オタクという病を見つけたり



 親が子どもを虐待するなどの機能不全家族で育った子どもが成人するとアダルト・チルドレンになりやすい、という趣旨の本がちまたにはあふれている。なんでもかんでもアダルト・チルドレンというひとつの発想で切り取ってしまうを見て、斎藤美奈子は、アダルト・チルドレン人口をそんなに増やしてどうする、と鋭いつっこみを入れている。

 そんなもやっとした感じのあるアダルト・チルドレンにくらべてよく分かるのが、中島梓の『コミュニケーション不全症候群』だ。

 オタク、ダイエット症候群、JUNE(ジュネ)小説の世界の3つを取り上げ、その病態を詳しく述べ、さらにその3者をコミュニケーション不全症候群という1つの概念でくくっている。

 このひとことで分からない人のために、実例を示そう。オタクは、宮崎事件であり、人気アニメのコスチュームを着て踊ったりするコスプレであり、コミック・マーケットに繰り出すマンガ好きである。ダイエット症候群は、亡くなった元ダイアナ王妃であり、宮沢りえである。JUNEは、竹宮恵子のマンガであり、栗本薫(中島梓と同一人物)の小説である。

 「間引きなどは存在しない」、「すべての人間は生きる基本的人権を有する」というのは現代社会の共同幻想である、と言いきる。さらに彼女は、オタクとは仮想空間に居場所を見つける人、と定義している。それなら今のインターネットの世界はオタクだらけということになる。

 そしてコミュニケーション不全症候群を次のように定義する。現代への過剰適応の結果生じた、自己愛は持てないのに社会に受け入れられたいという欲求を持ち、一方通行の関係性しか持てずに他者の存在に知覚障害を持つ、進行性の病気である、と。そして困ったことに、本人に病識がないのである。

 この本は10年近く前に執筆が始まっているが、ここ数年の保健室登校などに見られる一連のこころの問題は、当時すでに秒読み段階にあったことがうかがえる。

 中島は、自分を直視し苦しみを認識する勇気を持ちつづけること、という処方箋を書いている。しかし、それは人の助けなしには難しいのではないか。ネット上には、同じ悩みを持つもの同士の掲示板がいくつもあるという。そういうところに居場所を見つけられる人は幸せかもしれない。

 こういう悩みをうまく脱せなかった人が、宗教に救いを求めるのだろうか。

 また中島は、ものごとを分析的に見たり、離れた地点から客観的に見る訓練を受けていない、という現代教育の欠点を指摘している。これまた同感。

 中島梓は、世間で「ヘンな人」扱いされる人にスポットを当て、やさしいまなざしでしつこく論及している。これはオタクの第1世代だったからこそ書けた本であり、心理学者にも、宗教学者にも、社会学者にもなかなか書けない本ではなかろうか。そして彼女は今もJUNE誌上で美少年愛好家の少女たちにアドバイスを投げかけている。

(1999-06-21)