さまよいの記 Vol.8 その2へ

99.10.1
 今日より10月。仕事を初めてからというもの、月日がたつのが早いな。今日は比較的仕事が楽で、ヒマな時間をもてあました。そしたら女子社員にシステムを運用するのに仕事のことをあれこれ質問され、説明する。ヒマそうでいいねと言われ、カチンと来た。カノジョは盛んに自分は忙しいのだということをアピールし、いかに自分たち女子社員が忙しいかを説明する。しかし、どう考えたってそれは屁理屈なんである。僕ら男性社員はカノジョたち以上に忙しい。徹夜もすれば毎日十二時近くまで残業をし、休日も返上して働くことも多い。ましてやイヤな担当者とも毎日のように電話をしなくてはいけないのである。ヒマなんてことはありえない。ヒマだとしたら仕事の谷間であろうし、煮詰まった気分をリフレッシュさせている時だ。それをあげつらい、自分たちはそんな時間がないとのたまうのである。
「それは時間を有効に使えない君に問題があるんとちゃうかなあ。時間は自分で作るもんやで」
と丁寧に説明した。けど結局はわからんのだろうな。自分を先に考え、万事自分さえの考えの人に何をいっても無駄というものだ。しかもそんなことをイチイチ説明しなくちゃいけないなんて、ここは学校じゃなくて会社。しかも二十を超してる人ばかり。それでそんなこと教えないといけないなんてなんて幼稚な社会なんだろうなあ。

99.10.2
 昼まで爆睡。久しぶりにぐっすり寝た気分。
 昼飯は準備してないというので母と祖母の分も含めて買い出しに行く。食事をしながら母と雑談。そのあと二人で買い物に行く。夜Iさんから電話。非常に不愉快な内容。あまりに不愉快で寝つけず、夜中三時まで起きていた。

 もう人には左右されないでいよう。真実は結局は自分にしかわからないのだ。他人にどう思われようがどうでもいい。うんざりするような付き合いを僕はしたくない。
 誰も命令するな。オレに命令出来るのは師匠とオレのみだ。
 やいのやいの自分の都合を押しつけるな。
 執筆枚数二枚。

99.10.3
 アレルギーの鼻炎が収まったと思ったら今度は目である。目が異常に痛い。そこが良くなればあそこが悪くなる。いたちごっこ。そうなると自然体も重くなる。苦しい。
 母の買い物に付き合う予定であったが、どうも体が重い。後で迎えに行くということにして横になっていた。結局母はそのまま帰ってきた。申し訳なし。
 夜は小説を執筆しようと思ったが、目が痛く、挫折。そうそうに寝ることにする。

99.10.4
 週明けてもまだ目は痛い。帰りに目薬を買うことにする。仕事を貰ったがコンピューターも空いてないし、する気もないので新人君の研修と同期の仕事の手伝いをする。
 帰りがけに薬局に行き、目薬を購入。さしも効果ナシ。目をつぶると幾分楽になるのでしばらくコンタクトをはずして目を閉じる。

99.10.5
 仕事でクレームが出てしまう。今年になって三回目。かなりへこむ。年内にもう一度クレームを出したら会社をやめようかなんて考えていた矢先の出来事であった。人間は必ず失敗する。それは致し方ないことだ。そうは思ってもやはり辛いなあ。単純なミスであるため余計に自分に腹が立つ。

 帰宅後テレビを見るとニュース番組で非常に興味深い企画をしていた。僕は以前から考えていた小説の案にオーバーラップしたので特にそうである。民放では珍しくいい企画であった。

 今日すごく感激したことがある。それは巨人の上原である。テレビ中継がなかったからニュースで見たんだけれど、ホームランキング争いのぺタジーニ選手と松井選手の対決があった。それで上原はぺタジーニ選手に真っ向勝負。ヒットすら打たせなかった。けれど最後の打席、ベンチは敬遠のサイン。これを見て上原はくやしそうにマウンドを蹴り、悔し涙を流した。僕はこれに感動した。この意味分かる人は多くいると思うけど、ほんと感動したなあ。二十勝するよりも試合に勝つ、負けるよりもこの勝負をさせてやりたかったなあ。そのあと松井もやはり敬遠された。
 いいじゃないか。スポーツなんだろう? もっと爽やかにやれよ。高校野球みたいだっていいじゃねえか。堂々と勝負してやれよ。それで負けたらそれはそれでいいじゃねえか。敬遠の方がよっぽど悔いが残るだろうに。

