粘りの中盤 −カハラ地区〜ハワイカイ〜20マイルー

 ダイヤモンドヘッドの坂を上りきったところにぴあの幟が見えた。ポイント応援隊だ。
『チームぴあ頑張れ!!』の声援が飛ぶ。手を振ってそれに応え、ピッチを上げる準備を
する。『そろそろ行こうか?』両足に問い掛ける。『足:待ってたよ!ウズウズしてたんだ』
この辺りから下り坂になりコースが広がる。距離としては、8マイルを過ぎたあたり。ここ
から自分のペースに(1km 5分30秒)上げて20km地点、2時間5分以内の通過を目指す。
その前に栄養補給。河口湖マラソンで調達したPitというゼリーをかじり、給水所で水を
飲む。ちょっと甘い感じがするゼリーなので、食べるのは給水所の手前と決めていた。
そして一度大きく深呼吸をして、力を抜く為に肩を上下に揺すり、周りのランナーをゆっ
くりとかわしていく。一気に追い抜くのではなくゆっくりと。コース変更はできるだけし
ないで済むようにゆっくりと近づき、前のランナーに自分の存在をアピールしてゆっくり
と抜く。こうするとコースを変更しなくても前のランナーが間を空けてくれるので、
距離をロスせずに走ることができる。9マイルから10マイルの1.6kmを約8分40秒で走っ
た。(1km 5分24秒ペース)下り坂があった分少し早いが、良いペースだ。
このペースをしっかりと掴み、少なくとも30km地点まではこのペースで行きたい。

K枝
その頃私は、ワイキキビーチ沿いを気持ちよく走り抜け、ゴールとなるカピオラニ公園 
付近を走っていた。しばらくいくとメイヤーズウォークのゴールが見えてきた。
ここまでは、順調、順調。さあ、次は、いよいよダイアモンドヘッドの坂ね。どれぐらい
つらいかがちょっと心配だった。なぜなら、昨年は、スタートしてから約10キロをカメラ
片手にウォーキングし、カピオラニ公園あたりから本気で走りはじめたため、
ダイアモンドヘッドの坂は、さほどつらくなく、その傾斜がどれくらいだったかなんて
記憶は薄かった。そして、坂にさしかかった。昨年と同じで歩いている人も時々いた。
たしかにゆっくり走って登るのと、早歩きで登るのとでは、あまり差はないけど、私は
絶対歩かない。そう決めていた。今年は、太陽が昇る前にこの坂を登りたかった。
よかった!まだ太陽は昇っていない。海と空の間がなんともいえない微かなオレンジ色に
にじみ始めていてきれいだった。そうそう、これを見ながら走りたかったのよね。もう少し
この景色を見て、ひたっていたかった。でもそんなことは、していられない。元気なうちに
もっと前に進んでおかないと。歩いている人を抜きながらさらに走った。ふだん練習して
いるコースの坂より、ずっと楽だから大丈夫だよって、自分に言い聞かせて走っていた。


カハラモールを通過すると、いよいよホノルルマラソンのメインステージとなるハイウェイ
の登場だ。往きのハイウェイへ上がる道。帰りのハイウェイから下りる道は歓声が多く
ランナーとして非常に勇気付けられる。ここから先往復で約11マイル(17.6km)このハイ
ウェイを走る。この11マイルをしっかり走れるかどうかが完走のカギだと思う。体調は、
全くと言って良いほど問題無し。足に疲れや張り、痛みはないし、呼吸も楽だ。そう言え
ば、今回はじめてブリーズライトテープを張って大会に出場した。効果はそれほど期待し
ていなかったが、鼻呼吸が楽になった気がする。これまでのところ全てがいい方へ動いて
いる。ここから先どこまでこの状態を維持できるか、いやいかにこの状態を維持するかだ。
ハイウェイに上がってしばらくすると、先導車が現れた。トップの選手が折り返して来た
のだ。名前はわからないが黒人の選手。その後も続々とトップクラスの選手が折り返して
きた。往路を行く選手から拍手が沸き、声援が飛ぶ。『あの人達は、もうゴールなんだ。
こっちは、まだこれからなのに...あんなに早く終わったら物足り無くないのかなー?』
なんて余計な心配をしたりして...

