二つの対照的な物語



 けっこうおもしろい小説を見つけた。それは『ディール・メイカー』という長編で、やめとけばいいものを一気読みしてしまった。おかげでまた仕事が遅れてしまい、まったく困った本だ。

 これは、アメリカを舞台としたM&Aもの。まるでディズニーとマイクロソフトの対決を思わせる設定に、遺伝子売買によるアイデンティティのゆらぎ、映画界の内幕などをごった煮にした小説だ。どうやらこういうものは、長編サスペンス小説と言うらしい。ジャンルなんてどうでもよく、楽しめればそれでいい。私のエンターテイメント水準に照らして、合格点。

 著者は、これが3作目の売れっ子作家らしい。国際ものばかりを書いている。小説に目次がついていたり、用語解説がついていたり、アメリカンスタイルを真似ているのだろうか。しかし、カバーの扉についている大袈裟なほめ言葉はしらじらしい。

 それにしても主人公の名前がシェリル・ハサウェイで、買収に乗り出す会社の名前が「マジコム」だなんて、『コンタクト』のパクリとしか思えない。悪く言えば、80年代のテーマであるM&Aに、90年代の遺伝子操作を加えただけの目新しさのない小説ともいえる。はたして小説大好き人間の目には、どう見えるのだろうか。

 『コンタクト』は、80年代の半ばに科学者が書いた小説で、地球外知的生物に入れ込んでしまう科学者が主人公。発表当時のインパクトはさぞや大きかったことだろう。なにごとも初めてというのは大したものだ。後から真似してバリエーションを作るのは、少しの才能があればできる。

 次に読んだのが、『ふたりのロッテ』。読んでる途中で家人に取られてしまった。ケストナーのファンだったとは知らなかった。しばしの中断をはさんで読み切った。児童文学は短くて助かる。どうにも動かないストーリー展開に、いらいらしないですむ。それにソフトカバーの新書版サイズだったので、さらに読みやすかった。字も大きくて言うことなし。やっぱり読書はラクチンがいい。
(1999-06-21)