遅い昼食を終えた足で、

ジャングルエリアの方へやってきた。

雪沙ちゃんが食事中に考え付いたコースがあるらしく、

みんなそれに引っ張られた感じなんだけど、どれに乗るんだろう?

と、しばらく歩いていくとあそこのアトラクションは・・・「ヨーロッパの海賊たち」だ。

 

雪沙「ここ、またきたかったのぉ〜」

 

そう言いながら僕の腕に絡み付いてくる、

どうやらここは前回から「僕とイチャイチャして良い乗り物」らしい。

 

僕「まあ、定番だからね、ちょっと暗いけど」

雪絵「かいぞくぅ〜」雪音「おもしろそぉ〜」

 

中は暗いし恐い海賊が出てくるのに、

ちっちゃい女の子2人は全然平気そうだな。

也幸くんは・・・中から流れてくる音楽に聞き入ってるみたいだ。

 

雪沙「♪ねぇ〜んがぁ〜らねぇ〜んぢゅ〜♪さけがのめるぞぉ〜」

僕「はしゃがない、はしゃがない!」

雪絵「さけがのめるのめるぞぉ〜♪」雪絵「さけがのめるぞぉ〜♪」

僕「合唱しないの!こんなところで!」

也幸「・・・♪ねぇんがぁら♪ねぇんじゅぅ・・♪」

 

ええっ!?也幸くんまでもが!!!

 

僕「さあ、並ぼう並ぼう」

雪絵「かいぞくぅ〜、まさゆきおにぃちゃんが、こういうのすきなのぉ〜」

僕「へー、そうなんだ」

雪音「そぉいぅまんが、ひろってきたまんがでよんでたぁ〜」

僕「ああ、アニメにもなってるやつだよね、海賊王どうとかいう」

 

雅幸くんか・・・

いつか一緒に来る時があるかもな。

 

僕「じゃあ隆幸くんはどんなのが好きそう?」

雪絵「たかゆきおにぃちゃんは、れすとらんがすきそぉ〜」

僕「ははは、それは誰だって好きだよ」

雪音「ねずみぃさんとかは、けっちゃう〜」

僕「暴れそうだね、面倒見るのが大変そうだ」

 

動物園で会ったときも石投げてたもんなー。

 

也幸「〜〜〜♪♪」

雪沙「なりゆき、このおんがくきにいったんだってぇ〜」

僕「良かったね、でも、もう乗る順番がきたよ」

雪絵「あそこれすとらんがあるぅ〜」雪音「すごぉ〜い」

僕「うん、アトラクションの中のレストランだよ、でも予約でいっぱいじゃないかな」

 

2列にボートへ乗り込む、

前は也幸くん雪絵ちゃん雪音ちゃんで乗ってもらって、

後ろは僕と、べったりくっつく雪沙ちゃん・・・そして出発進行だ。

 

雪沙「なりゆきぃ〜、とちゅ〜でにげて、おりちゃだめだからねぇ〜」

雪絵「わたしがてぇにぎってるぅ〜」

雪沙「ゆきさもおにぃちゃん、にぎってるぅ〜」

僕「僕は逃げ出さないから!」

雪沙「ん〜、これからさきも、ゆきさからにげないようにぃ〜」

 

何言ってるんだか・・・

なんてやっているうちにボートは闇の入り口へと吸い込まれていった。

 

 

・・・・・僕らは「ヨーロッパの海賊たち」を満喫した!!

 

 

雪絵「おもしろかったぁ〜」雪音「かいぞくいっぱいだったぁ〜」

僕「よかったね、也幸くんも逃げなかったね」

也幸「・・・・・(コクコク)」

雪沙「なかにひとがはいってないから、こわくないってぇ〜」

僕「そういう寸尺なのか・・・さあ次はジャングル探検ツアーズだよ」

 

すぐ近くにある乗り場へ・・・

今度は海賊の隠れ家じゃなく、

ジャングルをボートで乗り進むやつだ。

 

