しゅうすけとゆうたがどこかのうみで・7

 インディジョーンズの近くでやっていた迫力のあるショーを見て、写真を貰って園内をぶらぶらしていたら、おなかがすいてきた。
「なんか腹減ったよな…」
「運河の近くにね、すごく美味しいレストランがあるんだって。デザートも美味しいらしいからそこに行こうか」
「レストラン…」
 それは自分の小遣いで払える範囲を超えているような気がする。
「大丈夫だよ。母さんからご飯代を貰ってきてるから」
「そうなのか?」
「ここは美味しいレストランが多いらしいからね。せっかくなんだから食べに行こう」
 おなかもすいたし、美味しいデザートというのは魅力的だ。
「わかった。運河ってどの辺だ?」
「あっちだよ。ちょっと距離があるけど行こうか」
 そう言って周助が歩き出したので、裕太はそれについていった。


 レストラン・ディ・カナレットはヴェネチアをモデルにした区画の運河沿いに建つレストランだ。テラス席から運河を行き来するゴンドラがよく見える、人気のイタリアンレストランだった。
「ここには日本で一番大きな石釜があるらしいよ」
「へぇ。じゃ、ピザが売りなのか?」
「みたいだね。それ以外も全体的に美味しいらしいよ」
 裕太達はテラス席に座り、ピザを二枚とデザートを頼んだ。

 横の運河にはゴンドラが行き交い、時々ゴンドリエの歌う浪々としたカンツォーネがかすかに聞こえてくる。
「なんかゴンドラも結構面白そうだな」
「後で乗ってみようか」
「ああ」
 ピザは注文を受けてから焼くらしく、出てくるまで少し時間がかかるらしい。

 裕太はさっき見たショーの感想などを話しながら、ふと、自分が自然に周助と話しているのに気づいた。
 周助は裕太の話をきちんと聞いて、柔らかく返してくれる。そして、裕太が興味を持ちそうな話題を選んで話してくれている。
 それは昔からだったけれど、この数年ずっと裕太から周助に話しかけようとはしなかったし、そういうわだかまりが消えてからも二人で一緒に長時間いたことはないので、兄との会話がこんな風だったなんて忘れていた。

 なんだかとても話しやすい。他の人と話すより裕太の考えていることが簡単に伝わるような気がして、つい話すぎてしまったかもしれない。
 今まで疎遠だった兄と自然に―――どちらかというと積極的に―――話しているのだと気づいてしまうと、裕太はなんだか急に恥ずかしくなってきた。
「どうしたの?」
「別に…」
 もしかしたら、急に顔が赤くなったかもしれないが、あまり追求されたくない。
「ねえ裕太。この後どうする?」
 周助は笑みを深くして話題を変えた。
「とりあえず、ゴンドラに乗って………あと、まだ乗ってないやつ結構あるだろ?」
「そうだね。タワーオブテラーとか、センターオブジアースとかが面白いと思うよ」
「海底二万マイルは?」
「僕は結構好きなんだけどね」
「いいじゃん。それ行こうぜ」
 今の言い方だと多分それは裕太向きのアトラクションではないのだろう。
 でも、裕太は兄が好きだと思うものも乗ってみたいと思った。
「そうだね。でも他に見た方がいいものが色々あるし………時間があまったら行ってみようか」
 もし時間がなかったとしても、周助が好きだというそれに乗ってみたいと思ったのだが、裕太はそれを周助に言うことができなかった。


 

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レストラン・ディ・カナレットは予約が大変な時もありますが、雰囲気といい味といいめっちゃお奨めですよん(特に運河の横の席になるとすごく良いです)。でもちょっとお高めです。
予約は園内に入ってからしかできないので、カナレットで食べたい時はまず予約してから行動するのがお奨めです。