網にかかった魚



 森健『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?』は、ネットの現状と問題点についてまとめた本である。ネット関連の情報をまめにチェックしている人にはものたりないかもしれないが、多方面の情報が1冊の本で読めるメリットは大きい。

 本書で取り上げられているのは、フィッシングメール、Googleの功罪、ブログと参加型ジャーナリズム、SNS、ICタグ、ICカード、監視カメラ、GPS、バイオメトリクスなどの認証やトラッキング技術などである。

 どれも私たちの生活を便利にはしてくれる。しかし著者は、自由、多様性、民主主義、主体性、信用といったことがらが十分検討されていないと警告する。

 たとえば、英国のショッピングチェーン「テスコ」は、ICタグとICカードを使って顧客の個人情報を入手するためのシステムを構築しようとした。ジレット社のカミソリを棚から手に取るたびに、レジで支払うときに、監視カメラがお客の顔を撮影する。ICタグが、そのカメラのスイッチの役目をになっている。

 問題なのは、欧米ではICタグやICカードがもたらすプライバシー侵害問題について広く議論されているのに、日本ではそれがないことなのだ。

 企業ではIP電話機が導入されている。しかしIP電話は盗聴が容易だという。IP化が進めば、社員の監視はますます強化される。個人情報漏洩の多くが内部関係者によるものゆえ、しかたのない面もあるが。

 なお「ネット上の議論は不寛容で過激で極端にさせる」の項では、キャス・サンスティーン『インターネットは民主主義の敵か』に言及している。
(2006-02-17)