雪沙「これ、まえにのったぁ〜?」

僕「まだじゃないかな・・・だから雪沙ちゃんも初めてかも」

也幸「・・・・・」

僕「也幸くん?・・・あ、これも中に人が入ってるのはないよ、多分」

雪絵「おっきいボート〜」雪音「マイクもってるひとがいるぅ〜」

 

そうそう、各ボートにはガイドがいるんだ。

也幸くん、人見知りしなければいいけど・・・どうだろ。

 

雪沙「なりゆきぃ〜、とちゅ〜でおりちゃだめだよぉ〜」

也幸「・・・(コクコク)」

雪沙「おトイレはだいじょうぶぅ〜?」

也幸「・・・(コクコク)」

雪沙「おわったらおトイレいっしょにいこぉ〜」

 

・・・雪沙ちゃんと也幸くん、どうやって会話してるのかちょっと知りたい。

近くで耳を澄ませば、声にはなってないけど息で喋ってるのかも?少し注目しよう。

 

僕「1台に沢山乗れるから、待ち時間は見た目よりは長くないよ」

雪絵「のってどこへいくのぉ〜?」雪音「とちゅうであるくのぉ〜?」

僕「ううん、乗って一周してくるだけだから安心して」

也幸「・・・・・」

雪沙「なりゆき、のってるだけなら、らくでいいってぇ〜」

 

よし、じゃあ待ち時間を利用して僕も也幸くんと会話してみよう。

しゃがんで同じ目線まで降りてみると、何だろう?って表情で僕の顔を見てる。

 

僕「也幸くん」

也幸「???」

僕「えっと・・・」

 

しまった、何を話せばいいのかわからない。

 

僕「ネズミーランド、楽しんでる?」

也幸「・・・(コクコク)」

僕「ここまで何が楽しかった?」

也幸「・・・・・・・」

雪沙「どれもたのしいんだってぇ〜」

 

え?也幸くん喋ってないぞ?

 

也幸「!!!(コクコク)」

僕「ここまで全部楽しいんだ」

也幸「!!!!!(コクコクコクコクコク!!!!!)」

僕「じゃあ、楽しかった中でもどれが一番良かった?」

也幸「・・・・・・・・」

雪沙「さっきのもすっごくたのしかったってぇ〜」

也幸「・・・(コクッ)」

僕「そっかそっか、よかったね」

 

頭をそっとなでてあげる。

 

也幸「〜♪」

雪沙「ありがとうだってぇ〜」

僕「じゃあ、もうちょっと色々乗って遊ぼうね」

 

これはやっぱり雪沙ちゃんとテレパシーで・・・?

テレパシーというよりも、何だろう?これは・・・

ふむ、何となく謎の正体が、わかってきた気が・・・?

 

雪絵「あ〜、も〜のるぢゅんばん〜」雪音「あれにのるのぉ〜?」

僕「うんそうだよ、さ、前に詰めて」

雪沙「なりゆきあしもときをつけるんだよぉ〜」

也幸「・・・(コクッ)」

僕「さあ乗ろう乗ろう・・・也幸くんはこっちにおいで」

 

手でも伸ばして落ちそうになったら大変だからな、

いざとなったら抱きかかえられる感じで隣に座らせておこう。

 

ガイド男性「はい、今日は夏休みにようこそいらっしゃいました!本日案内させていただく・・・」

 

ボートが進み色んな景色をガイドさんが実況してくれる。

それをみんなが笑いながら聞いてるけど、也幸くんはキョロキョロしっぱなしだ、

ワニやカバや原住民の作り物がやたら気になるみたい・・・これが也幸くんの楽しみ方なんだろうな。

 

僕「あ、あの椰子の実は作り物だから手を伸ばしても取れないよ」」

也幸「ーーーーー!!」

僕「お腹空いたの?・・・今夜のご飯は何にしようか」

也幸「・・・・・」

僕「ご飯がいい?パンがいい?お肉?お魚?野菜?」

 

あーあ、困った顔しちゃった。

 

僕「何でもいいの?」

也幸「・・・(コクッ)」

僕「じゃあピザでいい?」

也幸「・・・(コクコク)」

雪沙「なりゆきどうしたのぉ〜?こっち、ぞうさんみれるよぉ〜」

 

呼ばれて向かい側の雪沙ちゃんの方へ・・・

雪沙ちゃんに象をバックにして写真を撮ってもらってる、仲いいな。

 

也幸「・・・」

雪沙「え〜、ばんごはん〜?」

也幸「・・・・・」

雪沙「そうなんだぁ〜」

也幸「・・・・・」

 

今、喋ったか!?

