さまよいの記 Vol4
99.6.1
 まだ食いつなげると思っていたらなんと銀行にお金がなかった。そんなに無駄づかいしたかなあと思いつつ、振り返ると一杯あった。ちょっと外食しすぎたし、先日も図書券があるくせに三千円分も本を買ったのがいたかった。久しぶりの金欠に苦笑するばかり。

 どうにも体調悪し。

99.6.3
 夜HさんやNさんと会う約束をしていたので定時で帰宅。僕はこの人をあまり好きではない。向こうも分かっているらしく、妙に話しかけてくる。僕としては非常に疲れる。
 Hさんと別れてTさんと合流し、懇談。聞きたいことがあるのだと質問され、どう説明していいものかと悩みながらわかりやすく説明をする。理解したかは別として、喜んでくれて嬉しかった。
 帰宅後異常に眠いくせに本を読み始めたら止まらず、寝たのは三時過ぎだった。

99.6.4
 仕事全くする気なし。けれども仕方なしに黙々と作業をこなす。
 帰宅後夕飯を食べていたらKクンからTEL。今度の週末に会う約束をした。
 異常に眠く、体もだるい。早く寝ようと思っていたが、寝れず。非常に苦しい。

99.6.5
 休日出勤。仕事中に他の人の目を盗んでネット巡りを息抜きでする。
 午後六時半に会社を出て、帰宅。巨人は負け。会社の同僚が見に行ってるのを思い出す。あいつ、悔しがってるだろうなあ。
 宮本輝の「草原の椅子」読了。非常に良かったけれど、どうも物語として半端な人物や話が多すぎたように思える。久しぶりに本で泣いたけどな。
 コソボ情勢は和平案をユーゴが承諾し、空爆の停止ももうすぐだそうだ。遅い。遅いけれど、終わるということに素直に喜びたい。そしてこの空爆で、亡くなった人、体を傷つけられた人、心を傷つけられた人に、僕は深い祈りをささげたい。国際社会だなんだといっておきながら、人類は兄弟といっておきながら、外国に送る金があるなら私たちにくれと抜かした芸能人、そんなもんヨーロッパで解決しろとのたまったインテリよ。お前らのその言葉は忘れんぞ。おまえらはただのガキだ。

 日蓮が時の権力者である鎌倉幕府を「わづかの小島の主」と喝破した言葉がある。所詮どんなに権勢を誇り、金をうならせたところで、日本というわずかなちっぽけな小島でわめいているだけだ。タクラマカン砂漠にすっぽり入ってしまうほどの日本でそんなに弱いものをいじめ、金を欲しがってどうするのだ。

99.6.9
 管理部門よりデンワで、日程は伸ばせられないとのこと。専務や上司と大幅な日程調整などに追われてしまう。金はいくらでもかけていいから期日を伸ばさないでくれというのは会社にとってはおいしい話なんだけれど、ちっとは社員の身にもなってほしい。
 なんやかやと進まない。こういう日は早く帰るに限ると見切りをつけてさっさと帰宅。

 怒りは胸の奥にしまいこみ、大地を踏みしめる礎とせよ。

99.6.11
 ようやく仕事が動きだす。手応えを感じた。多分行けるだろうな。
 帰宅後web上の小説を何本かまとめて読む。感想を書こうとおもうのだけれど、イマイチ言葉がまとまらない。もう一度読み返すことにしよう。

 どうも僕らは当たり前のことを忘れすぎているようだ。
 出来て当然、簡単至極な事柄を、変に難しくしてしまっている。またあらゆることにおいて無知であること甚だしい。それでもまあいけしゃあしゃあと生きているもんだ。
 清潔に、明るく、素直に、そして使命をもって生きていきたい。

99.6.12
 休日出勤。仕事の合間にWEBを巡っているとき、ふとNOVELSWORLDの感想掲示板ログと談話室のログを見る。開設当時からのそれは僕にとっては実に有意義な内容であった。
 それほど昔のことじゃない。二年まえからのその記録を読んでいて、万感胸につまった。
 帰宅後、どうにも力がはいらない。神経が疲れているのだろう。
 久しぶりに原稿に向かう。執筆枚数二枚

