おろおろするリリさんにかまわず、 

泣き出してしまうのを押さえられない俺・・・ 

 

「う・・・うぐ・・・ぐうっ・・・」

 

そっと胸に俺の顔をうずめるリリさん。 

 

「もう、もう終わったんですー・・・ 

戦いはー、全てー・・・あとはー、 

幸せになるだけですー、私たちがー・・・ 

これからはじまるんですー、平和がー、 

あなたとー、私たちのー、楽しい日々がー・・・」 

 

「ううっ・・うっ・・・うううーーーーー・・・・・」 

 

リリさんの胸の中で泣きじゃくる俺・・・ 

みんなより遅れて泣き出してしまうとは・・・ 

そんな俺を一生懸命なぐさめるリリさん・・・ 

あたたかくやわらかい胸の感触が顔をつつんでくれて・・・ 

やがて・・・泣き疲れた俺はそのまま眠りについた・・・・・ 

 

 

・・z・・ 

・・・zz・・・・・ 

 

 

 

・・・・・夜だ、 

目が覚めたが・・・夜だ。 

あたりを見ると、布団の上に誰かもたれてる、 

これは・・・この小ささ、服装、髪型は・・・ 

目が慣れると次第に判明する、そうだ、これはレンちゃんだ。 

 

「・・・・・・・・」 

 

すやすやと眠っているようだ、 

起こしたら可哀相・・・と再び眠ろうとするが、 

今度は目がさえて眠れない・・・それにおなかも空いた。 

 

ぐぅぅ 

 

お・・・おなかが鳴ってしまった。 

 

「・・・ん・・・・・」 

 

起こしてしまった。 

 

「・・・あ・・・あのぉ・・・」 

 

寝たふりをしておこう。 

 

「・・・・・おなか空いてるのねぇ・・・ 

お夜食持ってくるぅ・・・飲ましてあげるぅ・・・」 

 

部屋から出ていくレンちゃん。 

の、飲ましてあげるって、まさか、 

ララさんみたいに・・・口移しで!? 

どうしよう・・・うーん、顔が赤くなってしまった・・・

カチャカチャッ、とトレイを鳴らしてレンちゃんが戻ってきた・・・

 

「・・・レンちゃん、やあ」 

「!!・・・お、起きたんですねぇ・・・」 

「うん、たった今・・・」 

 

なんとも言えない表情のレンちゃん、 

泣きそうで、とまどっていて、でも安心もしているようで・・・ 

様々な表情に見える・・・互いに目を合わせたまま、なんだか動けない・・・

あ、俺は動きたくても動けないんだっけ・・・シーンと静まり返る部屋・・・

小さくカチャカチャッと食器が擦れ合う音が・・・レンちゃん、震えてる・・・!?

 

「レンちゃん、ありがとう、スプーンとかあるかな」 

「あの・・・そのぉ・・・あのっ・・・」 

「どうしたんだい?恐い夢でも見たの?」 

 

トレイをベットの横のテーブルに置くと、 

じわっと目から涙をあふれさすレンちゃん・・・

 

「・・・ご・・・ご、ごめんなさあああああぁぁぁぁぁ・・・・・あああああぁぁーーー」

 

俺の胸で泣くレンちゃん、 

また泣いちゃった・・・俺が最初に起きた時に続いて・・・ 

なんかこう見ると可哀相に思える・・・できることならなでてあげたい。

 

「ごめんなさぁい、大変なことしちゃってぇぇぇ・・・私ぃ、私ぃ・・・」 

「大丈夫だよ、もう大丈夫だから」 

「だってぇ、殺そうとしちゃったぁぁぁ・・ひどいことしちゃったぁぁぁぁぁ・・・」

 

えぐえぐ震えながら泣き続けるレンちゃん・・・ 

本当に可哀相だ、少女ながら罪の意識にずっとさいまなれていたのだろう、 

なんとかなぐさめてあげたいな、トラウマにでもなっちゃったらそれこそまずい。 

 

