さまよいの記 Vol.5 その2へ その3へ


99.7.1
 七月。うざったい梅雨の季節。早く梅雨明けねえかなあと思う。
 仕事が入っているけれど全くやる気なし。早々に帰る。
 南米選手権で日本代表はペルーに負けた。トルシエ監督はマスコミに「二点も入ったからマスコミはさぞかし喜んでるでしょう」という発言をしていた。こりゃブラックなジョークですな。
 世界は強い。生半可な技術、そしてスピリットじゃ勝てない。でもいい経験じゃないか。何年後でもいい。いつか勝てるチームとなって一泡吹かしたれ。
 執筆枚数5枚

99.7.3
 昼より休日出勤。夕方五時までこなして帰宅。夜よりYクンの家に行く。かれのパソコンのインターネット接続のセットアップをしてあげ、バイト時代の先輩のAさんに電話。しばし話に花が咲く。車、HP、そして結婚。Aさんは明日相手のご両親にご挨拶にいくので緊張してるんだと照れながら話していた。そして僕に彼女は? 結婚はと聞いてくる。彼女はいないし、それゆえ結婚もないですと答えると「浅井君はいい顔してるんだからいないわけねえだろうに」と言われる。ぼくは滅多にそんなこと言われたことないので少々驚いた。Aさんのほうがよっぽどいい顔(トム・クルーズ似)ではないか。久々に話せて嬉しかった。
 日本代表(A代表)はパラグアイに完敗。マスコミはまたやいのやいの騒いでやがる。トルシエ監督を更迭したいらしい。けど考えてもみたまえ。W杯まであと三年しかない。それで今監督を変えるのは意味があるのか。じゃあ誰を監督にするというのだ。山本コーチか? それでは今までと変わらないし、上も望めない。もし仮にそうなったとしたら、僕は絶望しちまうだろうな。この国はどうやら世界に本気で出て行きたくないらしい。
 監督の言葉の意味をもっと選手は考ええるべきだろし、監督の要求に答えるようにスキルを上げなくちゃいけない。今回の試合はスピリットが感じられなかった。でもきっとW杯よりもいい経験を積めているんだろうな。

99.7.4
 快晴。暑くてしょうがない。
 髪の毛を切りに行き、ばっさりと夏向きに切ってもらう。さっぱり。そのあと本屋に寄り、母親の買い物に付き合う。帰宅後夕食を食べてから出掛けようとしたら手足が変に痺れる。おかしいなあと思いつつも出掛ける。帰りには痺れが治まったけれど、なんだか気分が悪かった。
 とりたてて忙しいわけでもないし、ゆっくり休んでいる。はずなのに体には力が入らないし、食欲もわかない。イノチが小さくなってる感じ。多分僕の神経はすり減って、気持ちが後ろ向きになっているのだろう。つまらないことでイライラしてしまう。

99.7.7
 夕刻よりHに会う。彼は高校時代に知り合った、豪放磊落、痛快な男で、僕が尊敬する友人の一人。大変な読書家でもあり、行動の人。会ってすぐに「最近どんな本を読んでる?」から始まる。店に移動するまでの間、小説談義。
 ある作家の話におよび、彼は「浅井ちゃんから見てどう思う」と聞かれ、所感を述べる。
 彼は実に深い読書をする。そして楽しんでいる。その眼は鋭利でそして慈愛に満ちている。
 二人でとんかつを食す。美味。

99.7.10
 会社休み。久しぶりに惰眠をむさぼるけれど、どうも体調がすぐれない。夜より、H君、Mさんに会う。Iくんも合流予定であったが、体調をくずしたそうだ。三人で居酒屋で盛り上がり、そのあと酔いを覚ますためファミリーレストランへ。深夜帰宅。本を読み返す。