K枝 
その頃私は、ダイアモンドヘッドの坂を登りきったところにいた。ぴあの応援隊の旗を
みつけることができ、なんだかうれしくなって、手を高くあげ、おおげさに振った。
スタッフの人もそんな私のテンションにあわせてくれているのか、或いはしばらくの間チーム
ぴあ の人がとおりすぎなかったのか、わからないけど、わたしに負けないほど喜んで手を
振り 応援してくれた。 やったー!ここからは少し下り坂だ。緊張して力が入っていたせいか 
少し、ももの筋肉がはっているけど、それほど気にはならなかった。


そうそう、ここまでにチームぴあのメンバーを何人か(7,8名?)抜いてきた。今年の
チームぴあのキーワードは、『ワォー』ぴあのランナー達はすれ違う時、追いぬく時にこの
言葉を発してお互いの健闘を祈る。でもちょっと恥ずかしくて自分からは言い出せないな。
もちろん、『ワォー』と言われれば応えるが...抜く時はこちらから声をかける事が多いの
で、『頑張りましょう!』と声をかける。チームぴあ内の順位も少しづつ上がってきたよう
だ。前にはあと何人いるのだろう。先頭はいまどのあたりに? 寛平リーダは?
何てことを気にしながら走っていた。ハイウェイは景色にあまり変化が無い。その為
頭の中では色々な事を考える。このペースでいいかな?とか、あとどれくらいで給水所
があるだろう? といったマラソンに関する事もあるし、家族の事、友人の事、会社の事
を考える事もある。ふと気がつくとけっこうな距離走っていたりする。気がついたら20km
地点に差しかかっていた。通過タイムは、ネット(手持ち時計)で2時間ちょうどくらい。
(2時間4分27秒―グロスー)予想を上回るタイムだ。そしてハーフの通過タイム(グロ
ス)が2時間10分07秒。上出来。確実にペースアップがはかれている。このままの調子
を維持できれば、4時間30分はラクに切れる。ちなみに寛平リーダは、2時間0分50秒で
ハーフ通過。タイム差約9分17秒。10km通過のタイム差は11分20秒だったので2分近く
縮まってた事になる。(これに気付いたのは、ゴール後の事だが...)
しかし、ここで浮かれるわけにはいかない。ようやく半分。去年だって通過タイムこそ違
うが、このあたりではまだまだ余裕だった。

中間地点を過ぎて暫くすると、コース右脇テントの下でハワイアン音楽を演奏している
バンドがあった。単調なコースの中にこういう応援があると気分が明るくなってくる。
さらに進むと、ぴあのポイント応援隊が現れた。チームぴあの幟を見るとさらに勇気が
湧いてくる。『ぴあ、ガンバレー!! 早いよー』と声をかけられ、『有難う!!』と手を
振って応える。応援って本当にありがたい。こういう応援があるからこそ、42.195kmなん
ていう長い距離を走ることができるんだろうな。さらに先へ進むとラジカセのボリューム
を最大にしてヤングマンの音楽を流し、Y〜M〜C〜Aと踊っている応援隊もいた。ラン
ナーも一緒になってY〜M〜C〜A。まだ元気があるからこんな事できるのだろうけど、
自己記録を目指してただひたすら、走っているという感じじゃない。応援してくれる人、
走っているランナー、皆が一緒になってホノルルマラソンという大きなイベントを楽しん
でいる。二度と会う事はないであろう、世界中のランナーと笑顔で一緒に走っていたら、
この場にいられることに幸せを感じたのか鳥肌が立ってきた。そして何故かこみ上げて
くるものが...勘弁してくれー それは、ゴールしてからに… 必至にこらえた。ペースは
依然として5分30秒/1kmペースをキープ。と思っていたがキロ表示がマイルなのでちょっ
とづつ誤差がでていたようだ。
給水所のあるマイル区間では少し遅れ気味になる。列はばらけて来ているが、それは
コースが広いからで給水所付近になると混雑し、歩いてスポンジ、アミノバイタル、水を
受け取らなければならない。さらにハイウェイに上がった頃には完全に日が昇り、少し
づつ暑くなりはじめていて、汗の量も増えている。給水の量も自然と増える。まだ先は
長い。大丈夫かな? 不安が芽生え始めた...