 野球はもういいや。あとはサッカーを楽しみにしよう。オリンピック最終予選もあるし、JOMOCUPもあるし。早く見たいなあ、ロベルト・バッジョ。

99.10.9
 会社は休み。髪の毛を切りに行く。またもやばっさりと切る。三ヶ月ペースでのカットはもう習慣化してしまった。
 夕方母の買い物に付き合う。最近母の買い物に付き合うようになってから、食料品の値段というものが大体わかってきた。だからといって料理をするわけじゃないんだけど、面白い。帰宅後少々ゲームをやり、小説の執筆。思うにまかせなかった短編を書き始める。ここまで書き進められないと正直お蔵入りさせたいほどなのだが、今コレを書かないと一生小説が書けなくなるんじゃないかという意味不明な恐怖心がある。まあいいや、なんて気持ちが少しでも起きてしまうとすべてがぶっつりと途絶えてしまう。一番の敵は自分のそんなアナーキーな心である。
 深夜1時、執筆をやめてテレビを見る。執筆枚数三枚。

99.10.10
 体育の日。といっても僕にはほとんど関係ないけど。
 祖父の13回忌。親戚一同が集まった。僕は仕事に行く。少し片付けたあとにちょっと息抜きドライブ。考えること多し。
 来日したロベルト・バッジョ選手のインタビューなどを見て不覚にも涙がこぼれた。あのフランスW杯から一年半。不屈の闘志で復活したロベルト・バッジョに感激し、心の奥で誓ったことを僕はもう忘れている。ハズカシイ。
 夜小説を執筆。自分にしか書けない大嘘を僕は書いていきたいなあ。
 執筆枚数三枚。昨日の分を削除し、書き直したので進展なし。

99.10.11
 珍しく早く起き、かつ朝食まで食べに行ってしまった。で時間もあるので洗車をしに行こうと考え、洗車場にいったらまあいるわいるわ。だいたい朝九時に洗車するなんて人あんまりいないだろうとタカをくくっていたのにな。仕方なしに車内の掃除をして、ガソリンもないのでスタンドで洗車を併せてしてもらうことにした。誘導してくれたアルバイトの子、かわいかったなあ(もちろん女の子)。そのあとダイ○マに行ってビデオテープを購入。昼食は自分でスパゲッティを作る。
 さて、本日のメインイベントであるJOMOCUPだけど、これがまた感激ものであった。
 はっきりいってバッジョ、レオナルドの独壇場といっても過言ではない試合展開であったけど、これがまあ実に華麗なプレイであった。国立に足を運んだ人、そうでない人みんなが十分に楽しめる、そして忘れられない試合であった。
 ありがとうバッジョ。ありがとうレオナルド。僕はこの試合で胸の奥に大きな希望をまた灯すことが出来た。韓国の選手も素晴らしい。日本の選手も良かった。もっとサイドからの攻撃をしてくれるともっと良かったんだけど、まあいいや。

 夜Kさんと会う。少々雑談をした。

99.10.12
 昼休みにネットを巡っていると昨日のJOMOCUPでの事がニュースとして報道されていた。いつもいくスポーツライター(っていうのかなあ)の方のHPに行き、記者会見の選手の言葉をチェックし、他のスポーツ新聞のwebサイトに行く。しかしまあ、なんでこんなにひどい報道が出来るのか不思議になる。
 たとえばABCというさる人の発言があったとしよう。これを記者は記事にしようと原稿を書く。この時ただABCと言ったと書くといわゆるベタ記事になる。そこに記者の公平な視点、正しい認識での言葉が入るとそれは記事として生きてくる。しかし、ABCの発言のAとCをカットし、Bのみを取り上げ、主観や感情を混ぜて書いたときどうなるか。これを報道というのならば、何が事実となるのだろうか。必ず伝えなくてはいけない事はなんなのかを良く考えてもらいたい。
 言葉とはホント恐ろしい。
 真実はほとんど新聞には載らない。週刊誌にも載らない。真実はおよそ当事者にしかわからないのである。

 他人の風評を信じるほど愚かなことはない。でも僕らはそれでもそれに迷わされ、愚かな行為を繰り返してしまうのである。他人の風評を信じ、自身の目を信じない。恥ずかしいよなあ。

