「ハプニカ様、ダルトギアは好きですか?」 「ああ、もちろんだ、生まれ故郷が嫌いなものか」 「そうですよね・・・私も故郷のモアスが大好きです」 「モアス・・・残念な事になった、悲しいであろう・・・」 「そうですね・・・でも、海の男としての誇りは持っています」 「たのもしいぞ」 「ハプニカ様も、ダルトギアの誇りを持っていますよね?」 「ああ、もちろんだ」 「・・・モアスとダルトギアって、正反対なんですよね・・・」 天井を見つめる俺。 「モアスは海の民です、穏やかな時もあれば激しいときもある海・・・ そんな海で生きてきた俺は、やっぱり海が恋しくなります・・・ ダルトギアは、確かにいい所ですが、山の民の住む国です、 しかも、強い者が全ての国に思えます、ドラゴンのあの迫力を見るとわかります・・・ 俺は海のシャチやイルカと仲間になったり、海に浮かんだ舟で昼寝する事の方があってます、 海の民が山の民の気持ちをわかる事など、できないと思います、その逆も・・・ 海で慣れ親しんだ俺が山に親しむのは、やっぱり無理です、もちろんその逆も。 それに・・・、もう力もない俺が、この国を守る事は・・・・・できません・・・・・」 ・・・・・黙る俺、すると・・・ 「・・・うっ・・・ううっ・・・」 ハプニカ様の泣き声が・・・ 「わかっていた・・・夢ではなかった事を・・・ しかし、信じたくなかった・・・信じたく・・・ううっ・・・」 がばっ、と俺を胸に抱くハプニカ様・・・ その胸の中でハプニカ様のぬくもりと同時に激しい震え、 トクトクトクトク、と速い胸の鼓動が聞こえる・・・この心臓の音を聞くと、 ひょっとしたら俺は取り返しのつかない事をしようとしているのではと思ってしまう、 ハプニカ様は俺を本当に、本心から俺を愛しているのではと・・・そんな震え、鼓動・・・ 「うっ、うっ・・・私は・・私はそなたに償う事すら叶わぬのか・・・うぅぅ・・・」 「・・・・・・・・・・すみません、もうじゅうぶん償っていただきましたから・・・」 「・・・せめて、せめてそなたのその温もりを、今だけでも・・・心に焼き付かせてくれぬか・・・」 ぎゅううっ、と俺を抱く腕に力が入る・・・ 激しい震えが俺の身体振動し、想いが伝わってくるような、そんな感じが・・・ 涙がぽたっ、ぽたっと俺の髪に、背筋にまで落ちてくる・・・・・ 「ううっ、うっ・・・うううぅぅぅうぅ・・・」 ハプニカ様の号泣はこれで何度めだろうか? 本当に大戦中とは別人のように思える、だからこそ、 この涙は演技のようなもの、と思えたのだろう、俺は。 でも・・・今までの涙がもし、もし全て、 ハプニカ様の真実の涙だとしたら、どうだろう? そうなると、ひょっとしてハプニカ様は本当は、ものすごく弱い女性なのでは・・・!? 全てが本当に心の底から本心で愛しているとすれば、これは相当なものだ・・・恐いくらいの・・・ ・・・逆にそうだとしても、だったらよけいにその想いには応えられない、無力の俺には・・・力がなさすぎる・・・ 「ハプニカ様、私も、この瞬間を・・・一生、宝物にして生きていきます・・・」 「・・・もう、もう取り返しはつかぬのだな・・全て私の責任だ、言い訳はせぬ・・・」 「1つ、お願いがあります・・・」 「・・・・・何だ?」 「その、う、うまく言えませんが・・・これからもハプニカ様は、ハプニカ様でいてください・・・」 「どういうことだ・・・?」 「ハプニカ様は・・・ハプニカ様であるべきです、ハプニカ様らしく、ハプニカ様でいてください・・・」 「・・・私は私だ、偽った事など一度もない・・・信じてもらえなかったがな・・・」 「そうですね、私はハプニカ様に幻想を抱いていたのかもしれません・・・」 ・・・・・無言になる2人・・・ ハプニカ様の泣き声がたまに漏れる・・・ そうだ、このハプニカ様はきっと幻なんだ、 蜃気楼はいくら追いかけてもそこにたどりつく事はできない、 俺は自らを傷つけてしまっただけで終わってしまう・・・太陽に向かって飛んだイカロスのように。 「うっ・・・愛しい・・愛しい人・・・そなたが・・・愛しい・・・」 「私も夢のようです・・・でも、夢なんです、これは、今は・・・」 「いや、現実だ・・・そなたがいるのも・・・別れが待っているのも・・・ううぅ・・・」

こうしてただ、ただ泣きながら抱き合っているだけで、 長い長い、しかしあっという間の幸せな夜が明けようとしていた・・・ 「ハプニカ様、夜が明けます・・・」 「もう、そんな時間か・・・」 「はい・・・もう、行かないと・・・」 ・・・・・どこへ行くのだ」 「・・さあ、でも・・・1人になれる所で・・・・・」 まだぎゅうっと抱きしめ続けるハプニカ様の腕をほどき、 俺はベットから出る・・・ハプニカ様は重い表情で俺を見つめている・・・ 服を着て、荷物を手にする俺・・・そうだ、まだやらなくちゃいけない事があった。 「この3つは、お返しします」 「それは、国宝の剣と、モアスのメダルと・・・指輪・・・!」 「はい、剣はもう使えません、メダルは・・・偽りの物などいりません、指輪は・・正式にお断りします」 「そうか、そうだな、剣はそなたにプレッシャーを、メダルはそなたに疑心をあたえてしまった、 指輪は・・・渡し方を間違えたようだ、すまない、私には恋愛などはじめてであったので・・・ 人の心を第一に考えて戦っていたつもりであったが、もっとも大切な心の勉強がおろそかであった・・・すまない」 「やっぱり俺にはハプニカ様はハプニカ様です、そんなハプニカ様が好きでした・・・どうかお元気で」 「私は私らしく、か・・・わかった、それがそなたの望みなら、そうしよう」 「では・・・さようなら・・・ハプニカ様・・・」 もう引き止めはなかった、 それが、最後のそれが、俺には何よりハプニカ様らしく思った・・・ さようなら、ハプニカ様・・・さようなら・・・・・

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