☆魔物の恩返し☆

「こげな所に洞窟ってあったっけなぁ・・・」
海辺で漁を終え、家に帰る前に砂浜でつぶ貝でも焼こうとウロウロしておったら、
岩場の奥に今まで気付かなかった大きな洞窟をみつけた・・・洞窟といっても巨大な岩場だ、
隙間が数多くあって日がさしこんでいるため、中は明るい・・・焚き火には絶好の場所かも知れねえ。
「入ってみるべ」
一歩足を踏み入れると、
ギュッ、と何かを踏んだ感触がした。
「これは・・・しめ縄?」
しかも白い紙の、御幣がついた・・・
それが鋭い刃物、これは刀か何かで切ったような跡だ、
ていうことは・・・この洞窟って、何かが祭られていたんだろうか?
「ちょっと覗いてみるべか・・・」
しめ縄を踏んづけて入るなんてちょっとバチ当たりだけんど、
そもそも誰かが刀で切って入ったんだ、バチが当たるならそのお侍さんのせいだろう。
ザッ、ザッ、ザッ・・・
中は足元だけ砂場になっていて、
天井や横は岩だが穴がいくつも開いている、
それにしてもこんな洞窟、なんで今まで気ぃつかなかったのだろう・・・?
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・・・
しばらく歩くと広い空間に出た、
岩の天然屋根・・・側面はまるで窓のように穴が開き、
そこから日が射し込む、少し顔を出せば下は波が寄せては返し、すごい波しぶきだ。
「あれ?これは・・・鳥居、と・・・岩!?が・・・まっぷたつ・・・」
鳥居が建てられ、その下にまた縄で囲まれた岩があったようだ、
しかしそれは刀で斬ったように、まっぷたつ・・・っておい、相手は岩だぞ?
木の鳥居はまだしも、岩まで真っ二つになって・・・一体誰がこんな酷いことを!?
「ヴ・・・ヴ・・・・・ヴ・・・・・」
・・・・・なんだべ?
「・・・ヴヴ・・・ヴヴヴ・・・」
狼の声か?
それとも、あれか?岩場の穴に波が寄せて、音を出すっていう・・・
「・・・・・・ヴヴヴヴヴ・・・・ググッ!!」
違う!これは、声だ!!
何かのうめき声・・・場所は・・・洞窟のさらに奥!?
「誰か・・・いるべか!?」
念のため、漁で使った銛を構えて奥へ歩く・・・
足元をよく見ると、黒い液体が点々と続いている。
それをたどって行くと薄暗い奥に・・・何かうごめく影が!!
「誰だ!?」
よーく目をこらしてみる・・・
岩場の影に大きな・・これは・・・蛇の固まり!?
大蛇のしっぴが何匹、いや、何十匹もいるようだ、それだけじゃない、
その先をたどると・・・女?女が大蛇の大群に、食われている?いや、違う!
こりゃあ、繋がってるぞ!?足だ!大蛇の大群に見えたのは、この女の足・・・ということは・・・
「ば・・ば、化け物!?」
「ヴヴヴヴヴ・・・ヴヴヴヴヴヴヴ・・・・・」
苦しそうなうめき声をあげている、
上半身に目をやると・・・は・・・裸・・・!!
しかも、ただの裸じゃない、腕は4本、胸は・・大きなおっぱいが4つ、
さらには裂けた口、長い蛇のような舌、髪は暗くてよくわからないが長く濃い紫だ。
そして・・・肩から背中にかけて大きな切り傷がある、刀でやられたであろう・・そこからドス黒い液体が出ている。
「血・・・化け物の血、か・・・」
と、ふとこの漁師村に伝わる古い御伽噺を思い出した。
昔から蛇の神様がこの町を守ってくださって、そのおかげで津波の心配が無い・・・
詳しい内容は忘れたが、おおよそそんな話だったはず、ではこの女は、祭られていた神様なのかも知れない!
「だいじょうぶ・・・かい?」
「・・・・・・・・・」
息も絶え絶え・・・
このままでは死んでしまいそうだ、
とりあえず傷口を化膿させないように消毒しよう・・・
「ちょっと我慢するんだぞ・・・」
つぶ貝と一緒にやろうと持ってきた焼酎の瓶を、
化け物の背中にゆっくり、ゆっくりと垂らす・・・
ぽたぽたぽたぽた・・・
「ヴヴッ!!!」
「・・・まんだ我慢するべ」
ジャーーーー・・・・・
「・・・・・これで全部かけたべ?」
「・・・・・・・・」
気を失ったようだ、
刺激が強すぎたみたいだが仕方がない、
後は傷口を包帯か何かで・・・ええい、しょうがねえ!
ビリビリビリッ!!
肌着を破って即席の包帯を作る!
海で濡れるからってんで二枚用意してあったのだが、
今着ているのとで両方破いて使えば丁度良くなるだろう。
「ん・・・でかい胸が邪魔だべ・・・」
胸まで包帯で隠すのはあきらめて、
とりあえずこれでいいだろう・・・人間ならこれで温かくして眠れば何とかなるはず、
しかし相手は魔物か神様だ・・・よし、焚き火を焚こう、その横に寝かせておけばいいべ。
「待ってるべ、今、つぶ貝焼いてやっから・・・」
乾いた流木を集め、火をおこしてつける、
パチパチと煙が上がった頃にはもう日が傾きはじめていた・・・
気を失ったままの魔物を岩の上に横向きで寝かせ、竹筒の水を裂けた口に注ぎ込む・・・
「・・・・・少しは飲んだみたいだべ?」
丁度つぶ貝が焼けた・・・
しかし、魔物の口に無理に突っ込んでも食べそうにない。
「仕方ないべ、火の番してやっか・・・」
つぶ貝を食べながら、
どうせ帰っても誰もいねえんだし、
としばらく火の番をする事を心に決めたのだった。
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めくる |