君と僕

-半屋のバレンタイン2-



  
 しかし八樹はそのあと何のリアクションも起こさなかった。
 まったくなにも変わらなかったわけではない。
 なんていえばいいのだろう。バカになった。それが一番近い。
 かけひきめいたところが消えて、ふとした視線や態度が気恥ずかしいというかこそばゆいというか、とにかくオレはその状態でいるのが耐えられないというような感じになった。
 しかし多分意地があったのだろう、そのまま切り捨てようという気にはならず、オレはいらいらしながらも八樹につきあっていた。
 そして、なんか悪いモンでもくったのだろう、ある日オレは切れたのだった。

※   ※   ※

 二・三回したら適当なヤツをみつくろってやってオレは逃げよう。結局最後までつきあうハメになったオレは、だんだんなんだかよくわからなくなってきて、そういう結論に達した。
 
 はじめは別にどうってことなかった。
 ホモで相手がみつからなかった八樹は当然の事ながら初めてで、いろいろみっともなかったし、まぁこんなもんだよなと思った通りの感じだった。
 自分が男と寝てるのかと思うとアレだったが、こっちからなんかするわけでもないし、しばらくならつきあってやってもいいかとさえ思った。
 
 が、そんなことを思ったのもそのときだけだった。そのあとも八樹は気恥ずかしいバカのままだったのだ。
「なんでンな顔してんだよ」
 二回目のあと、やっぱり八樹は一人で幸せそうで、耐えられなくなったオレは八樹に尋ねた。
「え? なんか変な顔してる?」
「してんだろ」
「そうかも。ごめんね、嬉しいから」
 そりゃあそうだろう、十七年かかってやっとすることできたんだからな。
 もともとそれはわかってたのに、オレはそのときかなりムカついた。 
「俺、半屋君がなに考えてこういうことになったのかだいたい見当はつくんだけど。
 でも半屋君が頭で何を考えてても関係ないかな、と思って。
 考えと気持ちが同じものとは限らないって思うことにしたから」
 そう言って八樹はまた綺麗な笑みを浮かべた。
 八樹が何を言ってるのかよくわからなかったが、なんとなくムカつく。
「帰る」
「じゃあその辺までおくってくよ。それとさ、半屋君、今度の連休にどっか出かけない?」
 はぁ?
 おくってく?でかける?
 ここにきてようやくオレは八樹がバカな理由に気がついたのだ。どうも八樹はオレとつきあっているつもりらしい。
 はじめてそーゆーことができてのぼせあがってるんだろうが、よくそんな気持ちになれるもんだ。
「どうしたの? どこ行こうか。半屋君行きたいところある?」
 ………。
 この頃になると八樹に対する対抗心なんかはほとんどなくなっていて、なんというか複雑な気分になっていた。

 こいつもこんなんで意外にボンボンなトコがあるから、そういう誤解をしても仕方がないのかもしれない。
 
 とにかくオレはすぐにでも切って終わりにしたかったのだが、そうしたら八樹はこんなバカっぽいままじゃなくなんだろうなと少しだけ思う。

 とりあえず別なやつに押しつけてオレは逃げよう。

 ホモは好みがうるさい割に、好みであれば簡単に好きになったりコナかけたりする。
 本来だったらそんなこと気にせずにさっさと終わらせてしまいたいのだが、八樹がバカじゃなくなるのはなんとなくアレだったので、オレは八樹に好みのタイプを訊いてみることにした。


 三回めだか四回めだかのあと、相変わらずへらへらしている八樹に好みのタイプとやらを訊いてみた。
「別にないけど……
 あえて言うなら背が高くてスタイルがいい子、かなぁ」
「どれくらいだ」
「あんま考えたことないけど……
 うーん165以上、とか?」
 高いか?それは。

 しばらく考えてようやくそれが女のタイプたということに気づく。
 こいつバイだったのか? なら相手なんか苦労しないだろうに。
「ヤローは?」
「え? ……それって男の人のタイプってこと?」
「ああ」
「―――もしかして半屋君って俺のことホモだと思ってる?」
 思ってるもなにも事実そうじゃないか。
「たぶんそうじゃないかな、とは思ってたけど…
 でもホモじゃないとも言い切れないよね。今まで好きになったことあるの半屋君だけだし」
「あ?」
「あ、半屋君みたいな性格はタイプかも。女の人にはいなそうな性格だよね。そう考えるとやっぱりホモなのかな」
 ―――まて。なんかおかしいぞ。オレは少し考えてみたが、何がおかしいのかよくわからなかった。
「たとえば半屋君が、からかおうと思って誘ってくれたんだとしてもかまわないんだ。こうやってここに半屋君がいてくれるのは事実だし。でもね」
 そう言って八樹はまた幸せそうに笑った。
「たぶん半屋君の性格って、半屋君の考えているのとは違うよ」
 脳がなにかを拒絶している。
 ぼーっとしたままのオレに「知ってるのが俺だけだったらいいんだけどね」などと八樹はさらにわからないことを続けた。


 そのまま気がついたら次回の約束を取り付けられ、なんだかわからないまま連休に遊びに行き……そしてなんだかんだあって、今にいたるのだ。 
 

 

 

つづく


なんだか考えていたのとは違う展開に(笑)  多分次で終わりです。

 



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