四分の一の恋人・4





ものすごく落ち込んでるような気がする。
 今週はいろいろ支度もあるし、自宅に帰らなくちゃいけないのに、この部屋を動きたくない。
 
 だけどこの部屋は良くない。たった三ヶ月だし、週末だけ会ってただけなのに、どこもかしこも半屋だらけだ。 クローゼットには半屋にあげたはずの服が、持ち主に何の関心も払われないまま何着もかかってるし、リビングにもベッドルームにもバスルームにも半屋の面影が焼き付いている。
 その面影は鮮明で、まだ失ってしまったという実感が湧かない。
 でも―――
(……もう半屋くんのことを考えても仕方ないんだ…)
 半屋に似合う服とか、どうやったら半屋が笑うのかとか、半屋がこれからどうするのかとか、気がついたら考えてしまっていた様々なことを、考えてもそれは全部ムダなことで……気持ちが全部止まってしまったような気がする。
 
 今までもふられた後は結構落ち込んだ。でもここまでひどくはなかったと思う。
(……寝よう)
 ふられて落ち込んでも、寝て起きたら世界が変わっていた。新しい女の子たちがまぶしく目に飛び込んできて、落ち込んでいたことなんてすっかり忘れてしまった。
 だからまだ昼間だけれど寝てしまおう。あまり気分を変えたくないような、このまま落ち込んでいたいような誘惑にかられるが、明日は学校に行かなければいけない。
 クリフは睡眠導入剤を飲んで半屋の匂いの残るベッドに潜り込んだ。

 

 

☆      ☆     ☆ 

   


 夢をみた。
 優しい夢でも切ない夢でもなく、半屋が怒っている夢だった。
 クリフがなにかおかしなことを言うと半屋が怒る。
 醒めた目で無視されるのはなく、クリフの顔を見て頭に血を上らせて怒っている。
(怒った半屋くんかわいいなー)
『なにくだんねぇこと言ってんだてめぇは!』
 夢だから、クリフが思ったことにまで半屋が怒っている。
(ホントかわいい―――)
 そして目が覚めた。

 

 

☆      ☆     ☆ 

   


 目覚めると気持ちは恐ろしいほど前向きに変わっていた。
(そうだよねー。まだなにも始まってなかったんだし)
 何かあると思っていたのはクリフだけで、半屋は誰にでも見せる顔をみせて、簡単な身体を許していただけ。
 それでもその先に本物の半屋がいるのではないかと思っていたけれど、それはやっぱりムリだったのだ。


 だいたい半屋はクリフが半屋を好きだってことさえわかっていない。わかってないからあんなやり方で終わることができると思ったのだろう。
(好き―――好きかぁ。こういうのが好きっていうんだよねー)
 目が覚めても半屋への気持ちはなくなっていなかった。今までふられた次の日には『好き』という気持ちもきれいに収まって、新しい女の子をみつけようと浮き立ったけれど、そんな気持ちにはとうていなれず、でもふられたというショックからはすっかり立ち直っている。
(そうかー。好きなのかー)
 つきあってないけど好き。そんなものがあるなんて知らなかった。
(まずはボクがボクだってわかってもらって、そしてボクが半屋のくんことを好きだって事をちゃんとわかってもらって……)
 全てはそこからだ。

 

☆      ☆     ☆ 

   

 
 昼休みにクリフは生徒会の仕事のあいまをぬって、いつも半屋が休んでいる工業科の校舎の裏に出かけた。
「……てめぇ」
 半屋はにこにこと現れたクリフに鋭い視線を向けた。
「うん。ボクふられたんだよね。わかってるよ」
「……何の用だ」
 あくまで笑顔のクリフに半屋はうまく調子がつかめないようだ。
「忘れ物をもってきただけだよ」
「いらねぇ。捨てろ」
「じゃああの部屋に置いとくから、気が向いたら取りに来てよ」
「……あ?」
「別れたからってボクと半屋くんが知り合いなのはかわらないでしょ?」
 半屋は何も返事をせず、タバコをとりだしてゆっくりと吸い始めた。それが『向こう行け』という合図なのだとはわかったが、クリフは気づかなかった振りをしてそこにとどまった。
 しばらくして、半屋は深く煙を吸い込み、顔をしかめて吐き捨てるように
「ったく…知ってるヤツなんかとつるむもんじゃねーな」
と言った。
「んーそうかもしれないね」
 もし半屋とつきあっていなければ、きっとイヤになったらすぐ取り替えがきいて、いつでも楽しくて、そんな恋愛を続けられたと思う。
 いまでも一人一人覚えてはいるけれど、本当の意味で覚えているわけではない、そんな恋愛。
「やっぱりなんか違う?」
「……てめぇはうざくねぇって聞いた」
 半屋はクリフがまだ半屋を好きだなんてことは思いも寄らないらしく、完全に終わったものとして、クリフもそう思っているだろうと決めつけて話している。
「これから気をつけるよ」
「あー、そうしろ」
 半屋はどうでもよさそうにそう続けた。
(半屋くんに対して、なんだけどなぁ)
 そのときチャイムが鳴ったので、クリフは今日のところは退くことにきめた。


つづく


まだ続きます(笑) 本当は今回でラストだったのですが、とても苦労して時間がかかりすぎてしまったので(笑) とりあえずここでアップしておきます。だからちょっとラストっぽい(笑)
 次回こそはちゃんとラストを!



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