99.7.13
 会社で女子社員同士の陰口を聞かされウンザリ。前にもここに書いたけれど、別段それをするには一向にかまいやしない。でも同意を求めたり、建設的でないならば、それは聞くだけ損である。あまりにうるさいので、
「おまえ、ええ加減にせえよ、アイツ以上の仕事が出来てるんか? 出来てるんならそれでええやないか。堂々としておれ。もし出来てないんなら、出来てからモノ言え」
 とやんわりと言う。それで浅井は冷たいだのなんだのと言い出したので、
「いかにも。浅井は卑怯なヤツや甘えたやつの味方やないで」と答える。

 まわりくどいことは嫌いだし、それほど緻密な頭の構造ではない。善人ぶるわけでもない。
 ただひたすらに誠実に、義理に厚く、正直な丈夫(ますらお)になりたいだけである。

 うんざりすること多く、苛立つこと甚だしい。
 心が枯れているのだろうな、やたらと旅に出たい気分。

 執筆枚数、短編二本を各三枚、長編を二枚。

99.7.15
 仕事も佳境。二つの仕事を同時にこなすことにいい加減嫌気がさしてくる。でも人間は面白いもので忙しいときほど正確な判断、素早い対処、湧き上がる創造力が出てくる。
 夜九時帰宅。Nくんと落ち合い、一時間ほど談笑。
 執筆はなし。

99.7.16
 会社に十一時までいるハメになる。ガンバレ、オレ。
 某作家が「小説とは土方作業」といっていた。これを読んではっとする。わかるような、わからんような微妙な心持ちだけれど、僕には心に突き刺さる。何度も読み返すけれど、僕にはなんとなく(口では説明できないけれど)わかる。
 執筆枚数一枚。煮詰まる。

99.7.17
 休日出勤。仕事ははかどってるんだけれど意識が散漫で、お世辞にもいい仕事をしていると思えない。反省しきり。夕食をとったあとしばらくテレビを眺める。
 もう小説がうんともすんともいわなくなった。やけくそに笑うしかない。
 巨人は阪神に二連勝。追いつかれて危なっかしかったけれど、まあ勝ったからよし。サッカー番組でタイの試合をみたけれど、タイっていいチームじゃない。僕好みのチームだし、もし日本と最終予選であたると面白そうだな。
 執筆ナシ。中上健次の「十八歳」を読む。

99.7.18
 休日出勤。午後からのんびりやるかなんて考えていたら定期清掃で、いきなり一時間中断。出社していた人と野球とクルマの雑談で盛り上がる。夕刻には仕事が一区切り。なんとか明日には終わらせられると判断し、帰宅することにした。
 帰宅後執筆を進めるがここで大きな問題に(もしかしたら大した問題じゃないかもしれない)ぶちあたる。うーと唸りつつ、初歩的なことをわかっていないと痛感する。
 夜中にKにメール。出したあとに自分はなんと傲慢な男かといささか落ち込む。
 執筆枚数二枚。
 どうしようもないな、オレという人間は。

99.7.19
 会社。ひどく疲れているのか、異常に眠い。仕事も緩慢になりそうで何度も顔を洗う。
 帰宅後どうも自分は最近小説をナメているんじゃないか、文学の恐ろしさを忘れているんじゃないかと考える。自分の過去の作品を読み返す。で最近の作品や、書きかけ(散らかしのほうが正解かもしんない)を読む。なんだか進歩してるんだか退歩してるんだかわからない。今自分はどの位置にいるのだろう。
 ふいに十九才の頃のハスにかまえていた自分を思い出すことがある。なんでもかんでも卑屈に捉え、人を見下し、自分を卑下し、好きな人にわざと暴言を吐いていた。家族を恨み、世間を憎み、友を妬んでいた。観念に酩酊し、思索におぼれ、臆病に生きていた十代最後のトシを僕は嫌で嫌で仕方がない。そのクセに僕は今でもあの時に戻りたいと考えてしまう。
 金もなくて、友人と会ってもオゴってもらってばかりで、挙句カノジョにはデート代まで出してもらう有様だった。優しい言葉や態度をしてもらってばっかりで、自分では何もしていない。なんの恩返しもしない。甘ったれたやつ。
 いや、今でもそうかもしれない。人の好意に甘え、人を傷つけてばっかりで、そのくせ自分は小説なんて書いて、仕事をして、生活をしている。
 そんなんで人を感動させられるのか。そんなんで家族を愛しているといえる資格があるのか。そんなんで慕ってもらえるほどの資格があろうか。
 いつまで立っても恥ずかしい人間だ。
 執筆枚数二枚。

