はじめて読む中国人論



 人間の体験にはかぎりがある。そしてある国・地域に対するイメージは、はじめて接したその国・地域の人に左右される。テレビで見る映像は、さらにそのイメージを膨らませる。だが、ともするとそれは偏見を助長しかねない。それでも私は、中国人に対してずっと違和感を抱いてきた。その理由が岡田英弘の『妻も敵なり』を読んで自分なりに理解できた。

 この本は、中国人の人間関係、行動原理を単純明解に解説した本である。わかりやすいということは、中国人一人一人の個性は問題にせずに、集団的な特性に着目しているということだ。

 中国人の行動原理は「ニワトリを指して犬を罵る」であり、中国人は自分以外の人間を信用しないという。
中国人社会において、最大のタブーは他人に弱みを見せることである。それはふつうの意味での弱点、短所ばかりではない。例えば、他人に対して親切であるというのも弱みになる。人を疑わないような善良な人間ほど、付け込まれやすいものはない。(中略)このような弱点を持っている人間は、中国では尊敬されない。茫洋と構えているのが中国流の大人(たいじん)であると思っているのは日本人だけである。中国社会において最も望ましい、理想的な人間というのは、誰に対しても常に緊張を崩さず、毅然とした態度を維持できる人間なのである。
 そして私が一番知りたかったこと。そしてだれにも聞けなかったことについても答えてくれる。
台湾のバイリンガルたちと付き合っているうちに、私はおもしろいことに気がついた。というのは、彼らが中国語で話しているときには、まことにギスギスした態度なのに、日本語で話しはじめるとそれが一変する。いかにも物腰が柔らかくなって、これが同じ人間なのだろうかと思うほどである。
 つまり、台湾人は日本人であり、同時に中国人なのである。そして言語の特性が人格を決める。テレビで見る中国人は、攻撃的であきらかに日本人とは違うメンタリティを持っていると感じていた。しかし実際に台湾の人に接してみると、その人は今の日本人が失ってしまった純朴さを持っていた。ことばは多少たどたどしいのだが、外国人と話しているという感じがしなかった。

 岡田氏の解説を読みながら、先日見たドキュメンタリー『小さな留学生』を思い起こした。日本にやってきた中国の小学生は、日本語を覚えるにつれてだんだんと日本人になっていった。私のように映像や限られた接触の機会しかない人間にとって、この本は中国人と日本人の違いを理解するのに、とても役に立つだろう。しかし、そういう経験をまったく持たない人が読むと、よからぬ先入観を持ってしまう心配もある。
  • 妻も敵なり 中国人の本能と情念 岡田英弘 クレスト社 1997 NDC302.22 \1600+tax
(2000-12-15)