朱蒙



「朱蒙」(チュモン)は、韓国で50%以上の視聴率を記録し、高句麗ブームを起こした大河ドラマ。

紀元前108年、漢の侵略により古朝鮮が滅亡した。ヘモス将軍は、国を失った流民たちを率いて漢に抵抗する。河伯(ハベク)族の娘ユファ(柳花)が、ヘモスの子チュモンを産む。彼は、ヘモスの親友で扶余(プヨ)の太子クムワ(金蛙)のもとで王子として育てられ、いったん王室から追放されるが、やがて高句麗を建国する。そんなストーリーだ。

ちょっと見たところ、中国のドラマかと思った。扶余はどう見ても中国文明にどっぷりで、まだ朝鮮というアイデンティティがなかったようだ。配役もヘモスやユファの親世代はいいのだけど、チュモンやソソノの子世代がミスキャスト。一方、クムワの正室役キョン・ミリには期待がふくらむ。机バンバンみたいなシーンをまた見たい。

「チャングムの誓い」のときには、漢字を韓国の人はどうみているのかが気になった。チャングムが読む医学書はすべて漢文だし、明の使者には平身低頭だし。当時ハングルはすでに発明されていたのに、公の場ではいっさい使われていなかった。

中国文明一辺倒は、たぶん太古からの伝統なのだろう。歴史がよくわからないので、少し調べてみた。満族はツングース系民族だが、扶余や高句麗は違う。「朱蒙」を見る韓国の人は、扶余や高句麗が支配した満州を故地とみなしているのだろうか。

「漢書」によれば、倭は当時百余国にわかれていた。それでも倭国は、漢を中心とする通商ネットワークの一部を形成した。倭人は300万人もいたので、商売の相手として魅力があったからだ。吉野ヶ里遺跡から出土した鏡(おそらく輸入品)には、「長いあいだ会えなくても、いつまでも忘れないで」と漢字で刻まれている。当時の倭人は漢字が読めず、ファッションでしかなかった。ドラマでは、商人が竹簡で手紙のやり取りをしているし、扶余は鉄の刀を試作している。倭よりも扶余の方がはるかに進んだ文明を保持していた。以上、推測まじり。

古朝鮮とは、燕人が作った衛氏朝鮮のことで、倭と交流のあった国のこと。最古の朝鮮の歴史書「三国史記」は12世紀の成立。日本の「日本書紀」は8世紀で、400年も早い。おまけに「古事記」と「万葉集」があって、古代日本語の姿を知ることができる。脚本家も史料が少なくて苦労したのではないか。

チュモンとは、扶余のことばで弓の達人という意味だそうだ。中島敦「名人伝」に登場する趙の紀昌と対決させてみたい。

(2007-06-19)