eデモクラシー



 キャス・サンスティーン『インターネットは民主主義の敵か』は、eデモクラシーを考えるための基本書である。著者は憲法学者で、かなり著名な人のようだ。ただし原著は911の直前に発行されているので、ブログについての記述はない。

 学者が書いただけあって、かなり読みにくい。ポイントは、「過度な情報のフィルタリングは集団分極化を生む。討議型民主主義を成り立たせるには、共通体験と不意の接触が必要だ」ということ。

 フィルタリングとは、カスタマイズと言い換えてもいい。たとえば、ネット上の新聞をカスタマイズして個人化することである。それを著者は"Daily Me"(日刊の「私」)というキーワードで表現する。

 個人のフィルタリングにより、人は自分に関心のある情報しか見ないことになる。つまらぬ情報にイライラすることもなくなり、時間も節約できる。

 ところが欠点もある。同じ考えの人たちは連れ立って極端な立場に向いやすい。これを集団分極化と呼ぶ。たとえば、政治に関心がある人はお気に入りの意見だけを聞こうとする。右寄りの人は、右派のサイトしか見なくなる。その結果、過激主義が生まれやすくなるのだ。

 集団分極化を防ぐためには、共通体験が有効である。たとえば、マスメディアは社会の接着剤の役割を果たすことができる。なぜなら、自分とは違う意見や関心のない分野の情報が、新聞のページをめくれば目に飛び込んでくるからだ。テレビのニュース番組も同様。もっとも、それすらも見ないという選択も可能だが。

 もうひとつ不意の接触も有効だ。予期せぬ思いがけない出会いにより、自分とは違った話題や見解に遭遇できる。

 具体例で考えれば、当たり前のことばかりだ。それを合衆国成立期の憲法論議までさかのぼって解説しているのが本書なのだ。

 ここで提起されるのが「公開フォーラム」という考え方。アメリカでは、公道や公園で自由に演説することが保証されている。またそれを聴衆が聞く権利も確立されている。それなら、そういう場をネットワーク上にも作ればいい。ただし、空港が公開フォーラムの場として認められていないように、何らかのルールが必要ではあるが。

 ジェファソンとマディソンが憲法をめぐって戦わした討論を振り返りつつ、日本の改憲論議のやり方を考えることにしよう。どうすればネット上で議論できるかを。
(2004-11-08)
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