オタクにとってのお手本「コンタクト」



 「コンタクト」を見た。原作がカール・セーガン、主役がジョディー・フォスター、しかも彼女が地球外知的生物の探求に入れ込むというストーリー。これじゃ見ないわけにはいかない。

 ところがイントロは「2001年宇宙の旅」を意識しているし、神父さんとすぐにねんごろになってしまうあたりは、いかにもハリウッド映画。そりゃないだろ、原作は絶対に違うと確信した。

 というわけで原作の『コンタクト』を読んだ。映画を見て原作の小説を読んだのは、初めてである。上下2巻のかなりの長編だ。原作では宗教と科学の問題が、かなりしつこく語られる。そればかりでなく、人類よりもはるかに進んだ技術を持つ地球外知的生物が送ってきたメッセージを前にして、人類は平和への一歩を進み始めるのだ。

 しかし映画では、単に彼女が神を信じるか否かという問題に置き換えてしまっている。確かに映画では、分かりやすく作り変えているし、メリハリも効いていいできになっているけど、深みのない娯楽作品になってしまった。おしい限りだ。

 原作から引用してみよう。ハイテク関連の最先端企業の総帥ソル・ハッデンの言葉から。
人に選択の自由を与えることこそが資本主義の本質ではないか。
(テレビの)広告は消費者に、自分の判断を信じてはいかん、と教え込むのです。
 ハッデンは、技術力を武器に1代で成り上がったけど、ただの技術者でもないし、ただの経営者でもない。あきらかにビル・ゲイツよりも上をいっている人物である。不老長寿を望むこと以外は。

 映画では、研究費を打ち切られたエリーは、あちこち資金集めのためのプレゼンテーションをして歩く。いかにも資本主義の国アメリカである。こうすればいいのか、とオタクの研究者は勇気づけられることだろう。

 読んでいて連想したのは、立花隆の『宇宙からの帰還』。翻訳者もあとがきで、両書を併せ読むことをすすめている。この本は、立花がNASAの宇宙飛行士に、宇宙から帰って自分がどのように変わったか、に焦点を当てて取材しまとめた本だ。かなり多くの人が、宇宙から地球を見るときに、神の実在を感じたと証言している。
  • 宇宙からの帰還 立花隆 中央公論社

  • コンタクト 上下巻 カール・セーガン 新潮社 1986
(1999-05-31)