「レンちゃんは悪くないんだよ、悪いのはスロトとその一味だから」 

「だってぇ、だってぇー・・・」 

「それに正々堂々と戦ったんだから仕方ないよ、戦争だっていちいち泣いてちゃきりなかっただろ?」

「違うのぉ、気づかなかった私が悪いのぉ、えぇぇぇぇぇぇん・・・・・」

「気づかれないようにしたのは俺だから、レンちゃんは悪くないから、絶対に」 

 

・・・泣き止まないレンちゃん、 

聞こえるのは泣き声とぐじゅぐじゅとした鼻音と、

ときおり聞き取れる「ごめんなさい」の、謝りの言葉・・・ 

 

ぐぅぅぅぅぅ・・・ 

 

こ、こんな時に俺の腹が鳴った・・・ 

泣き声を引きづりながら顔を上げるレンちゃん、 

涙をぬぐってトレイの上のチーズを手にとる。 

 

「お夜食ぅ・・・食べさせてあげるぅ・・・」 

「うん、そのまま手でいいよ・・・」 

「・・・・・嫌ぁ」 

 

チーズを小さな口に含むレンちゃん、 

そしてそのまま俺の唇と重ねて・・・! 

 

「・・・・・ごっくん」 

 

うう、口移しで食べさせられてしまった・・・ 

今度はミルクを口に含もうとするレンちゃん・・・ 

 

「や、やめて、くれないかな、じ、自分で飲めるから」 

「・・・きらわれちゃったぁ・・・やっぱりぃ・・・」 

「そ、そんなんじゃないよ、その、は、恥ずかしいから・・・」 

「私・・・私ぃ、もう、生きてけなぁい・・・」 

「わ、わかった!わかったよ・・・その・・・一口だけ・・・」 

 

ミルクを含むレンちゃん、 

再び唇を重ね飲まされるぅ・・・ 

 

「ごくっ・・・ごくっ・・・ごくっ・・・」 

 

こうして結局、レンちゃんの泣き脅しで夜食を全てたいらげさせられた、 

もちろん、口移しで・・・・・ 

 

「ご、ごちそうさま」 

 

無言で俺の口の周りをふいてくれるレンちゃん・・・ 

ようやく涙も落ち付いてきたようだ・・・よかった。 

 

「あのぉ・・・私、謝っちゃったぁ・・・」 

「どうしたの?」 

「ハプニカ様やお姉様からぁ・・・謝っちゃ駄目だってぇ・・・」 

「どうして?」 

「謝りだしたらきりがないってぇ・・・一生謝り続けても足りないから言わない方がいいって・・・

それに謝ったら、嫌なこと、あの時の事、思い出しちゃうから、できるだけ思い出させないようにって・・・

謝るなら、謝るのはハプニカ様が一番最初に、1回だけだって・・・あとは行動でしめすって・・・」 

「はは、レンちゃんは正直だね、大丈夫だよ、みんなは悪くないから」 

「でもぉ、だってぇー・・・」 

 

そう、悪いのは勝てなかった俺なのだから・・・ 

 

「・・・・・ハプニカ様、呼んでくるぅ?」 

「・・・・・・・・いいよ、疲れてるだろうし」 

「私、ハプニカ様と交代でいるのぉ・・・さっきまでいたのぉ、ハプニカ様ぁ・・・」

 

そうなんだ、もう寝ちゃったんだろうな・・・ 

でも会って、何を話そうか・・・俺の方があやまるべきだな・・・ 

 

「でも、ハプニカ様がぁ、起きたら起こしてほしいってぇ・・・」 

「本当にいいよ、それよりレンちゃんとお話したいな・・・」 

「・・・・・うれしぃ・・・」 

 

俺はレンちゃんの心を解きほぐすために、 

ありったけの笑顔で話しをした、レンちゃんに嫌なことを忘れさせるためと、 

ついてしまったかもしれない俺へのトラウマみたいなものを消させるために・・・・・

 

「・・・・・ねぇ」 

「何かな?」 

「王様になってくれますよねえ?」 

 

俺は返事に困った、 

レンちゃんに負けた以上、 

この国を去らなければならない・・・ 

それは俺の中での鉄壁の法律であって崩す気はない、

でもそれをそのまま伝えたらレンちゃん傷つくかも・・・

 

「なってくれますよねぇ?」 

「・・・・・・・・・・」 

「だって、優勝したらハプニカ様と結婚するってぇ・・・」 

「・・・・・え?優勝してないよ」 

「優勝ですぅ、ほらぁ」 

 

レンちゃんの視線を見ると、 

部屋の隅に豪華なカップが飾ってある、 

よく見ると・・・「優勝」の文字の下に俺の名前が・・・!? 