99.6.13
 昨日に続いて今日も休日出勤。はかどらず、イライラ。
 そんな中でふと作品のタイトルが浮かぶ。それが僕の中で確かなものになり、絶対に今年中に書きたいと思うようになった。でもまだ書きおえていない作品あるんだよな。
 帰宅後、Kクンと会う約束だったが、風邪をひいたらしく、キャンセル。久しぶりに車に乗ることにする。カラダの隅々に血が通い、神経がクルマの一部になる。気持ちのいいドライブになった。本当は洗車したかったけど、そんな時間がもったいなく、乗り回した。
 巨人は白熱した展開で勝利した。気分がいいぞ、六月の試合は。

99.6.14
 知りもしない人を批判しない。そこには必ず相手の理由があるはずだ。それを知りもせず、独断で批判、弾劾することは愚かな行為だ。
 反省すべきは自分。どのようなことであれ、自身が関っていることであるならば、まず最初に自身を反省せよ。
 強く、強くそう感じ、反省した一日だった。

99.6.15
 今日うちの会社の女子社員たちが陰口を言いあっているのを聞く。ウンザリ。挙句ワシに同意を求めてくる。
「アホか。そういうのはそいつの目の前で言うもんじゃ。仲間を増やしたかったら他当たれ」
 とやんわりと答える。
 僕は別段陰口を非難はしない。同意を求めることを非難するのだ。
 僕は(あんまり)陰口を言わないように心がけている。むしろその人に面と向かっていう。言いたいことがあるのならば正面切っていえばいいではないか。そう考えている。また僕は陰口というのがどうもヘタなようである。声がよく通るらしく、筒抜けらしいし、本人がいないと思っていっていても必ずどこかに本人がいるのである。数年前にそういうことがよくあって、僕は陰口をやめた。どうせなら正々堂々と言おうと。だから嫌われるんだな、ワシは。

99.6.16
異様に目が痛い。眼球をはずして洗いたい気分だ。仕事がそこそこうまく行っているので今日は早めに帰宅。サッカーの試合を観た後、Iクンに会いに行く。
 なにもする気なし。

99.6.17
 まだ目が痛い。目やにが出ないからそれほど疲れているというわけではないのだろうが、嫌な違和感がある。この仕事が片づいたら2、3日休みたい。
 久しぶりにCDを聴いて仕事をする。進みが早い。会社にCDを置いてないから明日にでも何枚か家から持参しようかな。
小説を執筆するも、うまくいかずに削除してしまった。

99.6.18
 日記なのにここで小説の感想を書いておく。
 今日ネットをぶらついていた時に、エッセイ「川沿いの町」で紹介した、霜越あきらさんの新作「約束のつづき」を読んだ。
 豊穣な語彙、多彩な表現、流れるように滑らかな文章。とにかく読ませる。出てくる人物たちは生き生きとして、存在感を発散させている。その人物たちから周囲の風景が立ち上がってくるのだ。
 普段僕らが読んでいて、すんなり読める小説ははじめに風景の描写から人物へと移行していくものが主である。他方人物を主眼として、その一挙手一投足、言動に視点を置き、風景描写を極力削ぎ落とす手法がある、ように考える(あくまで僕の中で)。
 この「約束のつづき」は後者で、僕はこういう作品を異常に好む。すえた匂いや、薄汚れた風景、息づかいが聞こえてくるようだ。
 前々から思っていたけれど、霜越さんの小説の中の人物たちはイキがいい。新鮮な魚なんて目じゃないくらいに生き生きとしていて、僕の前に立ち上ってくる。そして所狭しとその役割を演じる。僕はそんな人物描写のうまさに唸るばかりだ。ただイキが良すぎて、なかなか作者の思い通りの動きをしてくれないんじゃないかなと思うこともない。自分の思っている物語の進行に人物がのってくれないことがある。それは人物に魅力があると尚更であろう。僕は人物に魅力がないから思い通りに動いてくれなくてイライラするけれど、霜越さんの場合は逆なんだろうな。
 作品全体の流れは非常にスムースで、無理もない。けれど描写に割り当てる枚数が長い箇所と短い箇所がある。僕としては加奈子の内面の独白は似たような問いかけが多かったように思えるから、もう少し短くしたほうが良かったように思う。逆に後半部分での敬吾の成長の部分をもう少し丁寧に追ってもよかったんじゃないかなと思う。着地点(結末)が多少作者の意図とずれているのかな、なんとなくそんな違和感を感じた。それは多分、さっきもいったように魅力的な人物のせいであろう。僕なんかは構成もへったくれもなく書き進めてしまうから思い通りに行かないけれど。
 長々書いてしまったけれど、出てくる人全てが人間の持つ、やさしさをたたえながら、それぞれの場所、立場で懸命に生きている。僕はそう感じる。だからなんだか胸に迫るものが多すぎて、ついつい感情が入ってしまう。
 傑作だ。僕は読み終えてそう思った。昆布ぱんさんの「奇蹟」を読んだときも傑作だと思ったけれど、いやはやこれもまた傑作だ。僕はもう悔しくて仕方がない。
 霜越さんの力量はすごい。才能が溢れているし、初期の作品よりも更に豊かな作品となっている。これからも作品を書き続けるべき人だ。こういう作品を見てしまうとつくづくオレは才能ねえなあとうなだれるし、こんちくしょーと叫ばずにはいられないな。あー、悔しい。けど、嬉しい。