 愚直であれ。愚鈍にはなるな。

99.10.14
 夜Kさん宅へお邪魔した。その家の息子さんがお話をしようというのであれこれトンチンカンな会話をする。子供はかわいいなあ。話していて飽きないものな。
 そのあとS君に会う。会社の借りてるマンションを引き払うことになった。近所に越してきて半年。ようやく馴染んできたのになあ。夕食がまだだというので食事をご馳走する。

99.10,15
 急に寒くなってきた。会社に行くのにジャンパーを羽織るかどうか悩んで、結局長袖のシャツだけにしたら帰りは更に寒く、大失敗であった。
 帰宅後夕食をすませてから金子達仁著『二十八年目のハーフタイム』を読む。アトランタ五輪のブラジル代表に奇跡の勝利をもたらせた日本オリンピック代表のその後までを丁寧に追った秀作である。読後、これほど後味の悪いノンフィクションはないなとへこむ。今までいくつかのサッカーノンフィクションを読んだけど、これほどヘヴィなのはない。ただ思ったのは雑誌に掲載された記事の方がもっと密度が濃かったように思えたんだけど、気のせいなのかなあ。

 明日も仕事。たまには早く寝るのもいいかもしれない。

99.10.16
 昼は会社で昼食会となり、近所の寿司屋(廻転するほうね)へ行く。体調がすぐれないせいもあり、いつもよりは食べなかった。そしたら専務が「あれ、浅井くん、もう終わり?」とエビを食べながらいうではないか。オレそんなに大食漢じゃないのになあ。
 午後仕事をしているとどうにも手が怠くなり、目も痛い。ここ最近一週間体がもたない。辛い。ほんとに辛い。

 帰宅後なにげなしにBSをつけると映画がやっていた。なんだか面白そうなので最後まで観た。タイトルは『告発』。法廷モノである。クリスチャン・スレーター、ケビン・ベーコン出演の映画であるが、なかなか良かった。おかげで頭痛くなったけど。

 今日より藤沢周著『ブエノスアイレス午前零時』を読み始める。平野啓一郎氏の『日蝕』は途中で挫折したけれど、今回は読もうと思っている。が、出だしで苦痛になる気配が襲ってくる。まずいなあ、せっかくお金出して買ったんだからちゃんと読まないと。

99.10.17
 しっかし毎度書くことだけれど、なんてオレは臆病になっちまったんだろうか。
 あの頃の傲岸不遜なほどの勇気はどこにいっちまったんだか。

 夜Nさんが家に来た。しばし雑談。「あれこれ言うヤツがいるかもしんないけど、自分のペースでやっていけよな」と言ってくれる。この一言がどれだけ僕を勇気づけてくれただろう。涙で出そうになってしまった。
 そのあとKさんと会う。今日一日で何人もの知人に会い、いささか疲労。帰宅後F1を観戦し、寝ようかと思いつつもチャンネルをかけたらセリエAのベネチア対インテルがやっていて、見てしまう。結局寝たのは深夜二時すぎであった。

99.10.18
 もう背中が最悪な状態である。ここまで酷くなるとは思ってもみなかった。仕方なしに今日よりビタミン剤のお世話になることにした。
 仕事はもうほとんど目処が立っているので適当に遊ぶ(おいおい)。帰宅後用事があったのでYさん宅にお邪魔するが不在。そのまま家に戻り、テレビを眺めることにした。なるべく目を酷使しないようにしてはいるけど、辛い。
 小説を書こうとするも、やはり肩が凝るので挫折した。

99.10.19
 ビタミン剤を飲むも効力なし。こういうのが効かない体質なのか。ここ二年ほど無茶なことばかりしたツケが出ているのか。不安になってしまう。とにかく背中が痛い。
 帰宅後、フリーの画像処理ソフトをダウンロードするもどうも馴染めない。もともと画像をいじるのは嫌いじゃないけど、いかんせん時間もない。それに文章を打つことが目的であるためか積極的に使う気になれず。
 疲れがひどいので早々に寝よう。

99.10.20
 いきなり言葉が溢れてくる瞬間というのがある。無性に文章を書きたくなるという衝動である。僕はそれが原動力となって小説を書いていたが、ここ最近はそれをなるべくいなすようにしている。それでそのまま書きあげるといのもいいけれど、それだけで書いたものを人様に見せるのはいささか恥ずかしい。体裁を気にするようになったのか、はたまた進歩したのか・・・。