 

「待って!俺、レンちゃんに負けたよね?」 

「ううん、私の負けですう」 

「どうして?」 

「殺そうとしたからぁ・・・」 

「でも特別ルールでそれは許されたはずだよ?」 

「だって、でも、でもぉ・・・とにかく私の負けですう」 

「・・・じゃあ、あの戦いは何だったんだよ!?」 

 

俺はなんだか腹が立ってきた。 

 

「だってだってぇ、ハプニカ様のぉ、みんなのためにぃ、トレオって名前でぇ・・・」

「それと試合、勝敗は関係ないだろ!?」 

「この国をぉ、命懸けで助けたんですものぉ、優勝は当然ですぅ」 

「だから!そんなの意味ないじゃないか!!」 

「こ、恐いぃ・・・」 

 

いけない、レンちゃんがまた泣きそうだ。 

 

「ご、ごめん・・・でもレンちゃんが勝ったんだからさ、 

強かったよレンちゃん、とっても、あれならハプニカ様も安心だよ、 

だからこれからもその力でハプニカ様を守ってあげてくれよな」 

「・・・・・負けだもん、私の・・・負けだもん」 

「これだけは譲れないんだ・・・そこの優勝カップはレンちゃんのものだからね」

「いやぁ・・・いやぁ・・・いやあああああああーーーーー!!!」 

「レ、レンちゃん!?」 

 

泣きながら部屋から出ていくレンちゃん・・・ 

でも、でもこれだけは曲げちゃいけないんだ、 

俺は負けた、だから・・・だから俺はこの国を去る!!

 

「な、何があったのー?」 

 

今度はミルちゃんが入ってきた。 

 

「ごめん、レンちゃんを泣かせちゃった・・・」 

「仕方ないなぁ、レンちゃんはぁ」 

「どうしよう・・・」 

「放っておいていいです、あとでお姉様に叱ってもらうから」 

「叱るだなんて・・・」 

「だって、おにいちゃんを放って逃げたんだもの、せっかくおにいちゃんをもう絶対、1人にさせないって決めたのにぃ」

「1人にさせない、って・・・?」 

「おにいちゃん1人で戦うしかなかったから、あんなことになっちゃったでしょ?だからぁ」 

「でも、俺1人だったからスロトの正体を暴けたのかも」 

「そんなー、とにかくもう、おにいちゃんは絶対1人っきりになっちゃ駄目なの!」

 

俺のベットに寄り添うミルちゃん。 

 

「おにいちゃん・・・おにいちゃんから何て呼ぼうかなー・・・ 

旦那様?国王様?・・・お兄様って呼びたいなあ・・・でも王妃になるんだしー・・・

ねー、おにいちゃんは私が第二王妃になったら何て呼んで欲しい?」 

「・・・その話、聞いたけど・・・俺に拒否権はないの?」 

「ええ!?」 

 

とまどうミルちゃん。 

 

「・・・・・俺の意志はまだ何も決めてないよ、 

ハプニカ様との、ここへ来て最初のときも言ったよね?」 

「だってー、だってぇー・・・」 

「・・・同情や貸し借りだけで結婚するのはまっぴらだよ」 

 

重くなる空気・・・ 

間を置いて、あわてて立ち上がるミルちゃん。 

 

「そうだ!おにいちゃんに治癒魔法かけにきたの、するね」 

 

ポワッと光が俺を包む・・・ 

少し楽になった気がしたが、 

俺のからだはあいかわらず動かせられないままだ。

 

「・・・私はおにいちゃんと結婚したい・・・」 

「突然そんな事言われても信じられないよ」 

「お姉様の妹だよー、好みだって同じでもおかしくないでしょー?」 

「なおさら信じられないよ、ハプニカ様だって」 

「・・・・・本当なのにぃ・・・」 

 

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