怪優の遺書



 岡本喜八監督が亡くなった。好きな映画人がどんどん鬼籍に入っていく。それにしても今回は追悼番組を見てない。たんに私が見逃しただけなのか。

 それならばということで、岡本作品の常連俳優である天本英世『日本人への遺書(メメント)』を読んだ。前半が自伝で、後半が日本とスペインの話。

 天本さんは、旧制高校を出て東大法学部に入ったエリートだ。学徒動員で兵隊になってから人生が狂い出した。戦後、乞食になるつもりで俳優になる決意をした。だから、かつての同級生はみな出世しているのだが、元NHK会長も「川口」と呼び捨てになる。

 天本さんは、なんで自分はスペイン人に生まれなかったのだろうと不思議に思うほどのスペイン大好き人間である。

 「明日必ず自分が生きて目が覚めるとは思っていない」スペイン人と、電車の中で居眠りする日本人は対称的だ。そんな平和ボケした日本にしっかりせよと、天本くん、吠えっぱなしです。

 「戦争が終わって半世紀以上も経つというのに、日本には、まだ、言論の自由がない」

 「スタッフがげらげら笑うから、タレントは自分は面白いことをいっているのだと思ってしまう。スタッフが笑うのは、そのタレントに対するゴマすりでしかない」

 これは回答者として出演していた「たけし・逸見の平成教育委員会」のことかな。

 「日本人は、ほとんど議論をしない。自分だけの意見を持ってもいない。日本人が平和呆けしているのは、平和の中での闘いがないからだ」

 これはまずいな。私もほとんど意見というものを持たざる人間である。天本さんみたいに吠えることはできないので、ぼそっとつぶやくだけにしておこう。
(2005-03-16)