 ネットを巡りながら、久しぶりに音楽でも聞いてリフレッシュしようかと思った。ジャズなんていいかもなあと思い、デューク・エリントンのCDを聞く。いまはコレくらいがちょうどいい。ロックは神経を尖らせていけない。今度クラシックでも買ってこようか。

 久しぶりに原稿に向かう。まだちぐはぐな展開。ようく考えてまとめていこう。今のままじゃ書きたいことの一文字も伝えられやしない。

99.10.21
 しかし、まあマジメに日記をつけているな。今までこんなにマジメにつけたことなんてないのになあ。我ながら感心する。
 会社じゃやることなくなってしまい、ウロウロ。上司の目を盗んではイタズラ書きをして時間を潰す。定時になって挨拶もそこそこに帰宅。
 今進めている小説を再度頭から読み返し、書き進める。
 背中の怠さは抜けず。どうにもならないのでイライラしてくる。

 この世に上手い出だしというのはいくらでもあるけれど、僕はラディゲの『肉体の悪魔』の出だしが名文だなあと唸ってしまう。小説の出だしがこれほどであれば十分に最後まで読者をひきつけられるだろう。僕の小説は出だしがイマイチなんだよなあ。日本では太宰治の『斜陽』の出だしがいい。美しい。自分の書きたいことを書けるほどの技術を持ち合わせていない僕としては一行書くのに四苦八苦だ。ええい、ままよと書いたとしても、次の日見ると赤面してしまう。
 小説って難しいなあ。

99.10.24
 自分に足りなかったのは行動なんだと思う。反省するのみ。
 周りがうるせえ。ガタガタ騒ぐんじゃねえよ。いつか見てろ。

 惑わされない自分になりたい。

99.10.25
 仕事がはかどらず、イライラする。
 夜久しぶりに執筆。しかしどう書いても書きたいことが書けない。僕の貧困なボキャブラリーと恨めしく思う。足りないのではないし、いらないのでもない。この微妙なさじ加減が神経をすり減らす。滅入ってしまうな。

 先日オンラインソフトでゲームをダウンロードした。僕は普段パソコンじゃゲームはしない(なんの為にプレステがあるんじゃい)。けれど手軽に楽しめるRPGはないかないなと見ていたら『LostMemoly』なる作品を見つけた。ちょっとやってみようかななんて考え、やってみた。
 結論。これは面白い。マジで良い出来である。まず画面はいまのゲーム機に遠く及ばないのだけれど、シナリオが秀逸。ところどころ気になる部分はあるけれど、それもまた愛嬌である。最近大作だのなんだのと話題先行のものが多いけれど、小粒ながら良質な作品がまだまだあるのだなと思った。1000円でこれはお買い得かもしんない。もうけあるんかいなと入らぬ心配までしてしまった。
 やっぱり物語が大事だよな。小説でも、ゲームでも。

 手塚治虫の漫画に『ノーマン』という作品がある。これあんまり目立たないし、知らない人のほうが多いかもしれないけれど、正直僕はこの作品にノックアウトされた。まさしくSFというものの醍醐味を味わえる作品だ。すごく読みたいのだけれど、どこいっちゃったかなあ。また買うしかないのかな。

99.10.27
 仕事を夜九時で切り上げて、Kさんに会いに行く。社員旅行のため、しばらく留守にするために挨拶するため。ちょうどNさん、Sさんがいたのでしばらく話し込む。

 僕らは生き続けなければいけない。生きて行くことは辛い。しかしその辛いこと以上の喜びや挑戦が出来ることもまた、生きていなくては味わえないのだ。

 小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。しかし恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。
 行け。勇んで。小さき者よ。             『小さき者へ』有島武郎著

 まさしく。僕はいまだ小さき者だ。

99.10.28
 晴れ。盛大な晴れ。夏みたいに暑かった。
 明日から旅行なので今日は定時で切り上げ、色々必要なものを買い揃える。帰宅後日本シリーズを見る。福岡ダイエーホークス優勝。その恩恵にあやかれないのが残念(せこい)。

 夜小説を執筆。どうにもうまく書けない。あれこれ考えて、直したりするけれど、これが今の僕の限界として発表することにした。
 10月も終わりに近い。明日から社員旅行で日本を留守にしてしまう。さまよいの記もひとまず中断である。帰国後、充電したエネルギーを爆発させて精力的に前進すると決意する。
つづく
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