「いい人」になるのは疲れる



 「なぜいい人は心を病むのか」とは、うまいタイトルをつけたものだ。これは小ヒットしたかもしれない。かくいう私もいい人であろうとして、けっこう苦しい思いをしたことがある。

 精神科医の書く本はどうもまゆつば物が多いので、そろりそろりと読んでみた。全体的にさらりと読める文章で、ちょっとした心の病のテキストにもなっている。

 とくに人格分類の説明はすごかった。こんなにいろんな心の病があるとは知らなかった。不安障害だけでも、パニック障害、恐怖症、強迫性障害、社会恐怖症、対人恐怖症、PTSDなどなど。説明を読んでいると別に心の病でなくとも、だれでもひとつやふたつ当てはまるのがあるはず。日常の生活に支障がなければ、ほとんどの人が気にしないだけではないか。

 もうひとつ自分の間違いに気づいた。カウンセラーという言葉を、セラピストの意味で使うのが間違いだったのだ。セラピストとは、臨床心理士のことをさす。それからアダルト・チルドレンという言葉も、正式な精神医学の用語ではないそうだ。

 軽症の人なら自分で病院に行くが、重症だと自分から病院へ行くはずもなく、家族が連れて行くのも不可能なことが多い。そんなときは医療保護入院として、強制的に入院させることをすすめている。患者の人権よりも、周りの多くの人たちの人権を優先させよと。

 いい子の生まれる原因を家族、とりわけ父親の不在に求めている。
過保護、いじめ、家庭内暴力、不登校といった一連の社会問題は、初期のしつけ方の低下と家庭からお父さんという核が消えて、母子密着になってしまっていることにその原因を求めることができる。
 イニシエーション(成人するための通過儀礼)がなくなってしまった現代では、小さい頃からのボランティアを習慣づけることで、必要な人になること。そしていい子から脱却するチャンスは、恋愛だろうと言っている。恋愛をきっかけにしてお母さんに逆らい、自分の気持ちを大切になるだろうと。

 さらに大人には「逸脱」をすすめている。リストラさえも、天から与えられた転機と考え、新しい生き方を尋ねあててみようと。
  • なぜいい人は心を病むのか 町沢静夫 PHP研究所 1999 NDC493.7 \1350+tax
(2000-06-09)