八樹宗長には「線」が見える。
 モノの壊れやすいところ。モノの「死」が。
 すべてのモノはガラガラと崩れる。人も。この世界も。

 

                              月姫  -digest-

 

 前からくる青年の躯にはたくさんの「線」が走っている。「死」が近いのだろう。もう助かることはない。
 あの線のどれかにナイフを突き刺せば、その部分は死に果てて決して生き返ることはない。
 それは知っている。試したことはないけれど。
 八樹はすぐその青年に興味を失った。

 


  

 

 

  

 

 

 

 

 

   

 

 八樹は公園のベンチに座っていた。自分がどこを歩いていつからここにいるのか、まるで思い出せなかった。


 いつの間にか雨が降ってきていて、八樹の躯をぬらしていたが、そのことにも気づいていなかった。


「いつまでそうしているつもりだ」
「梧桐、くん…」
 傘もささずにいつものように厳しい瞳で八樹を見下ろしていたのは、生徒会長の梧桐勢十郎だった。

 つれてこられた梧桐の部屋でシャワーを浴びながら、八樹はこんなことをしていていいのだろうかと不安になった。
 人を殺したというのに。
 八樹を見た人は―――梧桐は八樹を人殺しだと気づかないのだろうか。

 

 

 次の日、梧桐は先に学校に行ってしまい、八樹は部屋の鍵を管理人にあずけ学校へ向かった。
 もしかするとあれは夢だったのかもしれない。
 今までどれだけ人の「線」が見えようと何もしたことはない。
 それをいきなり―――見ず知らずの人間の「線」の全てを引き裂いて殺してしまうなんて―――そんなことはありえない。


 
 そうだ、ありえない。この手に残る感触、むせ返る血の香り、そしてあのとき感じた極度の興奮も―――全ては幻にすぎない。
 昼休みがすぎるとその思いは確信に変わった。

 俺が人なんか殺したわけがない。
 


 朝は休んでしまった部活も通常通りにこなし、八樹は校門へ向かって歩いていた。
 昨日の自分が嘘のように気分が軽い。

 


 夕日に染まる校門にタバコを吸いながら寄りかかっている人が見えた。
 ―――ドクン
 まさか、そんなはずはない。
「おい、てめぇ八樹ってんだろ」
 そんなはずはない。この人は夢の中の人。
 そして―――殺したはずの人。
「おい」
 その白い人はいらだたしげに八樹に触れた。八樹は思わずそれをはねつけた。
「あ、ごめん」
「んだよ、つまんねーヤツだな」
 その人は八樹に興味を失ったらしく、こんなに長い間待っていたはずなのに、そのままどこかに行ってしまおうとする。
「待って、君は―――」
 八樹が引き留めるとその人は嗤った。
「まさか知らねぇとか言うんじゃねぇよな」
 知らないわけがない。その白い躯に走る線を、昨日自分が切り裂いた。今だって―――

 でも、それは、自分のユメのはずだ。
「知らない……と思う」
「んだよ、相当だな。
 ……てめぇに昨日殺されたんだよ。そう言えばわかんのか?」
「そんなことがあるわけないだろ」 
 八樹が小さい声でそう言うと、その人は『場所換えるか』と言って八樹を自分の部屋へ、あの場所へ連れていった。八樹は無言でついていった。


 血溜まりのできていた玄関は、まるで何事もなかったように元に戻っている。
「俺は………昨日、君を殺したんだよね?」
 その人は八樹を居間に座らせると、缶ビールを取り出し八樹に勧めた。
「ようやく思い出したのかよ」
 ならあれは現実。たとえ「線」が見えても、決して人だけは殺すまいと思っていたのに。あんな簡単に、ただ自分の愉しみだけのために―――…
 八樹が顔を上げると、その人と目があった。
 そうだ、ならこの人は誰なんだ?
「君は…」
「半屋工」
「そうじゃなくて………半屋、君? 君は…」
「ああ、見りゃわかんだろ。生き返ったんだよ。さすがにもう一度切られたらムリだな」
「え?」
「てめぇ、何やったんだ? あんなとんでもねぇ切り方しやがって。おかげでしばらく全然くっつかねぇし、あのヤローの場所もわかんなくなってるし…」
 確か、八樹は彼をバラバラに引き裂いたはずだった。どうしてそんなことをしたのかはわからないが、線のとおりに切り裂いた。
 どんなものでも線を切れば生き返らないはず。
 なら、これは、何なんだ?
「もしかすると、君、人間じゃないの?」
「あたりまえだろ、あんなんで生き返る人間なんていねぇよ」

