「すげえ!すごい速さだ!」「おいおい、こんなに速く泳げるなんて、信じられないぞ!」「すごく綺麗なフォームだな、本当にまったく水泳やってなかったのか?」
僕は軽く泳いでいるつもりなのだが、プールサイドからは驚きの声があがっている。
「お、うまいターン!」「すごい、うちのキャプテンの比じゃないよ、これじゃあ」
残り25m、少し本気で泳ぐ、一応ラストスパートはしておかないと・・・
「速すぎるよ、クロールの泳ぎ方としては完璧だ」「もうすぐゴールだ!あ、ゴール、ゴール!」「タイムは?タイムは?」
100mを泳いだ僕は息を整えつつ、軽く立ち泳ぎしながら水中眼鏡をずらし、ストップウオッチを見つめる水泳部のキャプテンに目をやる。
「・・・うそだろ、おい・・・」「キャプテン、彼のタイムは?」「・・・・・53秒85」
どよめく室内プール、ストップウオッチを見つめたまま唖然とするキャプテン、尋常じゃないタイムであろう事は雰囲気でわかるものの、 どのくらい速いものなのか、さっぱりわからない。
「うわぁ、君、確か陸上部だったよね?」「はい、もうやめましたけど」
そう、元陸上部員・・・ここの高校は体育系では有名で、僕も陸上の特待生として入学した。 しかし、先輩の理不尽なしごきといじめに嫌気がさし、さっさと退部届を出してきたのだ。
「き、ききき、君!うちの水泳部に、ははは、入ってくれないか!?」「・・・そのつもりで来ましたから」
「こんな素晴らしい選手がうちに来てくれるなんて信じられない・・・」「おい、顧問の先生に連絡してこい!」
「これで・・・これでやっと女子に一矢報いる事ができるぞ!」「やっとまともな練習がさせてもらえそうですね!」
キャプテンが反対側のプールサイドに目をやる、そこには女子水泳部員が黙々と泳いでいる。
僕がプールから上がり受け取ったタオルで顔をぬぐいながら問い掛けると、キャプテンは言いにくそうに答えた。
「実は・・・うちの男子水泳部の実力は知ってるだろ?そのせいで、ろくにこのプールを使わせてもらえないんだ、はっきり言って女子のおかげでこの水泳部は存続させてもらっているようなもんだから、 どうしてもプールの使用は女子優先になってしまって・・・使わせてもらえるのは週に2回僅か1時間づつ、しかもプールの半分しか・・・」
対面のプールサイドを見つめるキャプテン、いろんな屈辱があったのだろう、切なそうな表情だ。
とたんに笑顔で僕の手を握るキャプテン、心から嬉しそうだ、僕まで嬉しくなってくる。
そこまでレベルが低かったとは・・・男子が女子に負け続けるというのは、さぞかし悔しかっただろう。
この子たちはアイドル顔負け、びっくりするほどの美少女だ。その中央にいる一番背が高く、そして一番綺麗な少女・・・ 上品な声の主は彼女であろう事は一目でわかった。
「・・・あれが女子水泳部のキャプテン、3年C組の『薩川かつみ』だ」