99.7.20
 今日は海の日で日本全国祝日でお休み。
 昼に本屋に行く。文庫本を二冊買う。
 Kからメールを貰い、返事を出す。反省メール。
 そのあとあまりに暑いのでエアコンのある部屋で横になりながら「長距離走者の孤独」を読んでいたら急に目眩がしてきて気分が悪くなる。吐き気がとまらず、横になったまま動けなかった。しばらくするとなんとか歩けるようになったのでなんだろうなあと思いつつ、買い物に行った兄と母を迎えに行く。帰宅後、また目眩。しばらく横になる。
 ここ最近疲れているのもわかるし、体調がすぐれないのもわかってる。無理もしてると思うけれど、目眩があるのははじめて。医者にいったほうがいいのかなあ。

 宮本輝の「胸の香り」とドストエフスキーの「貧しき人々」を買う。どちらも読んだことはあったのだけれど、いづれも立ち読みや図書館であった。ようやく手に入れた。

 短編と長編、どちらが楽かといえば僕は即座に長編のほうが短編にくらべれて楽だと答える。短編は一行に異常なほどの精神力と集中力が必要で、一本あげるのに異常に労力を強いられる。それでも出来上がって「あああそこはいらんかった」とか「あそこはああいう表現にすればよかった」と後から後からわいてくる。今までの短編は60枚から80枚。短いもので30枚以内だけれど、もう少し三十枚以内の作品を書けるようにしたい。僕は長ったらしい文章や、緩慢な表現が多すぎる。
 説明と描写という難問にひっかかって、いささか気が重い。

99.7.22
 小説執筆。五枚を書き、「レッド・ホット・アルファ」脱稿。それでも納得が行かず、書き直しをする。非常に疲れた。

99.7.23
 残業をしているとY君より電話。Aさんと一緒に飯でもどうかと。Aさんとは久しぶり(四年ぶり)なので会うことに。三人で食事をして談笑。Aさんより遊びに来なよ(埼玉在住)と熱心に誘ってくれた。ありがたい。行くことを固く約束してわかれる。けど今年は遊びに来てくれといってくれる人が多い。大阪、熊本、埼玉、そして愛知。全部は無理かもしれないけれど、行くことに決める。本当にありがたいことだ。

 リュウグウノツカイという魚がいる。なんでも深海に生息していて滅多に拝めない魚だそうだ。日本でも目撃例は少なく、日本の人魚伝説はこの魚を言っているのではないかと言われている。先日焼津で漁網にかかったとネットニュースで見、名前の面白さで検索したらちゃんと引っかかった。で、そこにいって見たら写真(ご本人が海辺で発見した本物)があった! しかし、これスゴイのだ。何がすごいってまずデカイ。大きさは5.5メートルくらいまで大きくなるそうだ。しかも姿はインパクト十分。夢に出てきそうなくらい。まだまだ世界でも目撃例は少ないそうで、もし興味のあるかたは自分で検索エンジンで探してみつけてほしい。世界は大きい。

 「レッド・ホット・アルファ」を再度加筆、修正。総原稿枚数86枚にまで膨れた。一応、完成。

99.7.25
 快晴。昼より会社に出る。三時間ほど作業をしただけなのでサービス勤務にしておく。会社を出てその足でガソリンスタンドへ行き、給油と洗車。そのときに洗車機にクルマを移動させる際、アルバイトの女の子が二度もエンストをするのを見て苦笑。あんまりオレの愛車を傷めるなよな。
 YくんよりTELがあり、今カー用品店にいるという。近所だったので冷やかしに行く。そこで会社の同僚にも会う。結局Yくんは大枚はたいてアルミホイールを購入。取りつけたあと駐車場で二人で眺める。その後母親を迎えに行き、帰宅。一時間ほど寝る。
 夜中F1観戦。
 小説は「レッド・ホット・アルファ」を脱稿したから気力ナシ。

