冬はイベントの季節―――八樹は手帳を見ながらうっとりとした。
十二月。冬至にはカボチャを食べて、一緒に柚子湯に入って。地味だけど、半屋が風邪を引くのはイヤだから、この行事ははずしちゃいけない。
そうしたらすぐに、恋人たちにとって一年で一番大切なイベント、クリスマスがやってくる。 イブには、レインボーブリッジとお台場が見えるホテルのレストランのディナーを予約しよう。ああいうところはイブの料理がおいしくないという話も聞くけれど、ムードの前には味なんて無意味。おいしくないからやめようなんていうことは、一度経験してから考えればいいことだ。
クリスマスの当日はターキーとケーキを買って、家でしっとりと過ごそう。 プレゼントの交換はイブのディナーの時がいいのだろうか。いや、レストランで交換なんかしたら半屋に嫌がられそうだから、クリスマスの日に、ろうそくの明かりに照らされながら交換なんていうのはどうだろう。ろうそくのオレンジの光が半屋の白い肌を染めて―――ろうそくは奮発して専門店に買いに行こう。
そして年末。 一夜飾りは縁起が悪いらしいから、二十七日ぐらいに買い出しに行って、大掃除をして。 大晦日にはお蕎麦を食べて、こたつに入って紅白を見て。そして除夜の鐘を聞きながらキスをして――― 八樹はうっとりと想像に浸ったが、その手帳はまだ白紙のままだった。 それに一緒に暮らしているわけでもないので、柚子湯や大掃除は始めから厳しい。
でも、うまく立ち回ればできるかもしれない。 徐々に半屋の家に泊まる回数を増やして、半屋が気がついたときには、八樹が家にいるのは当たり前になっているように―――。半屋の場合「当たり前」にしてしまえばこっちのものなのだ。 そうやって一月の終わり頃には「もう少し広いところ探そうか」っていう話になって、そのままあこがれの同棲生活へ!
………実は。 つきあって二年半にもなる今でも、半屋とは週に一回しか会えない。 それ以外は電話もメールもほぼできない。 八樹にとって、それだけでは全然足りないのだが、それ以上を望んで半屋にうざがられるのはもっとイヤなので、話したいことがあっても週に一度のデートの時まで我慢している。 半屋の中で八樹と土曜に会うというのはしっかり習慣化しているので、土曜日なら簡単に会ってくれるし、それにはなんの疑問も抱いていないようなのだが、例えば土曜日に会えなかったとき、他の曜日で埋め合わせたい、せめて週に一回は会いたいと八樹が考えていることでさえわかってくれない。 当然、半屋自身がそんなことを考えてくれるわけもない。 だからこの前の夏休みは地獄だった。 新人戦や合宿で土曜がつぶれまくったせいで、一ヶ月近く会えなかったのだ。 もうあんな思いはしたくない。 しかも冬はイベントの季節。 いちいち約束をしたらうざがらるのは目に見えているが、なんとなくなし崩しに、一緒にいるのが当たり前なムードに持っていって、その上でイベントに巻き込めばバラ色の冬も夢ではない。
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「ねぇ半屋君、明日も泊まっていいかな?」 土曜の夜、いつもの半屋のアパートで八樹は計画を実行に移すための実験を始めた。 いきなり実行に移すと、半屋にはねつけられる可能性がとても高くなる。なのでまず、「なし崩しに二泊できるか」という実験をしてみることにしたのだ。 「アァ?」 半屋はとても怖い声ですごんだ。でも八樹にはそれが拒絶の声ではないことがわかった。 「ダメかな?」 「……」 返事がない、ということは別にどっちでもいいらしい。 こんなんだったらもっと早くから二連泊しておくんだった、と八樹は思った。
日曜日は一緒にテレビを見て買い物に行って鍋を食べて、とても幸せに過ごした。しかもそのまま半屋の家に泊まって、八樹の気分としてはラブラブ最高潮だった。
「じゃあまた土曜日ね」 月曜日の朝、幸せな気分のまま半屋の家を出た八樹は、しばらくして自分が目的を見失っていたことに気づいた。 (なし崩しになってない……!) ちゃんと許可をとって泊まっていたらダメなのだ。なんとなく恋人なんだから泊まったって当然だよね、って感じにもっていかなくては。 つきあい始めた頃は色々事情があって、半屋の方が積極的だったため、土曜にデートしてそのままお泊まりという習慣も八樹が作りだしたものではない。 まだ同じ高校に通っていた頃は、がんばって毎日お昼ごはんを一緒に食べる、という習慣を半屋に植え付けたことがあるが、それは同じ学校だったからできたことだ。 (なし崩しって意外に難しいかも………) なし崩せばきっとどうにかなることはわかっている。しかし経験値の低い八樹には、それはとても難しことなのかもしれなかった。
また出てきたお笑いカップルです(笑) 一度まともなラブラブクリスマスをやりたいのですが(笑)
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