特集 口述試験に向けて

2 速攻・口述試験対策法



 「論文試験合格に絶対の自信を持って、夏の間は口述対策に余念がなかった。」  こういう受験生は、おそらく絶無に近いといえるであろう。圧倒的多数の受 験生は、論文合格発表の場で自分の名前を見つけても、「やった!」と思うの はほんの一瞬に過ぎず、次の瞬間、口述対策の不備にあわてふためくのである。
 他の試験方法と異なり、口述試験というものは得体のしれないところた多い。 先の記事で、その概要についてはおおむね紹介したとおりであるが、見聞きす るのと実際に体験するのとでは大違いであって、これは択一・論文試験を経験 してきた受験生諸氏であれば、見やすいところであろう。
 そこで、絶対に欠かしてはならない口述試験対策の一つに、模擬試 験を受験することが挙げられる。論文試験合格発表後、模擬試験の 勧誘については各予備校共に熱心なところであるが、いわゆる四大予備校(早 稲田司法試験セミナー、伊藤真の司法試験塾、辰巳法律研究所、LEC東京リ ーガルマインド)の催す口述模擬試験のうち最低一つを受験することは必須で ある。地方受験の受験生も、なんとか時間を作って、これだけはこなして おかなければならない。敵を知らないまま、本試験を受験することは、口 述試験ではとにもかくにも危険なのである。
 もっとも、四大予備校の催す口述模擬試験は、論文合格発表の直後から募集 がはじまり、ほとんどは即日満員になる。特に無料やそれに近い価格で実施さ れるものは、1日から2日遅れで申し込もうとしても難しい。各予備校に対す るこだわり、あるいは予備校を利用すること自体に対する考え方にも色々な議 論があるところだが、口述模擬試験に関していう限り、そこにいう立場の違い は越えなければならない。受講生を獲得できていない口述模擬試験は、やはり 質的にいかがなものかと思われる節がないではないのであるが、要するに「面 接官から発せられる質問に即座に答える」ということが体験できさえすれば、 当初の目的は達せられる。ヤマアテの形で受講するのではないのだから、口述 模擬試験の質の違いは、さして大きな問題ではない。したがって、もしも今か らでも受講可能な口述模擬試験があれば、迷わず受講すべきである。
 ところで、口述試験においては、各科目のほとんどの試験範囲から出題があ りうるとされているのは周知のとおりであり、択一・論文対策としては全く準 備していなかったところ、ないし軽視していたところからも、容赦なく質問は 浴びせられてくる。この傾向と対策を知るために、口述過去問集に一 通り目を通しておくことは、当面の試験対策として毎日こなさなけれ ばならないことである。ここで金銭的に逼迫していても、思い切って全科目 分の用意が必要であり、ことさら安いものに手を出すのではなく、良いものを 選ぶという姿勢が肝心である。すなわち、

 1) 年度別・体系別に分かれていて、閲覧・利用に便利。
 2) 解説が簡明で、他の参考書類を参照する必要がない。
 3) サイズがコンパクトで、本試験にも持ち込める。

といった要素をそなえているものを選ぶのが良い。この条件を満足するであろ うと思われるのは、早稲田司法試験セミナー刊行のものである。他に、辰巳法 律研究所刊行のもの、中央大学真法会刊行のものもあるが、前者は年度別になっ ていないという点、後者は解説の配慮の点で、やや早稲田司法試験セミナーの ものよりは使いにくいのではないか、という印象がある。ただこの点について は、好みの問題もあるので、是非とも書店で手にとってもらいたい。最低限、 過去2〜3年分の問題はこなしておくと、同じ試験委員が 同じ試験問題を使ってくることもあり、思わぬ拾いものができるかもしれない (筆者は、刑事訴訟法でこの「大当たり」に直面した)。
 最後に忘れてはならないのが、条文をしっかりと把握すること である。口述過去問をこなしていれば知ることができるところであるが、口述 試験では、正確な条文の知識が問われることが少なくない。口述試験会場では、 予め机上に用意された司法試験用六法の参照が可能であるが、これとて試験委 員の許可を得てからでなければ閲覧が許されず、端的に条文を問う場合には、 まず閲覧は許可されない。六法をめくっている間に持ち時間が経過して、試験 委員の用意した問題すべてが出されなかった、というようなときに、マイナス 点が付けられることを考えると、六法の閲覧は可能な限り避けたいところであ る。試験対策としては、憲法については全ての条文を暗記できるぐらいに、民 法については、論文必須の範囲については最低限、刑法については、手薄な前 半部分、商法・訴訟法については、手続規定について、それぞれ押さえておく 必要があるといえよう。
 以上の対策は、2週間という短期間でもこなすことができないものでは決し てない。最後まで全力疾走すれば、まず当面の小休止が目前にある。次回は、 本試験で守らなければならないルールについて、直前におくる「お守り」とし て、若干ふれてみたいと思う。

つづく