 半屋の説明によると、彼はいわゆる吸血鬼で、不老不死の躯を持っているらしい。ただ、「完全体」の吸血鬼のため人の血を吸うこともないし、十字架やニンニクをおそれることもない。
 さすがに全く死なないって事はねぇけど、と彼は嗤った。

 半屋は天敵を追ってこの街にやってきたのだという。
 なんらかの力を使い、ようやくその所在を感知できたとき、八樹に殺されたのだという。

 

 

「時間がねぇんだよ」
 だから手伝ってくれと、半屋はイヤそうに言い出した。
「………」
「てめェは殺し好きだからヤバイ橋も渡れるだろうし、わけのわかんない切り方ができるし、だいたいてめぇが殺すからわかんなくなったんだから……」
「うん、手伝う、けど。俺は………」
 殺し好きなんかじゃない、と言おうとしたとき、新しい缶ビールを取りに立ちあがった半屋がぐらりと倒れた。
「半屋君!!」
 抱き込んだ半屋の息は不自然に荒かった。今にも死んでしまいそうで………ようやく、八樹は自分が昨日、彼を殺したのだということを自覚した。
「半屋君!」
「…へ…いき…だ。じき…おさまる。それより…」
 この街にいる「ごとう」という人間を捜してくれ、と半屋は言った。


                                                              
「久しぶりだな半屋。ずいぶん弱ってるようだな。
 ―――なにがあった?」
「梧桐、くん……? なんで君が―――

 

 

 

 

 

「だって半屋君は人の血を吸わないって言った。何も―――何も普通の人と変わらないじゃないか、なのに………」
「普通の人間と変わらない? それはありえんな。
 あれは武器だ。ただ吸血鬼を殺すためだけに生かされている。
 貴様のことも次には覚えておらんだろう」

 

「ダメだ! 見るな八樹!!」
「半屋くん、それは……」

 

 

月姫です。

いくら有名だとはいえ、同人ソフトのダブルパロをやるのはどーかとも思いますが、やっぱやりたいものをやるのが同人(笑) やりたい気持ちが抑えられたかったので、やってしまいました(笑) 男性向け同人だし、大丈夫かもとも思いつつ(笑)

 

・八樹(主人公) モノの死ぬ「線」が見える。ただし、原作ではそれを見えなくするメガネをかけています。ついでにとんでもない大金持ちだったり、色々裏設定があったりもします。でも八樹っぽいとこは今回使った「線」が見えるところと、いきなり人を殺したところぐらいでしょう(笑)

・半屋(正ヒロイン(笑)) 主人公に出会い頭に殺されてしまった人。あと白いのも原作通り。殺されたことを恨んでいないっぽい感じとか、「武器」だったり、実はほとんど生まれてからしゃべったことない設定とか、仲間がいないとか、それっぽいところはあるんですけど、実際はまったく半屋と似ていません(笑)

・梧桐(謎) これは書くとあまりにもネタバレなので、絶対男性向け18禁同人ゲームなんてやらないよーという人のためだけに背景と同じ色で書きましょう。
 梧桐さんは教会方の人間で吸血鬼ハンター(笑)なのですが、実際に敵対しているのは半屋ではありません。
 実は梧桐さん、設定の所々が梧桐さんなだけでトータルで梧桐さんなワケではありません。
 梧桐さんは元々「吸血鬼が覚醒するための器」でした。そしてその吸血鬼が覚醒した時、生活していた街をまるまる一個滅ぼしています(←このへん梧桐さん)
 そして、事情があって吸血鬼は梧桐さんの中から去っていったのですが、その後梧桐さんは「死ねない躯」になってしまいました。
 そのため教会は一ヶ月間毎日梧桐さんを殺し続けました。梧桐さんはただ殺され生き返るだけの日々を一ヶ月過ごしていたわけです(←このあたり梧桐さん。これって私の思いこみかも(笑)) 
 梧桐さんはこの「かつて自分に宿っていた吸血鬼」を倒そうとしているわけですが、なんとなく梧パパと梧桐さんな関係でナイスです。ま、こういう端々だけなんだけど。
 もちろんギャルゲーですので、梧桐さんも落とせます。しかし梧桐さんハッピーエンドが……実は半屋と両手に花エンドのような気がして、なぜ梧桐さん唯一のラブvエンドがそれなのか、微妙に理解に苦しみます(笑)

ゲーム自体は良くも悪くも大作ですねー。こんな企画やっていてなんですが、別におすすめゲームというわけではありません。

あ、あとなんせ5500枚のシナリオボリュームのものをダイジェストしてるので、上の文章めちゃめちゃですね(笑) こんなのを連載にするわけにもいかないので、ごかんべんを。
 ゲームの文章はもっともっと読みやすいです(笑)





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