ビッチな野郎たち日本代表はアジアカップの予選を通過し、Jリーグは浦和の優勝で幕を閉じた。あとは天皇杯を残すだけ。そこで、『オシムの言葉』に耳を傾けてみた。 本書の中盤は、ユーゴ時代のイビツァ・オシムの苦闘について書かれている。残念ながら、ここは興味津々というわけにはいかなかった。ユーゴ内戦はいくら解説を聞いても理解できなかったし、ちょうどサッカーに興味をなくしていた時期でもある。ミヤトビッチとかサビチェビッチの名前を聞いてもぴんとこない。さすがに、ストイコビッチはよく知ってるけど。 市原のGM祖母井秀隆がつれてきて、通訳の間瀬秀一が訳したオシムのことばには、おもしろいものが多い。ときには禅問答のようでもあり、質問する記者もはぐらかされて、フラストレーションがたまったことだろう。本を読んでみると、たしかに食えないおっさんだ。 間瀬いわく、 僕、つくづく思うんですけどね、あの人は監督をやっているんじゃなくて、監督という生き物なんですよ。常に指導。指導するのが当たり前なんですよ。(p175)この調子で、記者だけでなく、協会や指導者たち、はては日本のサッカーファンまで指導してしまうのがオシムのようだ。 オシムさんはね、FIFAの技術委員なわけでしょ。そのFIFAの技術委員の右腕として、今、2年半やってるわけでしょ。FIFAの講習を2年半受けているようなものですよ、僕は。講習受けながら、一緒に力を合わせて実戦で戦っているわけだから。 だから、そんな貴重な体験をしている僕が、将来監督としてタクトを振るわなかったら、日本のサッカー界に対して申し訳がないと思うんですよ。(p178)現役生活をすべて海外で過ごした日本人フットボーラーに、ここまで決意させている。 オシムは、元ヤンキーでサボりの常習者だった佐藤勇人に「お前が走らなくてどうする」と声をかける。ちょこまか走る身長166cmの羽生直剛には「ただ走るんじゃなくて、相手の嫌がる所に入るのを増やせ」と要求する。そして、責任を持たせるためキャプテンに指名した阿部勇樹は、ベンチからの「監督の声や意味が届く」と言う。 「チーム全体でプレーしろ」、「チームが一番効率よく力が発揮できるシステムを選手が探していくべきだ」と語るオシムは、攻撃的ないいサッカー、美しいサッカーを追求しつつも、目の前にある現実を直視している。 あとはJリーグの水準が上がり、さらにいい選手が出てくれば、日本代表も強くなれるだろう。そんな期待をしたくなった。
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