K枝
その頃私は、カハラモールを過ぎ、いよいよハイウエイに、入るところにいた。
イメージでは、カハラモールの辺りは、とても距離が短く、すぐにハイウエイに入れる
ような気がしていたが、実際は、なかなかハイウエイにたどり着かず、長ーく感じていた。
ハイウエイ入り口の坂にさしかかろうとしたとき、逆のハイウエイ出口がとてもにぎやかで、
先導者らしいバイクなどが通り過ぎていくのが一瞬見えた。先頭のランナーだったのかも
しれない。はやーい!! 私は、これからメインステージにさしかかるっていう時に、彼らは、
もうすぐゴールだもん。おなかが空いた時のゼリーやおトイレの心配なんていらない訳よね。
はあー! それにしてもハイウエイ入り口の坂は、けっこう斜度がきつかった。
作る時に、もうちょっと考えて、設計してほしいものだわと思った。


そういえば、お腹が空いてきた。14マイル手前の給水所あたり。こういうときは早め、早
めに、エネルギー補給をしよう。ここではグリコーゲンリキッドを口に流し込む。非常に
甘い。口の中がベトベトしたが薬だと思って我慢。給水所の水で口を濯ぐ。人間て(とい
うか自分だけ?)単純なもので何か口に入るとすぐ元気になったような気がする。走りに
も切れが出てきたような気が...恐いくらい順調だ。このままの状態でゴールできたら、
なんてありえないような事を考えたりした。30kmくらいはいけるかな? 35kmではどうか
な? なんて考え始めたら、逆にそのうち訪れるであろう全身疲労が恐くなってきた。
そして、ハイウェイコースの終着点、ハワイカイがやってきた。ここでもポイント応援隊
登場。往路側、復路側、両方から『ぴあ、ガンバレー!! ファイトー!!』の声が掛か
る。手を振って応えると隣にいたおばさんがちょっと羨ましそうにこっちを見る。優越感!
セントラルの応援隊はもっと多く、太鼓を打ち鳴らしての応援をしていた。その前を通過
するセントラルのランナーがこれまでちょっと羨ましかったから...わざと手を大きく
振ってチームぴあである事をアピールしてみた。『何か欲しいものは?』と聞かれたが、
『大丈夫です!』と元気に応えた。そしてコースはハワイカイへ

K枝
その頃私は、長くて単調なハイウエイのほんのはじまりあたりを走っていた。
さあここからが、がんばりどころと思って、ピッチを上げ始めた時、左胸の奥のほうが
痛くなった。何?この痛さは。肺にしては、呼吸に関係なく痛いし。まさか心臓?やだー!
こんなところでリタイアなんて。。。いろんな情景が一瞬、頭の中を駆け巡ったが、
こんなところでやめてなるもんか!って思い、ペースを少し抑えて暫く走ることにした。

ハワイカイへ入って、少し走ると25km地点。通過タイムは
たしか2時間30分を少し切っていたと思う。太もも内側の擦れ
具合(股ズレ)がちょっと気になったが、まだまだ大丈夫。
走りに影響がでるほどのものではない。この付近ではストレッチ
をしている人や足を引きづりながら歩いている人が急に増えて
きた。そう言えば、去年はこのあたりから少しづつ厳しくなって
きたんだよなー。立ちションしたら急に足が重くなったんだな、
なんて考えていた。それに比べて今年は大丈夫、まだまだ
行けるという自信半分。いつまで持つんだ?という不安半分。
それでも足は勝手に動いてくれる。確実に距離を稼いでいる。
ハワイカイをぐるっと1周まわると再びハイウェイへ戻るがその前
にオフィシャルの写真撮影スポット登場。ここでは帽子を振って
通過。あとで送られてくる写真が楽しみだ。
去年はひどい写真ばっかりだったので、密かに鏡の前でポーズ
の練習を積んでいた。さて、その成果が現れるかな?
(→うーん結構よく写ってる? 顔が険しい?)

K枝
その頃私は、はやくもハイウエイの景色に飽き始めていた。気分転換に、
河口湖マラソンを応援しに行った時にゲットしたピーチ味のゼリーを食べてみた。
おっそろしく、甘くていきなり気持ちが悪くなってしまった。大失敗!給水所はまだ先だし、
この気持ち悪さと闘いながら、もう少し走らないと。。。そうこうしているうちにハーフ地点
に到達、2時間36分52秒だったらしい。もうすでに冷静に時間計算ができなくなりかけて
いたけれど、もし直前にかぜっぴきにならなければ、5時間ぐらいで完走したいという私の 
実力にしては大胆な目標をもっていたのでそんなに悪くないなという感じがしたのは覚えて
いる。この調子でがんばろうと思ったとき、ハワイアンの音楽が聞こえてきた。
バンドが演奏していた。そう!去年も思ったけど、ハワイアンを聞くと、どうしてもビーチで 
のんびりしている自分を想像してしまいマラソンでがんばるぞ!という気がそがれてしまう。
お願い!別の音楽にしてー!!


