著者に語りかける



 ナンシー関が亡くなって4年たつ。

 『ナンシー関大全』(文芸春秋)は、遅れてきたファンである私にとってうれしい本だ。コラムの傑作選だけでなく、年譜や仕事部屋の写真もある。

 2002年に亡くなるまでの10年間は、彼女の時代だった。30歳のとき「クレア」で大月隆寛と対談をはじめ、翌年には「週刊朝日」と「週刊文春」の連載がスタートしている。

 消しゴムは高校のころから彫っているし、20歳のときからコピーライター養成学校に通っている。プロの書き手になるには20代からの研鑚が必要なようだ。

 本を読みながら考えたのは、文章を書くことについて。

 「週刊文春」での連載は、雑誌というメディアとぴたりと息が合っている。内容、文体、書く場所のベストマッチングだ。おそらく新聞のコラム欄では内容が合わず、ネットでは文がきつすぎる。

 ここまでスタイルを確立してしまえば、そこからはみ出さないですむ。アマチュアはそういう制約がないので、好きに書ける。しかし自由度が高いということは、迷いのもととなる。

 収録されている記事は、今読むとたしかに古い。アマチュアでも、まぐれで切れ味のいい文章が書けることもある。しかし本を眺めつつ、やはりプロは違うなと思う。自分になくて彼女が持っていたもの、それは覚悟の二文字かもしれない。

 ところでこの本、家族が書いた文章や小さいころの写真まで載せている。いくら「大全」とはいえ、こんなに厚い本を出す必要はない。草葉の陰でナンシーが泣いている。
(2006-05-25)