しゅうすけとゆうたがどこかのうみで・4


『日曜に練習試合があるから帰れない。菊丸さんあいかわらずだな』
 兄からのメールへの返信をそこまで打って、裕太は少し考えた。
 今日、スクールに行く途中に犬を見かけた。その犬は、裕太と周助に懐いていたマロンという近所の犬とよく似ていた。ちょっと気になってその犬の飼い主と少し話してみると、甲斐犬という珍しい種類の犬だと教えてくれた。マロンは確か雑種だったはずだけど、きっと甲斐犬の血が入っていたのだろう。
『そういえば近所にいたマロンっていう犬覚えてるか?』
 そこまで打って、裕太はその文章を消した。こんなこと、わざわざ書くまでのことじゃない。
 マロンが引っ越して行った時、周助は「大きくなったらマロンに似た犬を飼おうね」と言っていたけど、そんなことはきっともう覚えていないだろう。
 それにあの時は、自分はずっと家にいるのだと―――周助と一緒にいるのだと思っていた。周助だってきっとそう思っていたのだろう。
(こんなこと書いても………な)
 裕太はその文を消したまま、送信ボタンを押した。


 数日して、寮の放送が入った。
『不二裕太君。ご家族からお電話です』
 携帯があるのに、わざわざ寮の電話にかけてくる人間なんて一人だけだ。
 呼び出されたら出ざるを得ない。裕太はしかめっ面を作りながら電話に向かった。
 
 その電話で、周助はチケットがあるからディズニーシーに行かないかと誘ってきた。
 裕太はディズニーシーには行ったことがない。小学生の頃に行きたがると、姉に「裕太にはまだ早いわよ」と言われた。
 そして姉は「裕太が行っても面白くないわよ」とも言った。だからこれまで取り立てて行こうとは思わなかったが、やはり一度は行ってみたい。
 でもどうしようか。周助と二人というのは恥ずかしいし、気まずい。
 でもこんな風によそよそしいのはいい加減やめて、もう少し自然に話やメールをしたいと思わないわけじゃない。かつては嫌いだと思っていた時期もあった。でも、もう少し近づいてもいいと、そう思う。
 もし今自分が近づかなかったら、兄とはこのままなのだろうか。このまま徐々に疎遠になって、こうやって電話がかかってくることもいずれなくなるのだろうか。時々、そんなことを考える。でも何もできないまま時間が過ぎていった。
「面白いところも少しはわかるから、よかったら案内するよ」
「んー。じゃあ行く」
 案内つきの初めてのディズニーシーにつられて行くんだという振りで答える。
 非現実的なテーマパークでなら、二人きりで話しても平気そうな気がした。


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正直、ディズニーシーは裕太系の小学生男子には向いていないと思います。周助系の小学生男子(どんなの?)なら多分大丈夫。