99.6.18
 読むことにも体力を使うのだなと実感。昨日はあれからまた「約束のつづき」を読み、昆布ぱんさんの「奇蹟」を読んだ。
 一億総作家時代のようなこのご時世で、何人も才能のある人に出会えたことに感謝したい気分だ。
 文学論や文学談義というのが嫌いだと何人かの人にお話ししたことがあるが、ここで訂正します。僕は嫌いなのではなくて、出来ないのです。あれやこれやと議論をし、執筆方法はああじゃ、こういう場合はこうじゃというのを語り、考えると僕は筆を進めることが出来なくなってしまう。そういうものに縛られすぎて、変に意識をしてしまい、一文字たりとも進まない。
 つまり、そういうことを論じれるほどの人間じゃないし、頭もないというこっちゃ。
 今ごろになって気がついた。反省することしきり。
 さまよいの記じゃなくて反省日記だなこりゃ。

99.6.19
 休日出勤。雨で憂鬱な気分になる。
 帰宅後異常に眠くなるも、ビデオを観る。
 そのあと執筆。執筆枚数三枚。

99.6.20
 眠い。とにかく眠い日。
 仕事は昼から少し顔を出す程度にして、母親の買い物に付き合うため、帰宅途中に駐車場から車を出そうとしたら、渋滞している。警備員が反対側ならというのでそれに従おうとすると反対車線を堂々と突っ込んでくる車がクラクションを鳴らしてくるではないか。警備員は青ざめ、僕はキレた。二人組の頭悪そうな若者がこちらを向いて迷惑そうな顔をする。迷惑なのはこっちである。窓を開けて、にっこりと笑って忠告する。
「てめえ、ルール守れねえのか。ぶっとばすぞ」
 夜は夜でビデオを返しに行ったら高校生くらいの男女が奇声を上げてはしゃいでいた。近所の人はいい迷惑である。僕はその横を通り、ケイタイをかけるふりをして、「あ、警察ですか? ○○何丁目で高校生が騒いでうるさいんですよ。聞こえます? すぐに来てくれませんかねえ。うるさくてコドモが癇癪おこしてるんです」と聞こえるくらいの声で言う。そいつらは舌打ちしたり、睨みつけながらその場を去っていった。
 一体この若者(もしくは馬鹿者)たちはどうしてこう倫理や道徳に欠けているのだろうか。そういう力の持っていきようがないのか、その場所がないのか。親は多分放任主義の甘やかしで育てているのだろうし、教師は彼らよりもはるかに知能や道徳感覚が欠如した人間なのだろう。そんな人間社会のなかで、子供がちゃんと育つはずもない。
 僕は聖人君子のような人間じゃないけど、せめて人を本当の意味で思いやれる人がいてほしいと思う。きっとこの日本という国にいる人たちには生命力がないんだろう。だから人を慈しみ、優しく接することが出来ないんだろうな。

