ふらふらとステージから降りる ・・・・・踏み外して前のめりに倒れた・・・ そんな俺に客席から物が投げ込まれている・・・痛い・・・ なんで俺がこんな目に・・・うう・・・でも・・・でも・・・・・ まだ、まだ闘わなくっちゃ・・・ハプニカ様を・・・守る・・・ために・・・・・ 「い、今すぐ癒します!しっかりしてください!!」 ぱあっと眩い光に包まれ視界が真っ白になる、 かなり強い治癒魔法だ・・・普通なら鼻血が出るくらいの・・・ この声はシャクナさん・・・うう・・・全身の激痛が・・・少し治まっていく・・・・・ 「・・・・・やめましょう、もう終わりにしてください」 暗いシャクナの声に俺は体を反転させ仰向きになる、 今にも泣き出しそうな顔で俺を覗き込むシャクナ・・・ 俺は全身に最大級の治癒魔法を浴びながら担架で控え室に運ばれる・・・・・ 「・・・・・トレオさん」 「シャクナさん、ごめん・・・5分で片づけられなかった」 「そうですね・・・30分以上もかかってしまって・・・もう闘えませんね」 「・・・・・そうだな、もう・・・ここまでにしよう」 「はい・・・・・」 つーっと一筋の涙を流すシャクナ、 俺のために・・・・・よし、もうあきらめよう、 あのヴェルヴィを倒したんだ、あとはもう・・・・・ 「ウオッホン、トレオ君、大変な事をしてくれたね」 いつのまにか俺の近くに軍部大臣のスロトがやってきた。 「我が軍のかつての英雄・ヴェルヴィ殿をあんな状態にするなどとは・・・ あくまでも闘技大会であるぞ、これはただではすます訳にはいくまい」 や、やばい、説明しなくては・・・ 俺は激痛に歯を食いしばりながらさっきの試合の事を話すことにした。 「ぐ・・・あの、スロト様、どうか聞いてください! あの、あのヴェルヴィも・・・ハプニカ様暗殺の一味だったのです!!」 信じられないといった表情のシャクナ、 スロトは眉をひそめて怪訝そうな顔をする。 「・・・ほう、あのヴェルヴィ殿が!? 信じられぬな・・・で、証拠はあるのか?証拠は!!」 「証拠は・・・ヴェルヴィがそう言っていました、戦闘中に」 「うむ、しかしヴェルヴィ殿はそなたとの闘いで気を失っておる、 今は懸命な手当てが続いておるが、そなたやりすぎたようだな、 しばらくは目を覚まさぬであろう、少なくとも3日はかかるそうだ」 ま、また気絶か・・・ いや、起きていたところでしらばっくれられればそれまでだ、 それにしてもヴェルヴィほどの奴が暗殺を企てていたなんて!! 「オホン、しかしもしそれが事実だとしても、 それならばヴェルヴィ殿が首謀者であろう、ならもう安心ではないか?」 「そうですね・・・いや、まだ手下が残って勝ち進んでいるかもしれません! スロト様、気をつけてください・・・敵は・・・まだトーナメントに!!」 「ホウホウ・・・しかし我々としてはヴェルヴィ殿がハプニカ様を暗殺とはとても考えられんのだ、 そなたに言われていろいろ探ってみたがそれらしい動きは他には見当たらぬ、 今、勝ち残っている選手で不信な者は1人しかおらぬのだ」 「そ、それは誰ですか!?」 「そなたじゃよ、トレオ君、名前と性別以外全て不明・・・そんな人物を信じられるかね?」 し、しまった・・・そういえばそうだ、 俺は身分を隠して参加している・・・よく考えると不信極まりない! うーん、正体をばらしてしまうしかないのか・・・だが、しかし・・・ 「前も言ったがハプニカ様の護衛は任せてくれたまえ、 どうしても不安ならそなたが勝ち進めばよかろう! 優勝者のみハプニカ様から直々に賞をさずかれるのだからな」 「う・・・・・・・・・・はい、わかりました・・・・・」

俺はガックリとうなだれる。 そりゃそうだ、今のこの状態では俺よりヴェルヴィを信じるだろう、 かといって俺が正体を明かしたら暗殺部隊がどう動くかわからない、 悪い方向に行かないとも限らない・・・ここは無理してでも俺自身が勝ち進んで、 着実に対戦相手をつぶしていって、もっと探る必要がある・・・スロトはもうあてにできない。 「トレオさん、まさか・・・!?」 治癒魔法をかけ続けているシャクナ、 心配を通り越してまるで脅えているようだ。 「ああ、俺が闘って身の潔白を証明しなくちゃ」 「駄目です!絶対に駄目です!」 「だけど、このままだとハプニカ様が殺されるかもしれない」 「で、でも・・・わ、私、スロト様にもう一度かけあってきますから!」 「無駄だよ、逆に俺が疑われてるんだ・・・優勝するしか、もう方法がない」 「だって、だって、トレオさんの体・・・・・もう、むちゃくちゃ・・・」 時間を見る・・・次の闘いまであと20分・・・ こっから北闘技場へは上り坂・・・全力で走って間に合うかどうか・・・ うだうだ考えていても仕方がない!闘うと決めた以上、行くしかない!! 「ぐうあっっ!!」 言葉にならない気合いとともに俺は立ち上がる! 兜は上の部分が少し砕けて髪が見えるが顔は隠せたままだ、 このままでも正体はわかるまい・・・血もとりあえずは止まっている! 「トレオさぁーーーん!!」 シャクナの悲鳴にも似た呼び声を振り切り、 俺は控え室を飛び出し北闘技場へひた走る! もう、もう俺の体はどうなってもかまわない! ただ、暗殺部隊をハプニカ様に近づかせないため・・・ 優勝あるのみだ!!

「そこまで!勝者、トレオ!!」 北闘技場第2ステージ、 俺の足元にはジェフェニが横たわっていた、 間一髪間に合った俺はもはや気力のみで倒すことができた、 こいつも国の衛兵ではあったが実力不足で戦争の前線には連れていってもらえなかった奴だ、 それでも今の俺には中ボスクラスの相手に思えた・・・何はともあれ勝ったのだ。 会場からは罵声に包まれる、 まったく正体の知れぬ全身を隠した謎の男が、 続けて国の衛兵を倒したのだから無理もない、 投げつけられる空き瓶を払いながら控え室に戻ると、 シャクナさんはあわてて俺の鎧を外し無言で治癒魔法をかけ続ける。

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