神々と戯れる



 とても疲れるマンガを読んでしまった。あとがきを読むと、作者はもっと疲れてしまったようだ。精魂を傾けてえんえんと描いてきたのに、完結を目前に連載中止。まさに作家生命をかけてしまったのだ。

 1巻目を手にとったとき、ちょっとあぶないのではないのかという不安感がよぎった。でもこの先どうなるのかという期待感から、とうとう読破してしまった。たしかにSFマンガなので、ファンも多いのだろう。絵もていねいで美しい。

 一見善と悪との対決という形をとりながら、複雑なストーリーが展開していく。登場人物(神々も含めて)が多くて、私の頭はずいぶんと混乱した。一つ一つの言葉や絵のディテールに作者の想いがこめられていて、それを感じ取るだけで疲れてしまうのだ。

 文庫版の解説を書いた大原まり子は、生きることの矛盾について語る。
 『イティハーサ』は、描画の美しさについだまされてしまいますが、ほとんど全編、血まみれのシーンの連続だといっていいぐらいです。(中略)
 生きることは「矛盾」を抱え込むこと。生きることは自らの体内にうごめく「悪」をも認めてやること......否、「悪」とされる生命のほとばしりなくしては、生きてゆくこと自体がむずかしいということ......自分が生き延びることは、他の生きているものを殺すこと......。それでも、人は、命あるものは、生きたいと願うものであるということ......。
 読み終わった今も、このマンガをどう評していいのかわからない。ただ一読の価値ありとしか言いようがない。竹宮恵子のような健全さからは少し遠い。もし文庫化されなければ、出会うことはなかったマンガかもしれない。

 ゲームやアニメに押され、マンガ人口も減少していると聞く。ブロードバンドになれば、インターネット上でマンガを連載するマンガ家も増えるだろう。でも私は、もう一度紙の雑誌の愛読者になってみたい。少女マンガでもなく、青年誌でもなく、ただのマンガ好きのための雑誌が創刊されることを願う。『漫金超』や『マンガ少年』を超えるものを。

  • イティハーサ 全7巻 水樹和佳子 早川書房 2000 ハヤカワ文庫
     「ぶーけ」に連載(1986-1997)

  • Wakako Mizuki's Room
     近況報告、作品データ、カバー画像、口絵が掲載されている。
(2001-11-16)
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