがありましたが、 それらのキャラクター達の場合、屍として本当に人形と化してしまった ところを、乞食などに煩雑に消されてしまうのに対し、最後は (周りのものも含め)丁重に運ばれている事で、それがただの人形では なく、やはいそこに元々魂の入っていた・・・どう表現したらいいのか 難しいですが、尊いもの(まさに遺体、仏様?)であると感じました。 1体に4人くらいで大事そうに運ぶさまがとても印象的です。 それとやはりグロスター伯が目玉をくりぬかれてしまう所のシュールさも 人形劇ならではとは、まさにその通りだと思いました。 その逆だったのがオズワルドが簡単にやられてしまうところでしょうが、 言葉で表現すれば撲殺とも書けそうな事柄を、ああもあっさりと 表現できてしまうのも人形劇ならではなのでしょうか? 軍隊などのモブシーンや、戦争のシーン(植木鉢の方)も ユーモラスたっぷりで印象的でした。 戦争シーン自体を2パターンの視点に分けているのもすごいです。 王に仕える騎士など、その他大勢的なキャラクターを、顔を隠した 黒装束の人間にさせたりするのも上手いと思いました。 個々は無個性でありながらも、演技があって、その場の雰囲気を みごとに作りだしているように感じました。 あと全体を通して、キャラクターの「足」の使い方、特にケント伯が 足かせをはめられたり、トムが足を抱えてすわるところなどの 「足」には、観ていて思わず「上手い!」ともらしてしまいました。 音もとても良かったです。 馬の足音を一緒に動かすのは、人形劇などでは当たり前なのかも しれませんが、僕にとっては衝撃的でした。 効果音がそのキャラクターと一緒に移動するなんて、現実では 当たり前でも、演劇の中ではそれはそれと割り切っているのが普通の ような気がしますが、それが一緒に動くことによって生まれる 臨場感のすごさは驚き以外のなにものでもありませんでした。 あと嵐の道具も初めてみたのですが、あれもいいですね。 ギターの生演奏も上手く芝居の中に溶け込んでいたと思います。 役者さんの声もとても魅力的で、声の演技もすばらしかったです。 ほかに僕が演劇を観ていて、面白いと感じるものの一つに、 舞台の活かし方があります。 空間演出の巧みさとかを観せられると、驚きや関心となって、 僕の中でその演劇の楽しさが、一段と光るものに変わってきます。 今回のリア王もまさに、その一つだったと思います。 とにかく頭がいいとしか言い様のないほどに、縦横無尽な 舞台の活用には、心底感服致しました。 (舞台だけの話ではありませんが)嵐の中で王が叫ぶシーンは とりわけその印象が強かったです。 あのシーンは本当に嵐の中にその人物がいるように観えました。 僕の好きな劇団に「ナイロン100℃」というところがありますが、 そこもまた、舞台の活用が巧みで印象的なのですが、今回の リア王はそれとは少し違った感じで上手な活用をされていたので、 本当にいい勉強になったと思いました。 最後に若干気になった所もあえて書いておくことにします。 この作品に本当に惚れてしまった気がするので・・・。 気になったのはラストシーンです。 (この辺の価値観は人によって違うとも思いますが・・・) リア王は悲劇であることがその面白さだと思っています。 その最も悲劇であるところは、娘に虐待されることでも、 気が触れてしまうところでもなく、やはり最後につかみかけた 本当の愛を守りきれなかったところとその嘆きのセリフに あると素人ながらにも思うのですが、肝心のコーディリアの 死の印象が、正直とても薄かったです。(知っていたから?) 素人なのでどうして自分自身そう感じたのかはわかりませんが、 そのことが、今回の観終わった後の印象で、 「さすがはシェークスピアだな。やはり面白い」 とはならず、 「ひとみ座ってすごいなぁ」 事実そうなっているところにあるのかもしれません。 それと途中道化師が用をたすところも、少々人間離れ的な感も ある(悟っているということで)道化師を、わざわざ人間臭く 戻してしまってるけど、それは狙いなのかなぁ・・・。 とも思いました。 素人が生意気な事を書き過ぎてしまった感もありますが、 ただ最初に書いたように、とても充実した時間を得られたことで 気分よく帰れたことは本当です。 また、1/17、18、新国立劇場にも当日券狙いですが、 再び観させていただこうとも考えています。 今後の活動に期待しています。頑張ってください。 P.S. 受付にいた関係者の方にも聞いて、ないとのことですが、 本作品のビデオ化を心から希望します!! (5年に1度と聞いてしまえば尚更です) ぜひ実現させてください。絶対に購入して、ライブラリーとして 大事にさせてもらいます。 これだけの作品ならばこそ、営利目的ではなく、 演劇の中でも貴重な記録として、映像化してもらいたいです。 (最後の最後にまた生意気書いてすみません) 劇団の益々の御発展と、関係者の方々の健康を心からお祈りします。
それでは失礼致します。

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