思い出の高校生マンガ



 高校を卒業してはるか時間が経ってしまうと、もう学園ものはノスタルジーの世界になってしまう。それでも読んで楽しいマンガがある。

 たとえば川原泉の作品。異空間を通して歴史物を書いてしまうという基本路線のもと、唐の時代の中国へ行ったり、あるときは江戸時代の日本、はたまたルネサンス時代のイタリアへと、世界をまたに駆け巡る。恋愛物を描くにしても、月並みなラブストーリーには決してしない。登場人物も相当の変わり者がふつーに存在してしまうので、たいていの人はこれら一連のマンガを読んでひどく安心感を覚えてしまう。そんな心温まる作品が多い。それとベースとなっているジョークの類いが、そういった高校生時代を過ごした人には、これまた心地良いのだ。

 それとは対照的なのが、吉田秋生だ。名前も中性的だが、作品を見ても作者の性別が分かりにくいところもまたいい。『河よりも長くゆるやかに』は、男子校の男子生徒たちが主役。一方『桜の園』は、女子校の女子生徒たちが主役。いずれも短編の積み重ねなのだが、『河よりも長くゆるやかに』がゆるやかなストーリー展開があるのに対して、『桜の園』は、全体がパズルのように組み合わされた作品で、どれか一つが欠けてもどこかしら不完全さを感じさせてしまう。

 『桜の園』は、もちろんチェーホフの作品で、何度も映画や舞台になっている。つい何年か前にも映画化された。演出に多少工夫は凝らしてるけど、見ていると気持ち悪さが先行してしまった。それに比べて吉田の作品は女の子の気持ちをさらりと描いていて、すんなり物語に入っていける。

(2000-01-10)