99.7.26
 会社でブチンとキレて喧嘩二連発。一人は上司。いくらなんでも上司だからってそういう言い方はねえだろうと喧嘩。そのあと女子社員。時間がないから頼まれたことが出来ない。時間がないからいいでしょという言い方にキレる。
 ものには言い方がある。それによっては事は穏便に運ぶのに、突っかかった態度をとられればいい加減こちらもカチンと来る。自分がかわいいひとほどこういう物言いをする。
 不愉快な気分になる。

 帰宅後一時間ほど寝て、Yさんという中学のとき大変にお世話になったかたに会いに行く。今Yさんの息子さんは中学生。時がたつのは早いなあ。

 今の人は実になんにでも詳しい。知識が豊富である。僕は感心してなんでも聞きくなる。けれどその知識がいかほど自分にプラスになっているのか。知識は所詮知識。その積層した知識に現実というニガイ水をたらし、知恵という甘露な水を生成することが出来なければ意味がない。知恵という水の一滴を作るのには膨大な知識が必要だ。しかし知識を知識のまま語るだけであればそれは勿体ない。現実を生きる糧に出来なければそれは無用の長物でしかない。
 真実と事実が違うように、知識と知恵もまた違うものなのだ。

今日は執筆ナシ。

99.7.27
 夜Kさん宅へお邪魔。種々懇談。帰宅後、宮本輝の「5千回の生死」と中上健次の「岬」を読む。

 最近はネットの普及だけでもないかも知れないけれど、詩を書く人が多い。僕は詩が好きな人なのでよく見たりするんだけど、いかんせん詩と詞を勘違いしている人が多い。どの作品も詩ではなく、詞が多い。詩と詞は決定的に違うのだ。僕は詞は見たいと思わない。詩が読みたいのだ。
 それとどの作品も感傷的すぎるし、不要な言葉や描写が多すぎる。
 こう書くと「なんじゃい浅井の作品かて感傷的やないけ」と言う人もあろう。しかしそう思うかたはもう一度読んでほしい。僕の作品に感傷はない。
 もっと素直に感動でき、希望と勇気と癒しをくれる作品を読みたい。

99.7.28
 現実は恐ろしいほど厳しいけれど、その中でしか人は生きれない。だから人は癒しと希望と勇気がほしいのだ。きょうある方の話を聞いていて涙が出た。人生はツライ。人間関係もツライ。辛いことばっかりでウンザリしてしまう。そんな人に追い打ちをかけるように感傷を与えるなど、僕にはとうてい出来ない。

99.7.30
 仕事でクレーム発生。ひどく落ち込む。こういうときは遊ぶに限ると思ったが今日は目の前の川で花火大会。どこにも出掛けられない。おとなしく巨人戦を観戦しつつ、花火を見る。
 人生はツライと書いたあとすぐに辛いこと。泣くなあ。
 人は経験したことしか所詮書けない。骨身に徹したものでしか語れない。理証、文証より実証である。その実証こそが言葉を重くし、人の魂に響いていく。善意の言葉は簡単に吐ける。けれど慈悲の言葉はそう簡単には出てこない。簡単に吐ける言葉を羅列するだけの人を僕は信用しないし、認めもしない。
執筆枚数一枚

99.7.31
 昼間で爆睡。母からエアコンないのによく平気で寝ていられるねえと呆れられる。
 夕刻までゴロゴロとしてテレビを見る。その後兄と二人でお寿司を買いに行く。ボーナスも出たのでささやかながら家族にサービス。祖母も母も喜んでくれた。嬉しい。買い過ぎたため余ったものを一人暮らしのSくんに持っていく。仕事忙しいそう。夏バテしないようにねと励まし、そのあとクルマでドライブ。といってもパソコンショップまでだけど。そこでパソコンの周辺機器を眺める。帰宅後ネットを一回り。
 今日はサッカーオールスター、巨人戦、そしてF1予選とスポーツ観戦三昧。

 書く度に絶望してくる。今日はたったの一行。 
つづく