富安陽子さんってどんな人?

「小さなスズナ姫ニュース」No2より

●今号から二回にわたって「小さなスズナ姫」シリ―ズの作者・富安陽子さんとのインタビューから、作者の人となり、作品の背景、想い、劇化するに当たっての制作、演出家の想いなどを、抜粋してご紹介します。なおインタビューは、一九九九年一月二五日に、大阪府箕面市にある富安陽子さんのお宅で行いました。

山田…この作品を人形劇にしたら?と言い出した者です。「きつね山の夏休み」に出会って以来、富安さんの書かれた物は、ほとんど読みました。森とか、沼とか、お社とか、作品の背景は田舎が多いですね。どんなところで育った方なのですか?

富安…生まれは、東京の豊島区です。が、父が都市計画をやっていまして、ニュ―タウンのマスタ―プランを作る仕事だったのです。始めは単身赴任だったのですが、六○年代頃、大阪に次々と大きなブロジェクトが動き出したので、家族で移り住むことになりました。引つ越した最初は昔から山があるような所で、次に越すときは、そこに新しい街が出来ているみたいな。たぶん私が書く物は、そういう「はざま」のような場所で舞台を書くというか、普通の生活と山との境界線だったり、現実の世界と異界との境界線、ちょうど真ん中あたりを舞台に書くことが、多いのかなと思います。

山田…その境界ですが、小さいときから、いろいろ昔話を間かせてくれる人がいたとか…。

富安…そうですね。東京の生家では両親の他に、祖母と伯母と四人も大人がいて、初めての女の子として生まれてきたので、ずいぷん構ってもらえたのだと思いまず。おばあちゃんがタヌキの話とか、カッパの話とか、読み聞かせではなく実体験として語ってくれるんでず。「子どもの頃ようけ見た」とか言って。伯母も父もそうですが、富安の血はどうもホラ吹きらしくて…(笑)だから何となくそういう不思議なものが、そんなに離れたところじゃなくいるような気がして、育ったのだと思います。

石川…妖怪の存在みたいなのは、子膏ての上でも大事でして、例えば「つちころばせ」という妖怪がいるんですね。子どもが何もないところで転ぶと「つちころばせ」の仕業だということになって、母親は目に見えないけれども、妖怪の棲んでいる土をたたくのです。悪さをしないように。そういう目に見えない力を信じるみたいな事って、どうでしょうね、幼児には。

花輪…僕は一五年ぐらい幼児と接してきましたが、彼らにお話を聞かせますよね。「ウン」と言って受け止めてくれるんだけれども、「エッ」というちょっと手の届かない物、つまり目に見えない物のあるお話は、根深く残っているんです。一年くらいして「あれはどうしてだったの」なんて間かれたりする。そういう意味でこの物語は、子どもたちにとって、雲の上に隠れる部分がたくさんあって、面白いなぁって思います。そして、連中が雲の上にとぴあがっていこうとする。演出家としては、そういうイメ―ジを触発して行きたいなぁって思うんです。心の封印を解いて、子どもたちのハ―トに届けさせたいなぁって。

富安…お願いします。子どもたちも一世代しか違わないのにすごく変わりました。でもやっぱり不思議を信じる力みたいなものは、持っていると思うんです。うちの子なんが「おかあさん、ほんとはカッパなんだよ」って言ったら、信じていたみたいでしたね。うちのガレ―ジはリモコンで開閉するんですけど、手どもの友達が来たとき、リモコンをポケットに隠して「開けゴマ」に合わせて開け閉めしてやったら、その子はその後も呪文を唱えて、動くがどうか試していたみたいだったし、知識は知識として入って行くんでしょうけど、それとは別の所にそういう事を信じるキャパシティもみんな持っているんだろうなあって思うんですよねぇ。

(つづく)

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