2002年を振りかえって

 T.Kさんのホノルルレポートに基づきながら、フルマラソンについて、コメントを残したいと思います。
まずは、理想の練習計画とはどういうものか?という問いの答えを考えてみましょう。
(次を読む前にじっくり考えてください。)


 自分の答えが出ましたか。次に元日本記録保持者の藤田敦史選手は一月1200キロの走りこみをし、
福岡国際で日本記録を出したことがありますが、彼は理想の練習をしたと言えるでしょうか。
(この質問もしばし、考えてみてください。)

 藤田選手の場合、もし、これが最終目標であったなら、理想の練習と言えるかもしれません。
いいや、もっと良い練習をしていれば、もっと良い記録が出たかもしれないので、理想とは言いきれない
でしょう。記録が出たから、一番良い練習と判断するのは早合点かもしれません。そして、実際には彼の
最終目標はオリンピック代表、そして、金メダルであり、日本記録は次へのステップアップになるはずでした。
ところが、その後彼は故障などで低迷しています。つまり、次へつながる練習計画ではなかったのです。
理想の練習計画とは、少なくとも練習による進歩があり、なおかつ、次へ繋がる余地のあるものだと思います。
もちろん、その進歩の度合いが上がれば上がるほど、良いのですが、進歩しすぎると必ず停滞、落下して
しまうので、進歩すれば良いというものでもないのです。
 さて、T.Kさんの今年の練習が、どうであったかということですが、私は理想とは言わないまでも、良かったと
思います。確かに30キロ以上の練習を増やせば、良い結果が出たかもしれません。でも、今後を考えれば、
これで良いのだと思います。無理な練習ではなかったし、一度に長い距離を走る練習をあまり入れなくても記録
は伸びたし、次への改善点も見つかった。最高の結果ではないですか。逆に完璧な練習をしたとすれば、来年
以降の伸びが期待できなくなるかもしれません。無理して急な坂を短時間で登るよりは、なだらかな坂をのんびり
登った方が最終的に高いところまでたどりつけます。ティム・ノックス(南アフリカの有名な運動生理学者兼医師)
のランニング事典にも、練習の法則として、最初はできるだけ少ない練習で記録を伸ばしていくことが、述べられ
ています。だから、練習計画には遊びというか、わざと欠点を放置するゆとりが必要なようです。したがって、
指導者なら、その時に必要な助言だけ与え、完璧な助言をしてはいけない。わざと不完全な遊びを残した練習
計画を与えるのが名コーチなのかもしれません。また、毎年、練習内容を変えて、新しい刺激を加えていくことも、
自己記録アップの大事な要素となります。

というわけで、サムズアッププログラム(常にアップを目指す)は今年も自己ベスト続出でうまくいっているわけです。

 では、来年(2003年)へ向けて、T.Kさんの練習を基準にどこを修正すれば良いのか、不完全案を提出しておき
ます。まず、練習代りに出たレースがハーフばかりであったところは改善の余地がありそうです。ハーフ中心で
練習をしてフルで成功した人の例はあまり聞きません。ハーフはたいてい90分程度で走れます。グリコーゲンの
枯渇はそれ以降の時間に起こってくるので、ハーフはフルのペース走にはなっても、フルのための持久力、筋持久
力の養成にはなりません。そこで、ポイントになるのが25キロなのです。フルを目指すなら、25キロ以上の練習を
頻繁(週に1回)に行う必要があります。ハーフのレースに出るなら、ゴールしてすぐ、そのままプラス4キロ走るなん
てことも、一つのアイディアです。さて、25キロ以上といっても、練習距離はいくつが最適なのでしょう。はっきり言って、
答えはありません。断定する人がいれば、それは誤まりです。40キロ走をレースまでに5本こなさなくてはという
日本の実業団選手がいるかと思えば、リディア・シモンは最長25キロで質を重視しています。また、小出監督は
選手によって走る距離を変えています。その人の適性も考えなくてはなりません。年毎に目的意識を持っていろいろ
試して見るのがいいかもしれません。ただ、注意点は、練習の流れを崩さないことです。例えば、40キロ走をやるに
しても、あるペースなら、次の日以降も調子を崩さずにいつもどおり練習を続けられるけれども、ペースを欲張ると調子
を崩したり、故障したり、練習の流れが悪くなり、休養をとらなくてはならなくなります。この場合、前者の練習は力に
なりますが、後者は逆効果になります。調子を崩すほどの量と質のバランスには気をつけましょう。速すぎず、遅すぎ
ずのペースで練習することです。目安としてはリディアードの言う最高安定状態、血中乳酸値2ミリモル以下のペース、
もしくは1キロあたりのレースペースより、30秒から1分前後遅いペースでの35キロ〜42キロ走。25キロ走、30キロ
走なら、フルの目標レースペースで走っても、練習計画に影響は出ないでしょう。これをどのように組み合わせて行く
かが、勝負でしょう。そして、この組み合わせには個人差もあり、同じ個人でも練習段階に応じて変化して行くので、
経験、知識、観察力、情報処理能力、柔軟な思考、創造力、センスが必要となります。前出の藤田選手のように実績
を持ってしまうと成功した練習が一番良いと思いこんでしまう危険があり、真実を見る目がくもり、柔軟な思考が持て
なくなる傾向があります。旭化成やSB食品がなぜ、衰退したかはもう説明の必要はないでしょう。有名選手、名監督
にあらずを見事に表わしています。小出監督のような常識や実績にとらわれない人だと、よりよい練習計画が組める
わけです。過去の自分の練習にこだわるのではなく、常に新しいことにも目を向け、非常識を常識に変えていく、10年
先、100年先のトレーニングを先取りして行く。10年前の練習はすでに時代遅れなのです。(基礎的なところの多くは
古来より、共通していることは否定しませんが。)
 それから、アップダウンのコースは心肺機能強化、脚作りには役立ちますが、レース1ヶ月を切ったら、アップダウンは
避け、よりレースに近い環境、平坦なコースでレースを想定したペースで身体を慣らした方がいいでしょう。(種目はでき
るだけ専門化したほうが良い。)

 最後にどこまで、登って行ったら良いのかについて一言。来年はサブスリー付近を意識して練習会等を開きたいと思っ
ていますが、将来的には、やる気さえあれば、2時間40分前後まで、上昇して行けるのではないかと思っています。
すると、女性なら、市民のトップ、国際マラソンで上位に入るレベルとなります。したがって、T.Kさんはじめとして他の男性
ランナーもチーム一丸で切磋琢磨して、皆でこのレベルを目指していけたらと思っています。それには各人どこまでやる
気になるか次第ですが、皆が同じような目標を持って練習し、刺激しあえば、練習会も活気あるものとなり、今以上に良い
流れができるのではないでしょうか。一人で目指すのはつらいけれど、皆で目指すと楽しく取り組めるところがあると思い
ます。今の常識を越えた願望かもしれませんが、サムズの中で上記の目標が常識と思えれば、可能なレベルではないか
と思っております。

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