いや、口が一瞬動いただけ・・・

あとは喋ってない也幸くんと雪沙ちゃんで謎の会話をしている、

 

雪沙「おにぃちゃ〜ん、なりゆき、こんやハンバーグがいいってぇ〜」

僕「え?也幸くん、そうなの?」

也幸「!!!(コクコクコク)」

 

ついさっきピザでいいって言ってたばっかりなのに。

僕に気を使った?いや、これはどっちかっていうと雪沙ちゃんに気を使った感じだ。

ということは・・・ははーん、やっとわかったぞ、也幸くんが雪沙ちゃんと、どうやって喋ってるか!

 

僕「也幸くん、おいで」

也幸「・・・?」

雪沙「いっておいでぇ〜」

也幸「!!!(とことこ)」

僕「也幸くん、おかえり」

 

さて、雪沙ちゃんほどうまく行くかどうかわからないけど会話してみよう。

 

僕「也幸くん、中に人がいない作り物ばかりだから安心だね」

也幸「・・・(コクッ)」

僕「へー、ボートに乗ってるのも楽しいんだ」

也幸「・・・・・(コクコク)」

僕「え?森の中に猫がいないかどうか探してるの!?」

也幸「!!!(コクコクコク!!!)」

僕「そうなんだ、でもさすがに野良猫はいないとおもうよ」

 

できた、会話ができた!

つまりこういう事だ、也幸くんはほとんど何も喋っていない。

本当に親密な雪沙ちゃんくらいには一言だけ「ごはん」とか「ネコ」とか言ってるかもだけど、

後は也幸くんが、聞かれてる事に適当に合わせてるだけで、されるがまま、流されるままで返事してるんだ!

だから也幸くんが喋ってた事になってた話も、その通訳である雪沙ちゃんのアドリブ・・・とはいえ一番親しい間柄だ、

雪沙ちゃん的に「也幸ならこう言うだろう」「也幸は今こう思ってるはず」っていう事を、ある意味カマかけて話して、

也幸くんはそれでただ単に、反射神経的に同意して頷いてるだけ・・・もちろんそれは也幸くんの意思と合ってることがほとんどだけど、

さっきのピザでいいっていっておきながらハンバーグが食べたいって話になったのは、きっと也幸くんが本当にハンバーグを欲してるのではなく、

雪沙ちゃんが「也幸くんは今夜ハンバーグが食べたい」と言った事によって、也幸くんは「雪沙お姉ちゃんがそういうんだからそうなんだろう」と、

つまり雪沙ちゃんが也幸くんの頭脳になってる、雪沙ちゃんの言うことに従ってればそれでいいという・・・だから会話ができてるのも納得できる、

だって也幸くんとの会話を雪沙ちゃんが1人で全部作って、也幸くんはその作られた雪沙ちゃんの会話が也幸くんが喋った言葉って事にしてるんだから。

 

也幸「・・・・・?」

僕「でも也幸くん・・・それでいいの?」

也幸「・・・・・(コクッ)」

 

これも「とりあえず頷いておけばいいや」って事だろう。

名前の通り、成り行きに任せて生きている也幸くん、あの家にいれば逆らうことなんか許されないんだろうな、

生きていくために、文句も言わず、ただ、なすがまま、なされるがまま、なりゆきにまかせるがまま・・・ちょっと不憫だ。

 

僕「美鈴ねえさんだと、会ったその日に気付いてそうだな」

 

物思いにふけっていると、もうツアーズが終わるようだ。

 

ガイド男性「では皆さん忘れ物がないようにね、降りないとこのまま海に流されちゃいますよー」

也幸「!!!!!(がくがくぶるぶる)」

僕「ははは、降ろしてあげるから安心して」

 

純粋な良い子っていうのは、よーくわかったよ。

 

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