あるアイの物語(春の午後編)前編
 

「ふあぁぁぁぁ、ああ、ヒマ〜」
人気の無いのを良いことに飛び切り大きなあくびをすると、誰に言うでもなく、そんな愚痴をいってしまう。
大通りに面してるわけでも、駅前でもないこのHOP MARTは人入りがそこそこあるが、決して多くは無い。
ま、そんなだからバイト中に副業もこなせるわけだけど…
「あ、居た、居た。ヒカル兄ちゃん」
人気の無い店内に一際明るい声が響く。
自称ジャーナリストのアリカだ。
「なんだ?今日もメモリー買いに来たのか?…あれ?えーと、イッキ…だよな?」
アリカに続いて店内に入ってきた人影を、指差す。
疑問符がついてしまったのは見慣れたイッキとどこか違うからだ。
「ヒカル兄ちゃん…ヘアーゴム売ってる?」
力なくたずねるイッキを見て、さっきの違和感が何なのか、確信した。
何時も頭の後ろでちょんまげてる髪が今日は下ろされてる。
「どうしたんだよ、その頭」
「ああ、あれね。さっき公園で遊んでたら木の枝に引っ掛けてゴム千切れちゃったのよ」
まったくドジなんだから。とアリカ。

「なるほどね、ゴムなら右の棚の奥、上から2段目に在るよ」
「サンキュー」
一目散にゴムを探しに良く。
やはり、慣れないヘアースタイルは落ち着かないのだろう。
「ところでさ、ヒカル兄ちゃん甘酒新聞読んでくれた?」
「ああ、トップ記事いいよな!あれなら店先に貼ってもいいぞ」
「なぁ、なぁ、月刊ムシノシラセ発売日何時?」
「メタビー何時も立ち読まないでたまには買ってくれよ」
「ああああああ!!!!!!」
アリカとメタビーとの何気ない、店員とお客の会話をイッキの大声がかき消す。
「何?何?何なのよ!?」
アリカが駆け寄るも先に、イッキのほうがレジに駆けてきた。
心なしか、半べそだ。
「お、オレ…今月のお小遣い、昨日使い切っちゃったんだ…」
そうゆうと、「ぱんっ」と両手を顔の前で合わせて
「お願い、ヒカル兄ちゃん!つけておいて!」
などと言う、一体そんな言葉何処で覚えてくるのやら。
「ウチはそうゆうことやってないんだよね、悪いけど」
「しょんな〜。アリカ!アリカ!お金貸して!」
今度はアリカに拝み作戦。
「もう、無計画に使っちゃう方が悪いでしょ…でもま、しょうがないわね…」
「サンキューアリカ!お小遣い出たらすぐ返すから!」
「いいわよ、返さなくても」
そんなことをさらりと返すアリカ。確かにそんなに高いものじゃないけど、金の貸し借りはきっちりしといたほうがいいぞ。
などと思ってしまう。
この申し出にイッキも不思議だったのだろう、間抜け面をさらしている。
「そ・の・か・わ・り」
「へ?」
あ、他人事だけど、やな予感。
「私に、あんたの髪いじらせて!」
「はい?」
「一度やってみたかったのよね、イッキ結構髪長いんだもん。ちょっと遊ばせてよ」
女の子の好きなお人形遊びの延長だろう。イッキの頭で美容師の真似事がしたいらしい。
「別にイイケド…」
「よし、決まった!はい、ヒカル兄ちゃん、御代!イッキはあっち座って!」
小銭をレジに「ばん!」と置くとイッキを飲食コーナーの椅子に座らせる。
しゃべれる、食べれる、HOP MART。
「ちょうど、このくらいで均等かな?」
「アリカちゃん、右ちょっと下げたほうが…」
「え?ああ、ブラスこっち持ってて」
「いたた、あんまひっぱんなよ」
などと声が時折聞こえてくるが、飲食コーナーはレジから見得にくい所に位置しているから、こっちからはイッキがどんな髪型にされているのか,全然見えない。
う〜ん気になる…見にいこっかな…などと考えたその時。
「出来た!ヒカル兄ちゃんちょっと見て!」
アリカがイッキを引っ張って戻ってくる足音が聞こえた。
どうやら声色からして、会心の出来らしい。どれどれ。
「ぷっ」
悪いと思いながら噴出してしまった。
そこには二つにお下げにされたイッキが立っていた。
笑ったのはそれが似合わないからではなく、案外似合っていたからだ、さっきも思ったんだけど、髪型一つでこうも印象が変わるとは…

「なんだよ、ヒカル兄ちゃん。そんなに変な頭にされてんの?」
鏡の無い店内では本人がどんな頭にされたか確認のしようがない。
「そんなこと無いですよ、とっても可愛いです」
「ぎゃはは。もう、最高!!!!イカスゼ!イッキ!!」
「なんだよ、やっぱ変な頭なのかよ、もう…」
お金が払えない以上、文句も言えないのか上目遣いにアリカを睨む。
「似合うわよ、あたしと、ブラスを信じなさいって」
「ええ、良くお似合いですわ。」
イッキとアリカの背後から、何時の間に入ってきたのかカリンちゃんの声。
「か、カリンちゃん!!何時の間に!!!!」
自分では確認してないとはいえ、不本意なヘアースタイルを見られて、イッキはあからさまに焦っている。
「イッキさんが借金の肩に身売りした辺りからですわ」
「見売りって・・・そうとも言えるけど、ヤな言い方ねぇ」
「それで、私、良いことを思いついて、さっき家の者に電話していましたの」
「電話?」
「ええ、そろそろ届くと思います」
カリンちゃんの神出鬼没ぶりに一同が唖然としている間に、会話はカリンちゃんペースに持ち込まれてしまったらしい。
「届くって…?」
イッキの質問は店の前に横付けされた数台のトラックの廃棄音にかき消さた。
そのトラックからは数人の男たちが何やら箱を運び出し、店の前にはダンボールの小山を作っていく。
「なに?これ?」
「一年分のメタビーさん用の弾薬ですわ」
「え?マジ?もらってイイの??」
「遠慮なさらずにどうぞ。」
「ええ、でも悪いよ、カリンちゃん。一年分っていったら結構するし…」
はしゃぐメタビーとは裏腹に、遠慮するイッキ。お嬢様から見ればどうって事無い値だろうが、やはり子供ながらに遠慮する心があるのだろう。
「ええ、ですから御代はイッキさんの体で支払って頂きますわ」
さっき、アリカさんもそうなさったでしょう?
と微笑むカリンちゃん。
へ?っと一瞬石化するが、すぐに自分の置かれた状況が理解できたのか。
「ダメだ、メタビー!返すんだ!!」
と叫ぶが、時すでに遅し。メタビーはもらった一年分の弾薬箱を全て開封してしまっていた。
おお、すばやい。
「何やってるんだよぉ、メタビーぃぃぃぃ」
「なにって、プレゼントもらったら開けたくなるのが人情ってもんだろうが。それに検品もしないとな」
「さあ、さあ、イッキさんはこちら」
逃げられない状況に追い込まれたイッキを引きずって、先ほど来たトラックへつれて行くと、荷台へ押し込めて。
「皆さん、後よろしくお願いしますわね」
と言うと、そとから鍵を閉めてしまった。
イッキ、生きて帰ってこいよ・・・

 

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