今日こそは私に作らせていただこうと思っていたのに、言おうと思った直後に・・・
お風呂でしたら私が洗ってさしあげますよ、と言おうと思ったのに・・・
推測は当たってたのに・・・ああ、もどかしい・・・悔しい・・・・・
それをうらめしく見送る私・・・あと少し回路が速く動けばあのとなりにいるのは・・・
ミュウちゃんは勉強部屋の方へ・・・きっと今日のテレビ大学の講義の準備をしに・・・
いつもこう・・・ことごとくお仕事を先に奪われてしまって、私は・・・私は・・・
「ティア、邪魔よ、そこに立ってると私が気分よく食器を洗えないじゃないの」
「まったくあいかわらずトロいんだから、ロボメイド法がなかったらアナタなんて今頃スクラップよ」
親戚・友人であっても譲渡はできず、中古販売は厳しく罰せられる、
壊す事はもちろん、電源を切る行為も決してやってはならない)』
私にプログラムされた「仕える喜び」が感じられないのなら・・・私の存在意義は・・・
ご主人様が絶対に聞こえない時に・・・でも、その意見は間違っては・・・・・
ああ・・・私のハードディスクにまた、重苦しい悲しみのデータが・・・
こんな、こんな、感情のない小さなロボットにまで仕事を奪われた・・・
「・・・あなたはいいわね、ちゃんとしたお仕事ができて・・・」
しかも私は自らの涙で、このロボットの仕事を増やしてしまったことになる、
感情のない掃除ロボの、足を引っ張っているようなもの・・・本当に私は役立たずだわ・・・
昔はこうじゃなかった、4年前までは・・・でも、あの高性能メイドロボが来てからは・・・
私は次々と仕事を奪われ、前に仕事をしたのはどのくらい前か・・・とデータを引き出そうとしてやめた。
今の私の自我を保っているといっても過言ではないのだから・・・
次のお仕事は「お風呂あがりのご主人様に牛乳を持っていく」あと40秒であがる頃だわ・・・
よかった・・・と冷蔵庫を開けると、牛乳もそこにはなかった・・・
こうして私のスケジュールはまた増えては実行されずに消え、を繰り返す・・・・・
それでもご主人様の顔を見たくなった私はバスルームへと向かう、
すると中からご主人様と他3人のメイドロボの楽しそうな声が聞こえてきた。
「うふふ、ミュウがいくら小型軽量だからって、木に登ったらそれは落ちますわ」
「でも仔猫は無事だったんだよね?えらいえらい♪あ、マスター、はいパンツ」
「そそっかしいなあ、木が折れそうが事は予測できなかったの?」
「それがぁ〜、ミュウねぇ〜、仔猫ちゃんを助けることでいっぱいでぇ〜・・・」
こういうお茶目で愛くるしい動作をもっとも得意としている・・・
ドジでいぢらしい行動は全てプログラムされた計算によるもので、
こういうミスをすればご主人様になぐさめてもらえる、愛でてもらえるという行動であり、
ご主人様もそういう動作を見ることで微笑ましく思い、心が癒され満たされていく・・・・・
私にはそんな能力はない・・・真似しようとしてできるものではない・・・
うまく計算してご主人様から私の姿がルージュの体で見えないように・・・
キスティがご主人様のパジャマといつのまにか寝室のシーツなどを洗っている・・・
「あの、ミュウちゃん、キスティでもいいんだけど、その・・・今やってるお仕事代わってもらえないかしら?」
くつろいででいいだなんて・・・私に何もするなっていう屈辱的な言葉・・・
大人の色気あふれるルージュは体からご主人様を落ち着かせる匂いを僅かながら放っている・・・
私は4年前もよく膝枕してさしあげたけれど、そんな機能は備わっていない、
ヴァージョンアップをしていただければつけられるんでしょうけれども・・・・・
「9時半からはテレビ大学の講義ですわ、まずは歴史から・・・」
「いけませんわ、大切な講義です、私がきちんと解説いたしますから・・・」
「そんな・・・そんな、私の説明では到らないのですね?うう・・・」
「ル、ルージュ!何も泣かなくても・・・わ、わかったよ、行くよ!」
ご主人様に対して「恋人であり保護者でもあり教師でもある」というコンセプトで造られているから・・・
あくまでも主人を甘やかしすぎるのではなく、大人のつきあいをしようとする、究極のメイド・・・
場合によりしっかり叱る教育係としての機能はさすがである、しかも鞭のあとの飴も忘れない。
大人の色気でご主人様を虜にし、正しい人間に教育していく要素は、
ご主人様にとって本当に高いレベルでのメイドの仕事なのである、
時には娼婦のように誘惑し、時には母親よりも甘くあまえさせる・・・
これが大人タイプのメイドロボで有名なSECA製品の魅力・・・
今の私にはとうてい太刀打ちできない・・・真似しようとしてできるものではない・・・
非常に質を重視したTVゲームを発売している、発売されるのは2ヶ月に1度であるが、
その長い期間を待たせてじゅうぶん補えるほどの質は、ご主人様を夢中にさせる。
ソフトを毎週10本も発売しているかわりに2週間ほどであきられてしまう、
「短く遊べるものを沢山買う」か「長く遊べるものを厳選する」か、
とはいえsomy最新機器の「PS102」は驚くべき高性能なんだけど・・・
「へへっ、だってマスターに今勝っておかないと、あとですぐ強くなっちゃうんだもん♪」
これがキスティ、すなわち天仁堂製メイドロボ「キスミィ」の真骨頂・・・
ご主人様の「完璧な遊び相手」としてのコンセプトを持つがゆえ、
決して飽きさせる事のない楽しさと美声はまさにアイドルである、
彼女の透き通ったワインレッドの目で見つめられるとご主人様はもう・・・
かつて前世紀、電能遊戯の頂点に立ち基礎を築いてきた老舗らしく、
独自の娯楽路線で人々の心を捕らえ、楽しませてきた天仁堂の技術、
「主人の遊び相手」能力はまさに世界一・・・最高の「友達・恋人」・・・
もちろん基本となる、メイドとしての能力も完璧にこなせられる。
いかにゲームソフトが面白くても、それをご主人様にすすめる時点でキスティには負けてしまう、
それもキスティのしつこくなく、だからといってどこか行ってしまうのでもなく、
丁度良い具合に計算してご主人様と距離を置くいじらしさの計算のなせる技・・・
ご主人様の心理を全てデータ化・分析し主人の心をガッチリ鷲づかみにする技術は、
キスティ自身がそれをテレビゲームのように楽しんでいるようにも思える、
私にはそんな技術や処理能力はない・・・計算よりも心で触れ合いたい・・・・・