☆サキュバスペンション☆

 

僕「・・・・・今日はこれくらいでいいかな」

 

キャンパスに走らせた筆の動きを止める、

雪の上でたわむれていたタンチョウヅルも僕が絵を終わらせたからか、

または夕日がまぶしくなったのか、遠くへと飛んで行ってしまった・・・

 

僕「お疲れ様、明日も頼むよ」

 

タンチョウヅルの残影にそう言い残し、

パレットを畳み絵の道具一式をしまう・・・

最後に折畳椅子を肩にかけ、雪の上を歩きながら僕は考える。

 

「今日の夕食は何だろう・・・」

 

ザッシュ、ザッシュ、ザッシュ・・・

うっすらと残る行きの足跡をなぞって僕は戻る、

温かい夕食を用意してくれている、ペンション「砂丘斜(さきゅうしゃ)」へ・・・

 

 

 

カランカラン・・・

 

僕「ただいまー・・・」

 

ペンションに戻ると暖炉でくつろぐ老夫婦が僕のほうを見て微笑む。

 

老紳士「やあ、おかえり」

老婦人「おかえりなさい、絵は進んでいるのかい?」

僕「少しずつですが・・・早く終わらせるより納得の行くものを描きたいので」

老紳士「若いのに立派ですなあ」

老婦人「寒かったでしょう、珈琲をお飲みなさい、どうぞ」

僕「はい、遠慮なくいただきます」

 

上着を脱ぎ、大きな木のテーブルに着く。

椅子も切り株・・・こういう大胆な手作り感がとても好きだ。

 

老婦人「砂糖はいいのかい?」

僕「はい、ブラックの方が気が引き締まるので」

 

静かなリビング・・・

都会の雑踏から比べると、

まるで時が止まったような別世界だ。

 

老紳士「ここへはいつまで?」

僕「特に決めていません、絵ができるまでと思って・・・」

老婦人「なら、早く完成させないと出費が大変ねえ」

僕「お金より納得の行く絵を、という事で、展覧会に間に合わなくてもしょうがないと」

老紳士「芸術の仕事も大変ですなあ」

 

ふと壁に貼ってある北海道の地図を眺める。

 

僕「前の絵の売れたお金が残っている間は生活できますから」

老婦人「でも退屈はしないのかい?私らみたいに3泊4日ならまだゆっくりできるでしょうけど」

僕「絵さえ描いていれば退屈はしませんから・・・銀行が遠いのはちょっと不便ですが」

老紳士「宿代の支払いはどうなさってるんで?」

僕「1か月分を毎月、先払いにしようと・・・でも雪が解けたら時間切れかな」

 

ブロロロロ・・・・・

 

ペンションの外で車が止まった。

オーナーのお帰りかな?それとも・・・

 

カランカラン・・・

 

入ってきたのは、可愛らしい少女だ。

 

少女「お客さん連れてきたよー、あれー、お姉ちゃんはー?」

 

眼鏡をかけたセーラー服姿の少女、

小学生みたいに背が低いが、あれでも中2らしい。

 

僕「やあ、香奈々ちゃん。あ、重そうだね、僕が持つよ」

 

持っているダンボールを受け取る、

中は海の幸・山の幸でいっぱいだ、おいしそう・・・

 

カランカランカラン・・・

 

新しいお客さんであろう家族連れが入ってきた。

 

父親「失礼します」

母親「予約した杉田ですがー」

息子「やっとついたー」

娘「遠い〜いま何時ぃ〜?」

僕「いらっしゃい、疲れたでしょう、どうぞどうぞ」

 

かなり疲れているみたいだ、

そうだよな、空港から電車に乗って3時間半、

ようやくついた無人駅からさらに車で50分だから、着くまでで重労働だ。

 

僕「コーヒーをどうぞ」

父親「おお、ありがとう!温まるよ」

母親「健一は5年生だから飲めるよね?翔子は4年生だから・・・」

僕「じゃあチョコレートドリンクをどうぞ!温かいですよ」

娘「ぅわ〜、ありがとぉ〜〜」

 

香奈々ちゃんがまた外へ出る、荷物の段ボールはまだあるみたいだ、

それを手伝うために一緒に外へ・・・大雪で一週間は道路が分断されてもいいように、

食材は豊富に用意しておかないといけない、もちろん必要なのはそれ以外の生活消耗品もだけど・・・

 

香奈々「あー、お姉ちゃんだー」

 

やってきたのはここのオーナー、たった1人の従業員・鏡霧子さんだ。

 

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