華麗なる転進



 器用に転職する人を見ると、とてもうらやましくなる。私には、そういう才能がまったくないのだ。そのくせ思い切ったことをして周囲を驚かしたりするんだけど。 安藤哲也はそんな転職名人の一人だ。『本屋はサイコー!』は、そんな転職人生を熱く語っている。彼のプロフィールは、
'62年 東京に生まれ
'84年 有紀書房入社、出版営業を担当する
'85年 リットーミュージック入社
'94年 田村書店で店長を担当
'96年 往来堂書店をプロデュースし、統括店長となる
'00年 ブックワン入社、オンライン書店bk1に携わる
 書店業に手を染めてから、わずか数年で業界有名人となり、カリスマ書店員などという称号までもらってしまった。そんな安藤が往来堂からbk1に移ったときには、中小・零細書店で働く人たちから批判を受けた。
 批判の声を浴びせる人に僕が言いたいのは、
「じゃあ、あなたはなぜ自ら発信しないのか?」
 ということだ。
 自らメッセージを発していないから、僕のような一書店人に、余計なことまで期待してしまうのだ。自ら発信していれば、誰かに代わってもらおうなんて気は起きない。
 しごくもっともな反論である。さらに
店頭で見る限り、書店にくるお客さんというのは、良質な”本好き”が2割、せいぜいベストセラーを買う程度の人が2割、残りの6割は『何か面白い本はないかな』と思いながら、見つけられずにいる。この6割の”無党派層”を掴まえることが売り上げアップにつながる
 私はまちがいなく無党派層の一人だ。そして私をつかまえてくれる書店がない。
 僕は書店員として、以前から一つの疑問を持っていた。
「本は、人に勧められて買うものなのだろうか?」
 この疑問は、インターネット書店で働きはじめてから、ますます強くなった。
(中略)
 でも、いまはどうなんだろう?僕の見たところ、無党派層はすでに6割もいないんじゃないだろうか。ネット書店が進めているビジネスモデルは、結局、無党派層を「ベストセラーを盲信的に買いにくる人びと」に変質させてしまっているんじゃないか、という気がするのだ。
 いよいよ核心部をついてきた。私もそう思う。自分でホームページをつくっていて、「いったいどこの誰に向かって書いているんだ」と自問することがたびたびある。こんな寝言みたいなこと書いてだれが喜ぶんだと。

 その後安藤はbk1を辞めて、糸井重里の事務所に移り、さらにNTTドコモに転職した。今は電子出版(eブック)の販売をしている。 (2003-05-31)
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