達人28号



 ビューンと飛んでいくのは鉄人ばかりとは限らない。『知的手仕事の達人たち』には、飛んでる人たちがたくさん出てくる。

 なかでも一番おもしろかったのが、長部日出雄と宮部みゆきの速記対談だ。長部が、
明石家さんま、あの人はトークの名人ですよね。私はあの人の番組にレギュラーとして出ていたことがある。
 と切り出せば、宮部はコンピュータでは自分を客観視できないと切り返す。
(電子メールやインターネットでは)ふだん顔を合わせている友達や同僚には話せないようなことでも、本名も知らない、もしかしたら性別や年齢だって自分が思っているのと違うかもしれない人に、すごく親密に打ち明け話ができるらしいんです。(中略)ネット上だけの付き合いというのは、たんに自分を延長したにすぎないという危険があるような気がするんです。
 毎月やっているサッカー番組で、フジテレビの内田アナウンサーにつっこんでいるさんまを見ると、たしかにうまい。人をおちょくるだけで芸になっている。

 女性作家とパソコンは相性がいいようだ。昔から巫女は女だった。今や女性作家は「デジタル・イタコ」らしい。

 二人とも映画が大好きで、話し言葉の魅力に取りつかれている。対談整理の仕事がやりたくてしかたがないそうだ。宮部は『チチンプイプイ』(文芸春秋)で室井滋と対談している。

 高齢の水上勉はマック使い。視力が弱いので、G3に「たまづさ」を走らせて、20ポイントくらいの巨大文字で読んでいる。そしてついに障害者のためのパソコン学校「電脳学校」を立ち上げてしまった。彼自身が校長で生徒第1号。音声入力にチャレンジしているそうだ。水上は『電脳暮し』(哲学書房)という大活字本を出している。

 ところで、このホームページも最初から音読ソフト対応なんだけど、目の見えない人は読んでいないのかな?

 『表現力トレーニング・創作編』というCD-ROMをつくった長谷川集平は、絵本では食えないことを嘆く。「絵も文もかいて50万円がいいとこです」と。しかし私はそれでいいと思う。ふつうの単行本なら1冊書いて30-40万円が妥当である。それに合わせて出版業界が変わればいいだけの話。それで質が落ちることはない。ただ著者の総入れ替えが起こるとは思うけど。
電子本を作ってインターネットで発表したけど、これにも問題がある。お金にならないというものもあるけど、インターネットの世界は編集者が不在でしょう。すごい負担です。出版は編集者との共同作業なんですよ。編集者とのやり取りの中で作品が生まれていく。これは想像以上に大切なプロセスです。
 あちこちの出版社がたくさん倒産すれば、多くの編集者がインターネットに流入してくるのではないかと思う。編集という仕事も創作という仕事も、なにも専業でやらなくてもよい。ほかの仕事もやりながら、しかもプロの技を見せる。これがこれからの出版ではないだろうか。それがインターネット上だろうと紙だろうと。

 インターネットの可能性について問われて彼は答える。
問題なのはね、オルタナティブな価値観を求めている人間が日本にいるのかということなんです。(中略)このような、なさけないおじさんたちがつくっているものが、子どもたちにとって本当にいいものなんだろうか。子どもの心をはげませるんだろうか。
 と、団塊の世代に対して痛烈な批判を浴びせかける。出版システムにいじめられてきたので、今ごろ紙の本の危機を訴えられても、シラケると言い切っているのだ。

 長崎に引っ越して10年。今は音楽と伝道活動を中心に活躍しているようだ。彼も、キリスト教徒となりしか。
  • 知的手仕事の達人たち 鶴見俊輔ほか トランスアート 2001 NDC020 \1900+tax
     その他の語り手は、鎌田慧、佐藤慶、森まゆみ、吉増剛造、多田道太郎、池澤夏樹、萱野茂、呉美雲、黄永松、清水哲男、鈴木志郎康、巻上公一、井上夢人、徐冰、平野甲賀。
     
  • シューへー・ガレージ 長谷川集平のフリーウェア作品が読める。
(2001-11-23)
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