 ビデオを返したあとに車でラジオを聞いていたら、Eメールで知り合った子が好きなのだけれど、告白できないし、会うのがコワイというお悩みはがきが紹介されていた。質問に答えた心理学者は普通恋愛感情というものは表情や仕草、言葉のニュアンスから入っていって最後にその相手の心に触れて好きになるそうで、最近のEメールの普及によってこれが逆転してしまい、逆に悩む人が多くなっているそうだ。Eメールでは心に先に触れ、お互いをよく知ることが出来るが、実際に会ったときに必ずお互いに微妙なズレなどが生じて、またそこから仕切りなおし(しかも心を知っているまま)になるから難しいこともあるのだそうな。でもこれよくよく考えたらEメールが普及する前からありそうな話じゃないのか? 文通なんておんなじだと思うのだけどなあ。ニブチンな僕にはてんでわかりませんが。
 ま、会わなきゃわからんわな。人間なんて会って話してはじめてわかることのほうが多いからな。

99.6.21
 今日は早く帰ろうと思っていたのにずるずると仕事をしてしまい、九時近くまで会社にいた。
 帰宅途中、本屋により、本を物色。結局欲しい本がみつからなかったが、偶然前から読んでみたいと思っていた小説をみつけ、購入。

 帰宅後、久しぶりに創作意欲が湧いてくる。執筆枚数五枚。

99.6.22
 自分を信じる。これにつきる。
 執筆枚数二枚。

99.6.24
 仕事の担当者が来社。午前中はそれに追われる。上司と担当者三人で新横浜駅内の定食屋で食事をする。会社の金で食べるとんかつはうまい(節操ないなあ)。
 午後より仕事に取り掛かるも、結局十時ごろまでいる羽目になってしまう。
 帰宅後短編をもう一本執筆開始する。これで書き散らかした作品が五本になる。いいかげん一つくらい書き上げろや、みっともない。
 執筆枚数三枚。

99.6.25
 最終のデータを納品してやれやれと思い、帰宅。九時半頃、ウトウトしていたら会社より電話。はてと思い、受話器をあてると納品したデータに異常があるとの事。そういうのはもう僕の仕事の領域ではないのだが、一応担当者なので会社に逆戻り。結局十二時まで会社にいる羽目に。帰りに会社の人をおくった。

99.6.26
 昼まで惰眠をむさぼる。今日より四日間の休み。
 遅い昼食をとったあと、兄と電気屋巡り。ファックス電話を物色する。結局買うことはなかったけれど、まあだいたいの目星はついたはず。そのあと母親と合流して買い物。帰りに家族三人久しぶりにお茶を飲む。
 夜、小説を執筆。執筆枚数八枚。

99.6.27
 執筆途中原稿枚数計算をしようとしたらなんと一枚の行数を27行にしていたことが発覚。設定をしなおすと、思っていた以上に執筆が進んでいたことを確認。予定の枚数をはるかに超えてしまっていて、少々ビビる。まあ連載だからいいかと開き直り(これがいけない)、そのまま執筆することにする。おかげで連載はストックまで出来てしまうほどであった。一山越せたので連載はそこでやめ、短編の執筆に神経を集中させることにする。
 夕刻より母親の買い物に付き合うことにする。
 夜中からまた執筆を再開。執筆枚数五枚
 夜三時半就寝

99.6.28
 朝は用事があり新横浜へ。同僚たちが仕事をしているのを尻目に朝食からざるそばを食べる。いい気分になる(うっ小市民)。所用をすませて帰宅後、執筆。
 夕刻より買い物に付き合う。
 夜九時より出掛け、Nさん、Kさんに会う。自分のだらしなさに反省。
 帰宅後また執筆を進める。短編を一本脱稿。推敲をして、息抜きにネット巡り。衝撃的な詩に出会う。それを見て自分の小説のつまらなさにうなだれる。
 執筆枚数7枚。頭ふやける。
つづく

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