世界の中心はどこにある



 上田紀行の新刊を読んだ。前著『日本型システムの終焉』を書いてから、執筆スランプに陥っていたそうだ。

 『生きる意味』は、会心の1冊だ。彼の主著になるのではないか。小見出しをいくつか拾ってみる。
中高年の自殺
「みんなと同じ」への抑圧
「どこにでもいそうな」私
グローバリズムの弊害
構造改革の罠
「数字信仰」が損なうもの
 だいたい、何を問題にしているかこれでわかる。
 これまでの日本社会は、ある意味で「子ども」社会であったと言える。親のいうことを聞いていれば何事もうまくいくように見えた。しかし、その親も本当に自分の頭で物事を考えているのではなく、「世間」の目から縛られるままに行動してきた。
 しかし、そうした構造はもはや私たちに幸せをもたらさない。それは私たちの尊厳を奪うシステムであり、私たちに傷を負わせるシステムである。(p54)
 こういう不毛なシステムを、「生命の輝き」のある「生きる意味」を創りだす社会へ再構築するために、「内的成長」というキーワードを提示する。それは生きる意味の成長である。そして今は、生きることの創造性、内的成長の豊かさが求められているのだと。

 さらに内的成長をもたらす条件へと筆を進める。最後まで読んで、お説ごもっとも、しかしインパクトないな、と思う人もいるだろう。たしかに解決策としては弱いかもしれない。しかし問題点は核心をついているし、めざす方向も悪くない。本書を批判的に読むならば、よりよい解決策を提示してほしい。そこからしか私たちの生命の輝きを取り戻すことはできないだろうから。

 著者は、「癒し」という言葉を使うのをやめた。そしてコミュニティーの「再創造」を訴えている。前著に対する私のコメントに答えてくれているようで、とてもうれしい。
  • 生きる意味 上田紀行 岩波書店 2005 岩波新書新赤版931 NDC361.4 \777

  • がんばれ仏教! お寺ルネサンスの時代 上田紀行 日本放送出版協会 2004 NDC180.4 \1,218
     『生きる意味』の各論にあたる本
(2005-04-09)