ハイウェイに戻ると再び、ぴあポイント応援隊登場。往路でハワイカイへ入ったのと同じ
場所。元気のいいおねえさんに、『バンソウコウのお兄さん、待ってました!!』と大声
をかけられる。バンソウコウ? あ、鼻に貼ってあるブリーズライトテープの事か、納得!
このおねえさんは肩からカメラを下げていたので、また写真か?と思いポーズを取ろうと
したらエアサロンパスを両手に持って駆け寄ってきた。『足は大丈夫ですか?』この時点で
はまだ大丈夫だったので、『まだ行けそうだよ』と答えると『頑張って!行ってらっしゃー
い!』と送り出された。なーんだ写真じゃなかったんだ... それでも走るという単調な
動きに飽き始めていた(少し疲れ始めていた?)ところだったので、大変元気づけられた。
そしてこの直後、K枝とすれ違う『大丈夫か?無理すんなよ』と声を掛けると、『寛平ちゃん
前にいるよー』とK枝。お互いの手をパチンと合わせて別れた。見た目にはまだ元気そうで
楽しんでいたように見えたがどうだった?

K枝
私はというと、ハイウエイの景色に飽き飽きしていて、どうしようもない状態だった。
たぶん練習してきた走り方なんて、ぜんぜんできていなくて、気を紛らわすことばかり探して
いた。すれ違うランナーがだいぶ増えてきたので、こうなったら芸能人探しをしながら走ろう
となるべく中央よりに走るコースをとった。小さくて見逃しそうだったけど、浅井えりこさんが
いて、そのうち寛平ちゃんが...今年もワォー!をやってくれなかった。ひどい!
また無視かよー! もしかしたら、そろそろT.Kが来るかもと思い。一生懸命探しながら
走っていた。来た来た!ちょっと疲れて見えたけど、私のほうは、目的が達成できて、
ちょっと元気になった。同時に結構いいペースでT.Kは走れていることを知って、
なんだかうらやましかった。わたしもがんばらないと...
沿道でラジカセからヤングマンを流している応援隊の人たちにあわせて、私も景気付けに
Y〜M〜C〜A〜と走りながら踊ってみた。こういう応援は、元気が出て本当に有り難い。

30km地点通過。通過タイムは、3時間1分13秒―グロス− スタート時の遅れをかなり
取り返してきた。ちなみに寛平リーダは、2時間56分29秒 タイム差は4分44秒となった。
かなり縮まってきた。このままの調子で追い上げれば、ゴールまでに追いつくかも...? 
まあ、これはレースが終わってから気付いた話しなんでタラレバなんですが...
30km地点を過ぎた辺りから、ちょっと足の状態がおかしくなりはじめた。『足:ふくらはぎ
が少し張っている。それに筋肉全体が熱っぽい感じがする。』よし、分かった。次の給水所
で水をかけよう。給水所で水をかけたら、少しだけ回復したような気がするが状態は変わ
ってない。というより少しづつ悪化し始めている。『足:太ももの下、膝の上辺りの筋肉が
張ってきた。ペースを少し落してくれ』分かった。気持ちだけペースを落す。次に現れる
ポイント応援隊のところでエアサロンパスをかけてもらおう。とうとうやってきたかー!!
待ち望んでいたわけではないが、ここからが本当のマラソンだ。完走へ向けての試練が
始まった。

K枝
その頃私は、やっとハイウエイから抜け出しハワイカイへ行こうとしているところだった。
ぴあの応援隊が見えた。ふたたびうれしくなって手をおおげさに振った。ここの応援隊は、
お約束の「ワォー!」を振り付きでやれとまだ遠くなのに要求してきたので、くるしかったが、
がんばってやってみた。応援隊のおにいさんがくるしまぎれにやっている私をみて、
うけまくっていた。ひどいよ!やれって言ったのは自分でしょうが...
そのかわり、エアサロンパスを両足にいっぱいかけてもらった。応援隊から元気をもらい、
ハワイカイへ... 去年の記憶がよみがえってきた。確か、ハワイカイの途中から、ひざが
痛み出しつらかったし、雨がふたたび降って来て、寒かったり、むし暑かったりでたいへん
だったなあーと。今年もふたたびハイウエイに戻るまでの道のりが長く感じるんだろうか?
去年、カットしたオレンジをくばってくれたおばさまには今年も会えるかなあ。
すこしでも短時間でハイウエイまでもどれるように、ひたすら前を見て走りつづけた。
のどが渇く間隔が短くなり始め、給水ポイントが待ちどおしかった。


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