☆くすぐり人魚の罠☆

 

バシャ、バシャ、バシャ・・・ 

 

「すげえ!すごい速さだ!」 

「おいおい、こんなに速く泳げるなんて、信じられないぞ!」 

「すごく綺麗なフォームだな、本当にまったく水泳やってなかったのか?」 

 

僕は軽く泳いでいるつもりなのだが、 

プールサイドからは驚きの声があがっている。 

 

「お、うまいターン!」 

「すごい、うちのキャプテンの比じゃないよ、これじゃあ」 

 

残り25m、少し本気で泳ぐ、 

一応ラストスパートはしておかないと・・・ 

 

「速すぎるよ、クロールの泳ぎ方としては完璧だ」 

「もうすぐゴールだ!あ、ゴール、ゴール!」 

「タイムは?タイムは?」 

 

100mを泳いだ僕は息を整えつつ、 

軽く立ち泳ぎしながら水中眼鏡をずらし、 

ストップウオッチを見つめる水泳部のキャプテンに目をやる。 

 

「・・・うそだろ、おい・・・」 

「キャプテン、彼のタイムは?」 

「・・・・・53秒85」 

 

どよめく室内プール、 

ストップウオッチを見つめたまま唖然とするキャプテン、 

尋常じゃないタイムであろう事は雰囲気でわかるものの、 

どのくらい速いものなのか、さっぱりわからない。 

 

「うわぁ、君、確か陸上部だったよね?」 

「はい、もうやめましたけど」 

 

そう、元陸上部員・・・ 

ここの高校は体育系では有名で、 

僕も陸上の特待生として入学した。 

しかし、先輩の理不尽なしごきといじめに嫌気がさし、 

さっさと退部届を出してきたのだ。 

 

「き、ききき、君!うちの水泳部に、ははは、入ってくれないか!?」 

「・・・そのつもりで来ましたから」 

 

この高校のスポーツ特待生には1つの決まりがある、 

それは「必ず体育系の部活に入らなければならない」というもので、 

陸上部をやめてしまった僕は1週間以内に新しい部活に所属しなくてはならない。 

しかしスポーツで名門の高校だけあって、どこの部活も入部テストが難しい、 

だからこそこういう決まりがあるんだなと納得させられた。 

だが、そんなスポーツ校にたった1つだけ抜け穴というかラッキーな部活があった、 

それがこの弱小で有名な男子水泳部である。 

 

「こんな素晴らしい選手がうちに来てくれるなんて信じられない・・・」 

「おい、顧問の先生に連絡してこい!」 

 

この男子水泳部、かつては名門だったのだが、 

それはとうの昔の話、今では予選会すら勝ち上がれず、 

運動部のお荷物的な存在になっている、 

にもかかわらずまだ部が存在するのは女子水泳部がいまだ名門で、 

オリンピックの代表選考会にその名を連ねるほどの実力だからだ、 

つまり「女子水泳部」が健在な以上、「男子水泳部」も残しておかないと格好がつかない、 

という学校側の考えだそうだ、あとは伝統だけはあるので年寄OBもうるさいのだろう。 

 

「これで・・・これでやっと女子に一矢報いる事ができるぞ!」 

「やっとまともな練習がさせてもらえそうですね!」 

 

キャプテンが反対側のプールサイドに目をやる、 

そこには女子水泳部員が黙々と泳いでいる。 

 

「・・・どういうことですか?」 

 

僕がプールから上がり受け取ったタオルで顔をぬぐいながら問い掛けると、 

キャプテンは言いにくそうに答えた。 

 

「実は・・・うちの男子水泳部の実力は知ってるだろ? 

そのせいで、ろくにこのプールを使わせてもらえないんだ、 

はっきり言って女子のおかげでこの水泳部は存続させてもらっているようなもんだから、 

どうしてもプールの使用は女子優先になってしまって・・・ 

使わせてもらえるのは週に2回僅か1時間づつ、しかもプールの半分しか・・・」 

 

対面のプールサイドを見つめるキャプテン、 

いろんな屈辱があったのだろう、切なそうな表情だ。 

 

「でも、君がきたからもう大丈夫!」 

 

とたんに笑顔で僕の手を握るキャプテン、 

心から嬉しそうだ、僕まで嬉しくなってくる。 

 

「女子水泳部との決まりごとで、我が男子水泳部と月に一度、対抗戦があるんだ」 

「女子と・・・ですか?」 

「ああ、情けない話だが、女子と男子の最も速い者同士が競争して、 

100mで勝った方がプールを優先的に使える決まりになってるんだ、 

そしてその対抗戦が始まって以来、まだ一度も女子に勝ったことがない」 

 

そこまでレベルが低かったとは・・・ 

男子が女子に負け続けるというのは、 

さぞかし悔しかっただろう。 

 

「あら、何をそんなに騒いでいるのかしら?」 

 

上品な女性の声が室内プールに響く、 

興奮している男子水泳部員の様子が気になったのだろうか、 

5、6人の競泳用水着を着た女性がこっちにやってきた、 

皆、背が高くショートカットでスタイル抜群、

しかもこういう女性はたいがいどこかボーイッシュなのだが、

この子たちはアイドル顔負け、びっくりするほどの美少女だ。 

その中央にいる一番背が高く、そして一番綺麗な少女・・・ 

上品な声の主は彼女であろう事は一目でわかった。 

 

美少女☆

 

「・・・あれが女子水泳部のキャプテン、3年C組の『薩川かつみ』だ」

 

僕の横でキャプテンが耳打ちで教えてくれた、 

彼女が女子水泳部のキャプテン・・・息を呑むほど美人だ、 

なんというか、美人といっても決して大人にはなりきっていない、 

とびっきりの綺麗でかわいい少女・・・そういう意味では完璧な容姿といえるだろう、 

背が高い分、大人びて見えるが微妙に大人でない所が絶妙な「美少女」に仕上がっている。

 

