ハローCQ 
平野真一 名古屋大学 学長
日本経済新聞 200411.26朝刊 交遊抄より
 竹馬の友、学舎の友、国内外の研究者らとの交遊と並び、私にはもうひとつ、大切な仲間たちがいる。高校一年生の時に免許をとって始めたアマチュア無線の『ハム仲間』である。

 その中の一人に40年前から交信が続き、私が『おやじ』と慕う人がいる。米カリフォルニア州に住むエルモ・グリフィスさん(92)。大学に入ったころ、海外と交信したくて周波数を合わせていると応答してきたのが彼だった。

 それからエルモは決まっで早朝六時にコールしてきた。初めての異国との交信がうれしくて夢中になったが、英語がよく聞き取れない。分かったのは最後の「シー・ユー・トゥモロー」ぐらい。これではだめと英会話の本を買って猛勉強した。

 日々、生きた英語に触れるうちに教材にはない言い回しも学び、話題も増えた。数年後、貨客船の船長だった彼が横浜に寄港した時に初めて会った時は、最初の交信がうそのように会話が弾んだ。大学教授になり国際会議で討論できる英語力が身に付いたのはエルモのおかげと言っていい。

 世界各国に仲の良い交信相手がいて、出張で会うのが楽しみ。地元では書から「名古屋DXクラブ」という無線クラブに入っている。国境を越えて肩書抜きの交流が広がるのが、ハム仲間の魅力である。