「薩川君、紹介しよう、我が男子水泳部の新入部員だ」 

 

誇らしげに僕を紹介するキャプテン、 

まじまじと僕の全身を見る薩川さん、 

僕は綺麗だなーと思いながら自然と少し緊張気味になり挨拶をする。 

 

「はじめまして・・・」 

 

その後どう続けていいか言葉につまった、 

彼女の抜群な容姿に見とれて金縛りのように口が動かない。 

 

「ふぅん、珍しいですわね、この時期に新入部員なんて、あなた実績はあるのかしら?」 

「いえ、ほとんど・・・ないです・・・」 

 

よく見ると薩川さんの大きなバストの先端に水着ごしで2つのポッチが見える、 

それが1度気になってしまうと、恥ずかしくてまともに薩川さんの方を見られず、 

薩川さんの質問にも目を逸らしながら口少なく答えた。 

 

「薩川君、聞いて驚かないでくれよ、100mのタイムが53秒出たんだ!

すごいだろう、彼、いきなりなんと53秒で泳いだんだ!まだ1年生なのに!」

 

興奮を押さえ切れない様子のキャプテンと対照的に、 

落ち着いた様子で淡々と話す薩川さん。 

 

「それはまた随分と早く時計を止めたことですわね、 

わざとタイムを速く伝えてメンタル的に上達させる方法かもしれませんが、 

それを私たちに自慢するのはどうかと・・・」 

 

僕の後ろから他の男子水泳部員が怒鳴る。 

 

「嘘じゃないさ!タイムは正確に押した、早く押したりなんかしてない!」 

「信じたくないのはわかるけど、あきらめな!」 

 

すると女子水泳部員らも応戦する。 

 

「何よ!今まで全然まともなタイム出せなかったくせに」 

「急にそんなタイム言われても信じられる訳ないわよねー」 

 

僕は控えめぎみにキャプテンに言う。 

 

「あのー、もう一度、泳ぎましょうか?」 

「その必要はありませんことよ」 

 

薩川さんのその声に静まるプール。 

余裕の表情で話を続ける薩川さん・・・ 

 

「どっちにしろ、明日の対抗戦で全てはっきりしますわ、 

そこで本当に正確なタイムで勝負しましょう」 

「・・・え!?対抗戦って、明日なんですか?」 

 

キャプテンの方を見ると、 

嬉しそうな表情で僕に語り掛ける。 

 

「ああ、今回も僕が出る予定だったが、 

全て君に任せた!なあに、さっきの調子で泳いでくれれば楽勝さ」 

「まあ、せいぜい明日までに猛特訓することですわね、おほほほほ・・・」 

 

そう言い残すと薩川さんは踵を返し、 

女子部員を引き連れて自分たちのプールサイドへと帰っていった。 

 

「なあに、余裕だよ、君のあの泳ぎは本物さ」 

 

そんなキャプテンの声よりも、 

僕は薩川さんの後ろ姿に見とれていた、 

美人だ・・・かわいい・・・惚れてしまいそうだ・・・

いや、あんな女性が恋人になってくれたら、どれだけ幸せだろうか・・・ 

しかし、彼女とは明日、真剣勝負をするんだ、そんな事を考えてる場合じゃない! 

 

「キャプテン、もう少し泳がせてください!」 

「よし、じゃあ1つのコースを君専用にあげるから頑張ってくれたまえ!」 

「はい!!」 

 

 

僕は一生懸命泳いだ、 

はじめて僕が必要とされている、 

水泳で日本一になって陸上部員たちを見返してやりたいんだ、 

そしてあの女子水泳部キャプテン、薩川かつみ・・・ 

この試合で勝てば、彼女も僕のことを認めてくれるだろう、 

そしてひょっとしたら、僕の恋人に・・・! 

 

などと考えながら練習をしているうちに、 

男子部員に割り当てられていた1時間が終了した、 

プールから上がるよう、女子部員にせかされる。 

結局、僕のタイムは何度計測しても53秒前後だった、 

これでも明日のためにセーブしていたつもりなんだけど・・・ 

 

「お疲れ!明日は頼むよ」 

 

更衣室でキャプテンが僕の背をポンとたたく、 

気が付くとみんなもう帰った様子で僕とキャプテンしかいない。 

 

「さてと、片づけをするか・・・」 

「キャプテンが片づけるんですか?」 

「ああ、部員が少ないから、みんな順番で片づけ当番をするんだ」 

「そんな・・・僕がやります!」 

「え?い、いいのかい?」 

「はい、当然ですよ・・・僕が一番新人なんですし」 

 

ますます陸上部とは大違いだ、 

運動部は縦社会が厳しいはずなのに・・・ 

僕はなおさらこの水泳部のために頑張ろうと誓う。 

 

「じゃあ・・・悪いけどお願いできるかな?実は今日、これからデートで・・・」 

「そうなんですか?羨ましいなぁ」 

「いやあ、我侭で困っちゃうんだよ、はっはっは」 

「後は任せておいてください!」 

「ああ頼むよ、鍵はこれだから、持ってていいよ、合鍵持ってるし・・・じゃあ」 

 

そう言い残してキャプテンはいそいそと帰っていった。 

僕は黙々と男子更衣室の掃除と片づけをする・・・ 

 

 

・・・そろそろこんなものでいいかな? 

そう思った背後に人の気配がした。 

 

「ちょっと失礼、そこの新入部員さん」 

 

更衣室の入口に立っていたのは、 

女子水泳部キャプテン・薩川かつみだった。 

 

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